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ここ数日、長期金利(10年国債利回り)が急速に上昇している(1月20日一時2.38% 約27年ぶり)。背景には、衆議院解散総選挙を控えた消費税減税論と、それに伴う国債発行増加への警戒感があるとされている。金融市場では、将来の財政規律に対する不透明感が高まると、長期金利が先行して上昇基調に動きやすい。
一方、不動産市場を見ると、都心部を中心に賃料上昇が続いており、「金利が上がれば不動産価格は下がる」という単純な図式では整理できない状況にある。金利上昇と賃料上昇という、相反する力が同時に働く局面に入っていると言える。
金利上昇が不動産価格に与える基本的な影響
不動産投資の世界では、長期金利は事実上の基準金利であり、投資家が期待する利回り、すなわちキャップレート(還元利回り)の土台となる。
長期金利が上昇すると、金融機関の貸出金利も上昇しやすくなり、借入比率の高い投資では支払利息が増加する。その結果、同じ賃料収入を得られる物件であっても、手元に残るキャッシュフローは目減りする。
このキャッシュフローの悪化は、投資家の取得意欲を抑制し、結果として「これ以上高い価格では買えない」という判断につながる。すなわち、金利上昇はキャッシュフローの悪化を通じて不動産価格に下押し圧力をかけるという構造になっている。
さらに、金融機関の融資姿勢も変化する。金利上昇局面では、融資審査が厳格化され、借入可能額が抑えられるケースが増える。これは市場全体として「買い手が減る」ことを意味し、価格の上限を抑える方向に作用する。
それでも価格が支えられる理由——家賃上昇という逆方向の力
もっとも、現在の市場では金利上昇の悪影響を打ち消す要因も存在する。それが家賃の上昇だ。
居住用不動産、とりわけ東京都心部の賃貸マンションでは、賃料が上昇基調にある。たとえば、都心部の平均賃料はここ数年で年率3〜5%程度上昇し、約30年ぶりの高い伸び率を記録しているとされる。背景には、建築費高騰による供給制約、都心回帰の進展、インフレによる生活コスト全体の上昇がある。
賃料は不動産収益の源泉であり、賃料上昇はキャッシュフローを改善させる。結果として、金利上昇によるマイナス効果と、賃料上昇によるプラス効果の綱引きが生じている。
事業用不動産、すなわちオフィスやテナントビルでも状況は一様ではない。都心一等地の高品質ビルでは、空室率が5%前後まで低下し、賃料単価も回復傾向にある一方、立地や築年数によっては空室率が10%超で推移し、賃料調整を余儀なくされている物件も少なくない。
市場は一律ではなく、「選別」の段階に入っている
重要なのは、金利上昇と賃料上昇が同時に起きている現在の市場が、決して均一ではないという点だ。
家賃上昇の恩恵を受けやすいのは、立地や用途、需給バランスに恵まれた物件であり、すべての不動産が同じように耐えられるわけではない。
居住用であれば、都心・駅近・築浅といった条件を備えた物件と、郊外で競合が多い物件との差は拡大しやすい。事業用でも、企業集積が進むエリアのビルと、代替性の高いビルとの間で、空室率や賃料の差が明確になりつつある。
注視すべきは「価格」ではなく、その根拠
この局面で企業や投資家が見るべきなのは、単なる価格水準ではない。
長期金利の動向、賃料上昇率、空室率といったデータを通じて、「その価格がどのような前提で成り立っているのか」を確認する必要がある。
たとえば、長期金利が1%上昇しても、賃料がそれ以上に上昇する見込みがあるのか、あるいは空室率の悪化で賃料維持が難しいのかといった点が判断軸となる。
結論:選別眼と資産の組み換えが鍵となる
金利上昇局面は、不動産投資の終わりを意味するものではない。しかし、転売益(キャピタルゲイン狙い)を期待した投機的取引は別にして、まっとうなインカムゲイン狙いの不動産投資を前提にすれば、賃料上昇の恩恵を受けやすい物件と、そうでない物件との格差は、今後さらに拡大していくだろう。
求められるのは、不動産を一律に捉えるのではなく、物件ごとの選別の目を養うこと、そして必要に応じて適切な資産の組み換えを進めることであろう。
市場全体の方向感に振り回されるのではなく、個々の不動産が置かれた条件を冷静に見極め、適切に対処することが、これからの不動産戦略において最も重要なポイントとなる。






