米国防総省は、新たな国家防衛戦略(NDS)を公表し、中国による地域覇権の獲得を阻止することを米国防戦略の中核に据える姿勢を明確にした。トランプ大統領の第2期政権下で策定された今回のNDSは、従来以上に優先順位を明示した文書となっており、特に「中国抑止」を軸に、同盟国の負担分担拡大と米国防産業基盤の強化を強く打ち出している。
Politicoが報じたように、今回の戦略は理想論よりも現実的な力の配分を重視し、米国が同時に直面する複数の脅威を前提とした「選択と集中」の論理が色濃く反映されている。

トランプ大統領 ホワイトハウスXより
四つの重点的取り組み(LOE)
NDSは、国防戦略を以下の四つの「主要な取り組み(Lines of Effort)」に整理している。
第一に「米国本土の防衛」、第二に「対立ではなく力によるインド太平洋での対中抑止」、第三に「同盟国・パートナーとの負担分担の拡大」、第四に「米国防衛産業基盤の抜本的強化」である。
これらは相互に連動しており、単独の地域や脅威への対応ではなく、米国の国力全体を維持・再構築する戦略として位置づけられている。
米国本土と西半球:影響力低下への危機感
NDSは、米国本土の安全保障を最優先課題と位置づけると同時に、西半球全体における米国の影響力低下に強い危機感を示している。19世紀のモンロー主義やルーズベルト・コロラリーに言及しつつ、米国が自らの優位を当然視してきた結果、北極圏のグリーンランドからパナマ運河、さらに中南米に至るまで、敵対勢力の影響力が拡大していると指摘する。
こうした状況は、米国の重要拠点へのアクセスを脅かすだけでなく、西半球全体の不安定化を招き、米国と地域パートナー双方の利益を損なうものだとしている。
中国:覇権阻止が戦略の核心
今回のNDSで最も明確に位置づけられているのが中国への対応である。中国がインド太平洋という「世界経済の重心」を支配する事態になれば、米国の経済的展望、さらには再工業化の可能性そのものが左右されかねないと警鐘を鳴らす。
ただし、米国の目標は中国を屈服させたり、体制転換を迫ったりすることではないと強調する。狙いはあくまで、中国やいかなる国も米国および同盟国を支配できない状況を維持することにある。その上で、中国も受け入れ可能な条件の下での「まともな平和」は可能だとし、トランプ大統領の対中外交は、こうした現実的前提に立脚したものだと位置づけている。
ロシア:脅威を認識しつつ優先度を調整
ロシアについては、米国本土への脅威に備える必要性を認めつつも、欧州における覇権獲得を狙える状況にはないとの認識を示している。欧州NATO諸国は、経済規模や人口、潜在的軍事力においてロシアを大きく上回っており、欧州自身が通常戦力防衛の主たる責任を負うべきだという立場が明確だ。
米国は引き続きNATOに関与するものの、戦力配分においては中国抑止と本土防衛を最優先する姿勢を鮮明にしている。
イラン・北朝鮮:地域同盟の自立を促進
イランについては、核兵器保有を断じて認めない方針を再確認しつつ、同国および「抵抗の枢軸」が近年大きく弱体化しているとの認識を示す。その一方で、軍事力再建の動きには警戒を続ける必要があるとする。
注目されるのは、イスラエルや湾岸諸国を「自らを防衛できる同盟国」と位置づけ、米国は限定的かつ重要な支援を通じて、地域パートナー同士の連携を後押しするというアプローチである。
北朝鮮については、老朽化した通常戦力を抱える一方で、韓国、日本、さらには米国本土を射程に収める核・ミサイル能力の進展を深刻な脅威としている。
同時発生リスクと同盟国の負担分担
NDSは、複数の危機が同時に発生するリスクを前提に、同盟国の負担分担を戦略の不可欠な要素と位置づけている。これまで多くの同盟国が防衛を米国に依存し、自国の防衛支出を抑制してきたが、そうした関係は過去の米国自身の政策によって助長されてきたとも自己批判的に振り返る。
しかし今後は、同盟ネットワーク全体の経済力が潜在的敵対国を大きく上回る点を活かし、より対等なパートナーシップを構築する必要があると強調する。
特に欧州については、通常戦力による防衛の主責任を欧州自身が担い、米国はより限定的で戦略的な支援に回るべきだとの方針が明確に示された。
力に裏打ちされた平和へ
NDSの結論部分では、トランプ大統領の言葉を引用しつつ、米国の目的は侵略や永続的な戦争ではなく「平和」であると強調されている。ただしそれは、安全や自由、繁栄を犠牲にした平和ではなく、力の均衡に裏打ちされた「誇りある平和」でなければならないという立場だ。
米国が求めるのは、敵対国の屈辱や服従ではなく、合理的に定義された米国および同盟国の利益への敬意である。そうした認識が共有されるならば、柔軟で持続可能な勢力均衡と平和は可能だ――それが今回のNDSが示す、米国の戦略的自己認識である。





