
要旨
本報告書は、2020年代半ばの日本政治における地殻変動、とりわけ2026年1月に結成された立憲民主党と公明党による「中道改革連合」の政治的・社会学的意味を包括的に分析するものである。
本稿では、この政治再編を単なる政局や数合わせの選挙戦術としてではなく、戦後日本の政治参加を支えてきた「中間集団(Intermediate Groups)」の機能不全と、それに伴う「無縁社会」化の帰結として捉える。
1964年の結党以来、都市部の「大衆」を組織化し、高度経済成長期の歪みを受け止める受け皿として機能してきた公明党とその支持母体である創価学会は、2020年代に入り構造的な崩壊の危機に直面している。
比例得票数の長期的推移、創価学会員の高齢化と集票システムの疲弊、そして立正佼成会など他の宗教団体の動向を交差分析することで、かつて日本政治の安定装置であった「組織票」の終焉と、それに代わる新たな政治的流動性の時代を検証する。
第1部:2026年の政治的衝撃 ―「中道改革連合」の解剖
1.1 自公連立の終焉と新たな極の形成
2026年1月15日、日本政治は1999年以来続いてきた自由民主党と公明党による連立政権の枠組みが決定的に崩壊するという、歴史的な転換点を迎えた。立憲民主党と公明党は党首会談において新党「中道改革連合(略称:中道)」を結成することで合意し、約四半世紀に及ぶ自公協力体制に終止符が打たれた※1)。
この劇的な再編の直接的な引き金となったのは、高市早苗政権の誕生とその政策路線である。高市首相が掲げる「責任ある積極財政」や、外交・安全保障政策における急進的な保守化・右傾化は、公明党が長年掲げてきた「平和の党」「福祉の党」としてのアイデンティティと決定的に対立した※2)。特に、非核三原則の見直し論議や、憲法改正による集団的自衛権の全面容認、憲法9条2項の削除といった議論が与党内で加速したことは、公明党にとって連立維持を正当化不可能なものとした※2)。
「中道改革連合」は、形式上は両党が存続したままの連合体であるが、その実態は選挙制度に適応するための生存戦略である。公明党は小選挙区での独自候補擁立を事実上放棄し、比例代表への特化を選択した。対価として、立憲民主党は比例名簿で公明党候補を優遇し、公明党の組織票(創価学会票)が小選挙区において立憲候補へ流れる仕組みを構築した※2)。
これは、かつて1990年代に非自民勢力が結集した「新進党」のモデルを彷彿とさせる動きであり、政権交代可能な勢力の再構築を目指す試みである※1)。
1.2 高市ドクトリンと中道の疎外
高市政権下での自民党の変質は、公明党を「中道改革連合」へと追いやる構造的な圧力となった。市場では高市政権への期待から「高市トレード(円安・株高・債券安)」が発生していたが、一方でその副作用としてのインフレや金利上昇が国民生活、特に公明党の主要支持層である低所得者層や年金生活者を直撃していた※2)。
経済政策以上に決定的だったのはイデオロギーの乖離である。公明党は結党以来、平和主義を党是としてきたが、高市政権の安保3文書改定や憲法改正への前のめりの姿勢は、創価学会女性部(かつての婦人部)を中心とする平和志向の強い支持層からの突き上げを招いた。
公明党にとって、自民党のブレーキ役としての機能が果たせなくなった以上、連立に留まることは党の自己崩壊を意味していたのである※2)。
第2部:公明党の党勢推移に関する長期的定量分析(1964年-2025年)
「中道改革連合」への参加は、公明党の攻めの選択ではなく、党勢の不可逆的な衰退が生んだ苦肉の策である。1964年の結党から2025年に至る国政選挙データを時系列で分析すると、同党の集票力における「3つのフェーズ」が浮かび上がる。
2.1 拡大期と安定期:都市底辺層の組織化(1964年-2005年)
公明党は高度経済成長の最中、地方から都市へ流入した労働者層を基盤として拡大した。当時の彼らは、大企業中心の「会社共同体」にも、既成労組中心の「社会党・共産党」にも属さない「社会の余剰層」であった。
創価学会という宗教的コミュニティは、これら「寄る辺なき個人」に対し、精神的救済と現世利益(生活相談、互助)を提供することで強力な集票マシンを構築した。
この集票力は、自公連立政権下でピークを迎える。
- 2003年衆院選:比例得票数は約818万票※4)。
- 2005年衆院選:小泉純一郎首相による「郵政解散」の熱狂の中で、公明党は過去最高となる898万票を獲得した※5)。この「約900万票」という数字は、創価学会の組織力が人口動態的にも活動量的にも頂点にあった瞬間を示している。
2.2 停滞と侵食の時代(2009年-2021年)
2005年を頂点として、公明党の得票力は緩やかな減少トレンドに入る。2009年の民主党への政権交代時、公明党は805万票を獲得し踏みとどまったが5、その後、自民党が政権復帰した2012年衆院選では711万票へと大きく票を減らした※6)。
- 2014年衆院選:731万票※7)。
- 2017年衆院選:698万票※8)。ついに「700万票」の壁を割り込む選挙が現れ始めた。
- 2019年参院選:653万票※9)。
この時期の特徴は、絶対得票数が減少しているにもかかわらず、低投票率に助けられて議席維持や「得票率」の微増が見られた点である。しかし、これは「組織票の固さ」を示すと同時に、外縁部(F票:フレンド票)が剥落しつつある予兆でもあった。
2.3 構造的崩壊:「600万票」の攻防(2022年-2025年)
2020年代に入り、緩やかな減少は「雪崩」へと変わった。
- 2022年参院選:比例得票は約618万票へ急落※10)。安倍晋三元首相銃撃事件に伴う旧統一教会問題が、宗教と政治の関係に対する世論の厳しい視線を招き、公明党の集票活動にも深刻な逆風となった。
- 2024年衆院選:衝撃的な596万票という結果に終わる※11)。前回比で約115万票減となり、党が至上命題としてきた「600万票」の防衛ラインがあっけなく決壊した。議席数も24議席(公示前32)へと激減し、特に大阪の全小選挙区で日本維新の会に敗北したことは、党の足元である関西基盤の崩壊を象徴した※11)。
- 2025年参院選:さらに減少が進み、比例得票は521万票まで落ち込んだ※12)。
こうしたデータは、公明党が2005年のピークから2025年までの20年間で、その集票能力の40%以上を喪失したことを示している。これは単なる一時の不調ではなく、支持母体の人口動態的な消滅プロセスであると結論付けられる。
第3部:集票マシンの機能不全と創価学会の変容
公明党の衰退は、支持母体である創価学会の社会学的変容と完全にリンクしている。かつて「最強の集票マシン」と恐れられた組織は、なぜ機能を停止しつつあるのか。
3.1 会員の高齢化と「信仰の継承」の失敗
創価学会の公称会員数は827万世帯とされるが※15)、実際の選挙で動員可能な「実数」は得票数から推測するに200万~300万世帯程度まで縮小していると考えられる。
決定的な要因は会員の高齢化である。データによれば、創価学会の一世信者(自ら入会した層)の74%は20代・30代で入会しているが※17)、この入会のピークは1950年代から70年代の高度成長期であった。つまり、組織の熱量を支えてきたコア層は現在70代後半から90代に達しており、死亡や施設入居による自然減が加速している※18)。
一方で、二世・三世信者への信仰継承はスムーズではない。彼らは「貧困からの救済」という原体験を持たず、生まれた時から一定の経済水準にあるため、宗教にすがる切実さが希薄である。彼らにとって学会活動や選挙運動は「義務」や「負担」として映り、組織への帰属意識は親世代に比べて著しく低い※19)。
3.2 「F票」戦略の限界と社会的スティグマ
公明党の選挙戦術の要であった「F票(Friend票)」、すなわち会員が知人・友人に投票を依頼する手法も、現代社会の構造変化により破綻している。
- 物理的障壁:都市部のオートロックマンションの普及やプライバシー意識の高まりにより、かつてのような戸別訪問や近隣対話が物理的に不可能になった。
- 心理的障壁:2022年以降の旧統一教会問題を契機に、社会全体で「政治と宗教」に対する忌避感が強まった。「カルト」というレッテル貼りが容易に行われる風潮の中で※20)、会員が外部の人間に公明党への支援を口にすることは、従来以上の心理的コストとリスクを伴う行為となった。
- デジタル・デバイド:組織はSNSやYouTube活用へ舵を切っているが※15)、対面での人間関係(ドブ板)に依存していた従来の集票力の代替には至っていない。
3.3 社会階層のシフトとアイデンティティの拡散
宗教学者の島田裕巳らが指摘するように、創価学会の拡大は、戦後の都市下層民(貧・病・争)を「中間集団」として包摂する機能に支えられていた※22)。しかし、日本社会全体が豊かになり、会員の子弟が高学歴化・ホワイトカラー化するにつれ、彼らはもはや「救済されるべき対象」ではなくなった※19)。
公明党がかつて持っていた「大衆の味方」「福祉の党」という強烈なアイデンティティは、会員自身が「体制側(中流以上)」に移行したことで求心力を失った。高学歴化した三世会員にとって、自民党の補完勢力として振る舞う公明党には魅力を感じず、かといってかつてのような革命的情熱も持ち合わせていない。
この「熱狂の喪失」こそが、得票減の深層にある。
第4部:宗教界全体の地盤沈下と政治的影響力の減退
公明党の危機は特異な現象ではなく、日本の新宗教全体、ひいては宗教的「中間集団」全体の衰退の一局面に過ぎない。
4.1 立正佼成会の野党シフトとその限界
創価学会と並ぶ巨大教団である立正佼成会(約240万人)※15)もまた、政治的影響力の低下と路線の変更を余儀なくされている。かつて自民党を支援し、公明党と対抗関係にあった立正佼成会だが、2010年代以降、安保法制や改憲への懸念から自民党と距離を置き始めた。
2025年においては、立憲民主党やその他の野党候補への支援を明確に打ち出している※23)。特に「平和活動」を教団のアイデンティティとする彼らにとって、タカ派色を強める高市自民党は支援し難い存在となった。
しかし、PL教団や生長の家と同様に、立正佼成会もまた信者数の減少と高齢化に直面しており※25)、かつてのように「組織の指示で数万票が動く」という集票力は失われつつある。宗教団体の推薦が当落を決定づけた時代は終わったのである。
4.2 既成宗教・新宗教の「コミュニティ機能」の喪失
戦後日本において新宗教が果たした最大の機能は、都市部における「コミュニティの代替」であった。地縁・血縁から切り離された人々に、擬似的な家族関係と相互扶助のネットワークを提供したのが新宗教であった※18)。
しかし、社会保障制度の充実(皆保険・皆年金)や、コンビニエンスストア等の生活インフラの整備により、宗教団体が提供していた「互助機能」の必要性は低下した。宮台真司が指摘するように、「不条理」を解釈する装置としての宗教の役割も、科学合理主義や消費社会の「終わりなき日常」の中で後景に退いた※26)。
人々はもはや、生きるための糧や精神の安定を求めて宗教団体に帰依することはなくなり、結果として宗教団体は政治的動員力も失ったのである。
第5部:理論的考察 ―「中間集団」の崩壊と無縁社会
公明党と創価学会の衰退を社会学的に俯瞰すれば、それは日本社会における「中間集団(Intermediate Groups)」の全般的崩壊という文脈で理解されるべきである。
5.1 デュルケーム的機能の喪失
エミール・デュルケームが論じたように、国家と個人の間に立ち、個人をアノミー(無規範状態)から守る緩衝材としての「中間集団」は、健全な民主主義社会に不可欠である。かつての日本には、以下の三つの強力な中間集団が存在し、政治参加の基盤となっていた。
- 企業・業界団体(自民党支持基盤)
- 労働組合(社会党・民主党支持基盤)
- 宗教団体・地縁組織(公明党・自民党支持基盤)
2020年代半ば、これら全てが機能不全に陥っている。
- 終身雇用の崩壊と非正規雇用の拡大により、企業への忠誠心に基づく組織票は解体した。
- 労働組合の組織率は低下の一途をたどり、立憲民主党を支える「連合」の集票力もかつての面影はない。
- そして最後に残った強固な岩盤であった宗教団体も、前述の通り高齢化と世俗化の波に飲み込まれた。
5.2 宮台真司の「アジール」論と「共同体の空洞化」
社会学者の宮台真司は、現代日本社会を「感情の劣化」と「共同体の空洞化」によって特徴づけている※27)。彼によれば、かつて宗教や共同体が担っていた「アジール(聖域・避難所)」としての機能が失われたことで、人々は社会システム(法・損得勘定)の中に剥き出しで放り出された。
「社会」に適応するために「仮面」を被り続ける個人は、本音を晒せる場所(共同体)を失い、孤立を深める。この「無縁社会」においては、他者への信頼や互助の精神(F票の基盤)が育ちにくい。
宮台が指摘する通り、「社会が許さないことを宗教が許す」というアジール性が失われた宗教団体は、単なる集金・集票システムとしてしか認識されず、もはや人々を惹きつける磁力を失っている※28)。
5.3 「中道改革連合」の社会学的意味
この文脈において、2026年の「中道改革連合」の結成は、衰退する二つの古い中間集団(労組と宗教)が、互いの欠損を埋め合わせようとする「弱者連合」としての側面を持つ。
立憲民主党(労組依存)と公明党(学会依存)の提携は、新たな価値観や支持層の開拓ではなく、残存する組織票を効率的に配分することで延命を図るシステムである。しかし、これは「無縁社会」化して浮遊する大多数の有権者(無党派層)や、既存の中間集団から排除された層(ロスジェネ、若年非正規)の受け皿にはなり得ていない。
5.4 新たな「不安」の受け皿:参政党現象との対比
既存宗教が衰退する一方で、参政党のような新興政治勢力が台頭した現象は示唆的である。
島田裕巳の分析によれば、参政党はかつての創価学会と同様に、社会の主流から疎外された人々の「不安(食、健康、教育への不信)」を吸収することで急拡大した※22)。
これは、人々の「つながりへの渇望」や「救済への希求」自体が消滅したわけではないことを示している。かつて創価学会が担っていた「社会的不安の吸収装置」としての機能が、機能不全に陥った宗教団体から、陰謀論的ナラティブやナショナリズムを共有する新たな政治運動(ネット上の連帯)へと移行したのである。
公明党の衰退は、この「機能的代替」のプロセスにおける敗北を意味する。
第6部:結論と展望 ― ポスト組織選挙時代の到来
6.1 公明党と「中道改革連合」の行方
公明党が「中道改革連合」を通じて政治的延命を図ることは、短期的には一定の合理的選択である。自民党の単独過半数を阻止し、キャスティングボートを握ることで、政策実現力(福祉、平和)をアピールできる可能性があるからだ。
しかし、長期的には、支持母体の人口動態的消滅という根本問題は解決されない。「宗教政党」としての看板を下ろし、真の「中道福祉政党」へと脱皮できるかが問われるが、創価学会との一体性が強すぎる現状では、その転換は極めて困難である。
2025年の参院選での521万票という結果は、組織の「死」が不可避であることを告げており、今後10年以内に公明党が単独で議席維持可能な閾値を下回る可能性が高い。
6.2 日本社会への含意
公明党の危機は、日本社会における「共同体の喪失」の最終局面を象徴している。戦後民主主義を裏で支えてきた「組織による動員」というシステムが終焉を迎え、代わって現れたのは、孤立した個人がSNSやポピュリズムの風に煽られて流動する、極めて不安定な政治空間である。
「中道改革連合」は、かつての中間集団の残骸を組み合わせて作られた防波堤に過ぎない。日本社会が直面している真の課題は、崩壊した古い中間集団を懐かしむことではなく、個人化・流動化した社会において、いかにして新たな「連帯」や「相互扶助」のネットワーク(新しい中間集団)を構築するかにある。それが無き限り、日本の政治は「孤独な個人」たちのルサンチマンと不安によって漂流を続けることになるだろう。
【引用文献】
※1)<1分で解説>立憲・公明新党のモデルは? 野党合従連衡を振り返る
※2)立憲民主党と公明党が新党結成で合意:中道勢力を結束させ高市保守政権と対峙
※3)新党「中道改革連合」が設立 略称は「中道」 公約策定など急ぐ – TNCニュース
※4)比例代表党派別得票数 (得票順) – 総務省
※5)沿革 | 党概要 – 公明党
※6)公明31議席獲得の大勝利 | ニュース – 公明党
※7)第47回衆院選結果分析 | ニュース – 公明党
※8)公明、29議席で再出発 | ニュース – 公明党
※9)第25回参議院議員選挙
※10)第26回参院選の結果詳報 | ニュース – 公明党
※11)第50回衆院選 結果分析 | ニュース – 公明党
※12)第27回参院選の結果詳報 | ニュース – 公明党
※13)沿革 | 公明党について
※14)第24回参院選の結果分析 | ニュース – 公明党
※15)新興宗教の信者数とAI導入の実態を徹底比較 ― 統一教会・創価学会・幸福の科学の戦略分析
※16)創価学会員に芸能人が多いのはなぜ?巨大組織の一人勝ちが続く納得のワケ
※17)札幌市における創価学会員の現状 調査票調査結果報告
※18)再認識される日本の宗教問題 今、宗教は大きな転換点にある(後) – データ・マックス
※19)宗教はなぜ衰退し、世界はどこへ向かうのか?―創価学会の興亡から、エマニュエル・トッドの「宗教ゼロ」社会まで|島田裕巳 – note
※20)共同体が崩壊した日本にあって信仰に基づく連帯が持つ可能性――社会における宗教の役割・機能について | WEB第三文明
※21)創価学会“連立離脱の衝撃”を宗教学者の島田裕巳氏が解説!旧統一教会の「解散命令がすんなり進まない理由」とは? – ダイヤモンド・オンライン
※22)参政党の研究【2025参院選後の改訂版】|島田裕巳 – note
※23)立憲民主党 2025年度活動計画
※24)2025年夏参院選 障害者政策に関する、政党への公開質問状とその回答
※25)止まらない日本の新宗教の衰退 – SBクリエイティブOnline
※26)『聖と俗』と「宮台教」の栄枯盛衰|些流透 – note
※27)【文字起こし(前編)】宗教と自意識の檻~私たちの生きづらさはどこからきて、どこへいくのか?
※28)『正しさ』の不可能性と現代宗教
編集部より:この記事は島田裕巳氏のnote 2026年1月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は島田裕巳氏のnoteをご覧ください。






