米国のニュース雑誌「タイム」誌が入手した情報によると、イランで発生した大規模抗議活動では、わずか2日間で最大3万人が死亡した可能性がある。同誌は24日発表した記事の中で、イラン保健省の高官2人の発言を引用している。それによると、1月8日と9日には、イラン治安部隊によって非常に多くの人が殺害され、当局は遺体の収容と処理に追われた。遺体袋が不足し、救急車ではなく大型トレーラートラックを使用したという。

イラン治安部隊に殺害された抗議デモ参加者の遺体が横たわっている、HRANA公式サイトから
また、米国に拠点を置く人権団体HRANAは23日、これまでにイランの抗議デモで5,002人の死亡を確認したと報告した。内訳はデモ参加者4,714人、政府職員207人、未成年42人、傍観者39人。さらに9,787人の死亡が調査中だ。政府の公式統計によれば、暴動で3,117人が死亡した。インターネットが遮断され、外部との接続が途絶えている現在、情報の検証は難しい。
抗議デモでの死傷者の数字について、イランの最高指導者ハメネイ師自身が語った「数千人の死者」説から、「タイム誌」の最大3万人説まで報じられているが、その数自体が「前例のない数だ」(アムネスティ・インターナショナル)。
戦後最大の欧州の悲劇と呼ばれたボスニア・ヘルツェゴビナ紛争(1992年4月~1995年12月)を思い出す。同紛争では死者20万人、難民、避難民、約200万人を出した。イスラム系、クロアチア系、セルビア系の戦いは終わったが、民族間の和解からは程遠く、民族間の分割が今も進行している。
ボスニア・ヘルツェゴビナのウォルフガング・ぺトリッチュ元上級代表は当時、「ボスニア紛争は内戦だった。外部の侵略を契機に始まり、勝利者と被占領者に分かれる戦争とは異なり、内戦には勝者はなく、敗者しか存在しない」と語り、「冷たい和平」と呼んでいた。
「なぜ今、ボスニア紛争の話か」を説明する。ボスニア紛争は国内の民族間の対立が原因だ。イランの場合は為政者が国民を殺害した。外部からの敵との戦闘で国民が犠牲者となったわけではない。共通点は、両者とも主権国家内での紛争(内戦)だ。そしてぺトリッチュ元上級代表が語ったように、大量の犠牲者が出た国内での紛争(内戦)の場合、「その後」はより厳しくなるのだ。
ハメネイ師は「殺害された国民は外国勢力の犠牲者だ」と、必死に弁明するのは当然の反応だろう。イラン当局が自国の国民を数千人から数万人を殺害したとすれば、たとえ抗議デモが鎮静化したとしても、イラン当局と国民の間には取り消すことが出来ない亀裂と憎悪が生まれてくるだろう。イランの場合、その殺害を指令したのがイスラム教シーア派のアヤトッラー(Ayatollah)と呼ばれる称号を持つ聖職者ハメネイ師だという事実は異常だ。
フォルカー・トゥルク国連人権高等弁務官は23日、ジュネーブで開催された国連人権理事会の緊急会合で、イラン当局の「残忍な弾圧」を非難し、「当局の行動は抑圧と過剰な武力行使のパターンだ。それでは人々の不満を決して解決することはできない」と強調、暴力行為の即停止を求めている。
問題は、数千人、数万人の国民を殺害した為政者が「その後」、国民を統治できるかだ。唯一可能な統治はこれまで以上に強権で国民を弾圧する以外にない。ムッラー政権が米国やイスラエルへの敵意を煽り、国民に愛国主義を鼓舞したとしてももはや限界(レームダック)だ。
トランプ米大統領はイランへの軍事介入の可能性を示唆している。トランプ氏は「我々は大規模な艦隊をそちらの方向へ向かわせている。何も起こらないのが望ましいが、我々は彼らを非常に注意深く監視している」と警告を発している。ハメネイ師を中心としたムッラー政権は機能不全な国体に陥っている。「死に体」だ。

統治体制が激震するハメネイ師 写真はIRNA通信 2026年1月
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年1月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。






