首相官邸HPより
高市首相の衆院解散表明に聞く耳を立てたのは、国民有権者、支持者ら政治関係者ばかりでなく市場です。高市氏は政治市場の声を重視し、株式・債券などの証券市場、為替市場などの「市場の声」にどこまで耳を傾けたか、聞く耳を持っているかです。市場は高市氏の言葉なんかに惑わされず、いつも本音を探っている。特定の国民、支持者はだませても、無数の次元、要素から形成される市場を中長期的の期間ではだませない。それをどこまで知っているのか。心配しています。
市場が驚いたのは「本丸は責任ある積極財政で、これまでの経済財政政策を大きく転換するものだ。行き過ぎた緊縮志向、未来への投資不足を高市内閣で終わらせる」と、断言したことです。「行き過ぎた緊縮志向」だったから積極財政に転換するといったのです。
市場は「あれあれ、これまで本当に緊縮財政だったの。嘘でしょう。アベノミクスで拡張、膨張政策を続けたから、国債発行残高がGDPの2倍以上という世界最悪の結果を招いたのではないの」と、見破っています。
これまでは緊縮財政だったの
「積極財政」を正当化するために、「これまでは緊縮財政だった」という虚構を作っているのです。市場はそんな嘘を見破っていますから、財政赤字が増えるとみて、長期金利が2・275%(10年物国債利回り)という27年ぶりの高水準(債券価格の下落)をつけたのです。
消費税については「軽減税率(8%)を適用されている飲食料品については、2年間に限り、消費税の対象としない」と断言しました。市場は「そんなことをすれば、毎年5兆円の税収が減り、財政赤字が増える」、「税率引き下げを待って、買い控えが起きる」、「何万円もするタラバカニなどを買う富裕層ほど得し、数百円のコンビニ弁当に頼っている低所得層が得する金額はずっと少ない」とみなします。
さらに「2年後にもとに戻すのは難しく、暫定措置が恒久化するだろう」と、見ているでしょう。「飲食料品をゼロにする一方、標準税率EUのように最低15%に引き上げ、穴が空かないようにする」というのなら分かる。政治的に不評を買うからそれもいわない。
野党に対抗するため財政赤字を増やす
突然、消費税減税を言い出したのは、新党「中道改革連合」が、これまた無茶な「食料品は恒久的にゼロ」を打ち出し、その対抗措置にするためです。安倍・元首相がよくやった手法です。野党の政策をどんどん自民党の政策に取り込み、選挙の争点にならないようにした。財政のことを忘れ、財政支出を増やし、赤字の山を作ったのです。高市氏が自称する「安倍氏の継承者」の意味をどう考えているのか心配になる。
市場は「防衛予算もトランプ政権の要望を受け入れ、高市政権が続けば、GDP比2%を3・5%へと引き上げよう」とみます。現在の防衛予算は9兆円がGDP比2%になると12兆円、さらに3・5%だと21兆円なります。その流れが見えてくる直前になって、突然「飲食料品の消費税ゼロ」を言い出した。「責任ある積極財政」とは「無責任な選挙対策財政」かもしれない。
国債利払い費だけで10年後、25兆円
国債利払い費は10年後には25兆円と市場はみて、長期金利が急騰しています。国債の利払い費は、28年度には16兆円に増え、さらに34年度には25兆円との見通しがなされています。元本返済を含めた国債費は26年度予算案では31兆円で、社会保障費の39兆円に迫っています。もうこれ以上、日銀に買わせてきた赤字国債をを増やすわけにはいきません。日銀は政府の子会社と錯覚しているのは、主要国では日米だけか。
安倍政権の時は将来の財政危機を警告する指摘がありました。「それが高市政権になって一気に顕在化しよう」なのです。そんな時に「飲食料品の消費税ゼロは無責任というにつきる」ということでしょう。
高市氏の解散宣言が浮上した際、麻生副総理は「解散はないでしょうね」といい、萩生田自民党副幹事長は「一人相撲のやりすぎ」とつぶやきました。田中均・元外務省審議官は「空恐ろしくなった。財政政策も安保政策もまず実績を示すべきなのに、まず選挙。トランプ政権は悪化した日中関係をどうするかという課題に言及しない」と嘆いています。人の発言は単純で分かりやすい。市場の声は複雑で、聞く能力が必要です。それはあるのか。
日本版のトラスショックが起きる日
22年9月に就任したトラス英首相は大規模な減税政策を行おうとして、金融市場が大混乱し、わずか44日で辞任に追い込まれました。このトラスショック(国債暴落、金利急騰)をどこまで研究したのか。高市氏の財政政策は軌道を外れています。「高市政権がこの調子で長続きすると、じわじわとトラスショックの危機が迫ってくる」が市場の本音でしょう。
「高市早苗に国家運営を託していただけるのか、国民に直接、判断いただきたい」と、語りました。高市氏に対し「国民の判断」以前に、市場がとっくに警鐘を鳴らしているのです。必要なのは「市場の声を聞く耳」です。
「市場の声」を聞いて、危機が発生する前に経済政策を修正していかなければ、日本版のトラスショックが避けられません。政治決断ができない場合は、政治家に代わって市場が氾濫を起し、軌道修正させる。市場の氾濫は大きな傷と痛みを経済、国民生活に与えます。
編集部より:この記事は中村仁氏のnote(2026年1月20日の記事)を転載させていただきました。オリジナルをお読みになりたい方は中村仁氏のnoteをご覧ください。