私どもが99年に開発し、当時全カナダで最も高額な全99戸の集合住宅。この開発前夜、実は当時の社長と悩んだことがあります。建築系の社長から「お前、富裕層の生活なんてわからないのにどうやってこの開発するんだよ」と。私が打って出たのはいろいろな富裕層の人の家に行き、生活を見て感性を理解することでした。家に行けなくても話をするだけで価値観はなんとなくわかるものです。また奥様の意見がどれだけ尊重されるかも注意深く観察しました。
見よう見まねだったかもしれませんが、すぐに全戸完売。600㎡の2階建てペントハウスは5億円で売却したのですが、10年ぐらい前に24億円で転売されていました。
今、61艘のプレジャーボートを預かるマリーナの中に事務所を構えているので接する人たちは皆、私の顧客であり、日本のカテゴリーでいう富裕層か、超富裕層か、ウルトラ富裕層です。(ウルトラ富裕層は私が勝手につけた名称です。日本には金融資産5億円以上を超富裕層というだけでその上のカテゴリーがないのです。30億円越えぐらいのウルトラ層は普通にいます。)彼らと日常的に接していると意外と面白いな、と思うのはさほど派手な生活はしていないのです。それと富裕層向けとして様々なサービスを押し付けるビジネスもありますが、彼らは既に十分な知識やノウハウを持っていてサービスそのものを必要としないのです。つまり富裕層になる前提となる人脈と知識と経験と自分で調べる能力があるので、どこの馬の骨ともわからないような会社に自分の財を託すことはないのです。
では日本の富裕者層向けの話をしましょう。私の知り合いが数年前に八ヶ岳のふもとに別荘を購入しました。東京から車で2時間半ぐらいでしょうか?「どのぐらいの頻度で?」と聞けば買った当初は「毎週のように」がだんだん間延びしていき、「月に一回、行けるように努力」が「冬はいかないね」という具合。別荘はボートと同じで買った時と売った時が最も嬉しい時。なぜ所有期間中は苦しいのかというとハイメンテナンスコストと義務感なのです。「行かなくちゃ」「乗らなくちゃ」です。
コストパフォーマンスの高い「シェア別荘」というのもあるのですが、自分の部屋ではないので私物を置けない弱点があります。それだったら高級ホテルや旅館の方がサービスもいいし、楽だと思います。
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プライベートジェットをシェアするビジネスもあります。1/6所有で17億5千万円プラス整備、メンテナンス費用(日経)だそうです。私は80年代終わりから90年代にかけて秘書業務としてプライベートジェットに乗って世界を廻り、挙句の果てにその運営会社(アメリカ)の副社長までやらせて頂きました。ずいぶん乗せてもらい思ったこと。それはオーナーの所有欲と儲かっているよう自分を大きく見せる最高の手段だな、と。アメリカ国内ならいいですが日本は降りられる空港の制限が厳しすぎるし、パイロットを抱えるのは安くないのです。国際間移動なら正直、民間機がはるかに速いし楽です。
では金融機関の富裕層向けビジネスはどうでしょうか?プライベートバンキングに富裕層向けサービス。みずほ銀行では資産活用から名医紹介、事業継承の助言までされるそうです。高級マンションのコンシェルジュサービスに金融部分が上乗せされたようなものでしょうか?
ちなみに高級ホテルのコンシェルジュサービスはドラマでも時折取り上げられます。ではそんなにすごいかといえば私の経験では「自分で調べたほうが早い」でした。もちろん自分で調べられない方々には便利でしょうけれど自分でできる層の方にとって富裕者層向けサービスが本当にウケるのか疑問なのです。
冒頭に書いたように富裕者層の価値観を理解しないと富裕者向けサービスの提供はたやすくありません。例えば私がコンシェルジュに立つとします。あるお客様から「今夜、素敵なところで夫婦で食事をしたいのだが」と言われたとき、私は逆立ちしても「ご予算は」とは聞きません。それは最も失礼だからです。「素敵」とはおカネに糸目をつけないという意味ではないのです。代わりに3つ候補を差し上げます。店のタイプも金額もバラバラです。そこでお客様がどういう反応を示すかで好みの絞り込みをかけるのです。日本食にしますか、洋食にしますか、とも聞きません。それを聞けば旅行の非日常感が無くなってしまうのです。
富裕層向けのサービスとは富裕層が「ほう!」と思うようなサービスのことなのです。つまり知識や経験が豊富なその人の上を行くサービス提供ができるか、です。それを養うには想像力と広い見識だと思います。若干のポジティブサプライズも大事だと思います。富裕層はお金に対する意識度レベルがまるで違うのです。価値がなければどれだけ安くても買いません。
私の日本法人の銀行担当者から法人で投資信託を買ってくれとせがまれていますが、保留しています。理由は銀行扱いの投資信託の利回りより自分でやる方が何倍も稼げるから。とはいえ、銀行に世話になっている部分もあるのでそこは大人の対応をしますけれどね。
日本ではにわかに富裕層が増えてきている中でその富裕層目当てのビジネスも立ち上がってきているのですが、富裕層は富裕層にしかわからない価値観があるわけで彼らの財布の紐を緩めるのはたやすくないのであります。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2026年1月18日の記事より転載させていただきました。