
Kuzma/iStock
海外取引の現場では、案件が動き出してから法務部門に声がかかることが少なくない。
「条件はだいたい固まったので、あとは契約書をお願いします」
この一言に、海外ビジネスが抱える多くの問題が凝縮されている。
法務が後回しにされる会社ほど、トラブルに巻き込まれやすい。だが、それは法務部門の能力の問題ではない。法務に期待している役割そのものが間違っているのである。
海外取引において、契約書は「すべてを守ってくれる魔法の道具」ではない。契約書は、あくまで事前に決めた取引の枠組みを文章化するものだ。枠組み自体が曖昧なままでは、どれだけ精緻な契約書を作ってもリスクは消えない。
特に見落とされがちなのが、責任の所在だ。
- 誰が最終需要者を確認するのか。
- 輸出管理上の判断は誰が行い、どこまでを文書で残すのか。
- 制裁リスクが顕在化した場合、誰が取引を止める権限を持つのか。
これらが整理されないまま契約書作成に入ると、法務は「書けない契約」を前に立ち尽くすことになる。結果として、現場からは「法務が遅い」「細かいことを言いすぎる」という不満が噴き出す。
海外ビジネスで成功している企業は、法務を“最後のチェック係”として扱っていない。
むしろ、判断の設計段階に法務的視点を入れている。
これは、法務部門がすべてを決めるという意味ではない。契約以前に、「この取引は何を前提に成立しているのか」を整理する役割を担っているということだ。
契約書より先に決めるべきなのは、
- リスクを誰が引き受けるのか
- どのリスクは許容し、どこからが許容外なのか
- 問題が起きたとき、どこで止めるのか
これらを言語化できない企業ほど、「とりあえず契約書で何とかしてほしい」と法務に期待する。
だが、海外取引において、契約書は盾ではなく、設計図である。
設計が曖昧なままでは、どんな盾も機能しない。
法務を後回しにする会社は、リスク管理を後回しにしている会社でもある。海外ビジネスに本気で取り組むなら、契約書の前に、判断の順番を見直す必要がある。






