都内杉並区で家賃滞納していた男が、部屋明け渡しの強制執行に訪れた裁判所職員と家賃保証会社員を襲い、会社員が死亡するという衝撃的な事件があった。
最初は生活苦に陥った人を金持ち大家と保証会社がいじめるかの如くの構図かと思ったが、続報でとんでもない事実が明らかになった。何かと問題が指摘される生活保護制度も、ヤクザやサラ金の取り立てまがいと言われる家賃保証会社も、どちらもよろしくない。法制を見直す必要がある。
筆者も最近、賃貸の部屋の管理会社が代わり、保証人は要らないから家賃保証会社と契約しろと言われたので契約した。ところが口座引き落としにしたはずが引き落とされない。電話で確認したら、担当者の女性の態度がなんとなく悪い。元々サラ金で名の知れた大手だが、なんなのか。
当地ではよく見かける不動産屋だったので安心と思ったら、どうも違う。逆に怪しくて怖い。ちょうどその頃、メルマガで家賃保証会社の中の人の記事が回ってきたが、どうも非情な感じで嫌気が差したところでの事件であった。
家賃保証会社は、万一家賃を払えなかったときに保証人の代わりに大家に払ってくれるわけだが、結局は取り立てに来る。賃貸人のためではなく、大家のための存在なのだ。なのに賃貸人から保証料を取る。何の意味があるのか、いまひとつ不可解である。
一応会社サイトには「万一払えない時はご相談ください」とあるが、どう計らってくれるのか。週刊誌記者やライターなら、ここで試しに「払えないんですけど」と電話してネタにするところだろうが、筆者はそこまで暇ではない。
さて、事件の続報で、なんと容疑者は生活保護受給者で、しかも60万円も家賃を滞納していたという。5万5千円ほどの家賃だったと言うから約1年分で、少なくはないが、非常な多額というほどでもない。問題は生活保護だったことだ。
生活保護では、家賃は住宅扶助として全額支給される。払えないはずがない。生活費は生活扶助として、単身で都内なら10万円程度支給される。水道下水も生活保護は無料ないし格安だから、自炊すれば楽に生活できる。なのに家賃滞納とは、その金は一体どうしたのか。
容疑者は40代で元IT関連だったという。コロナの頃に失職したらしいが、生活保護になった理由は定かではない。現役世代は、傷病など働けない理由がなければ生活保護は受給できないから、病気でもしたのだろうか。ちなみに生活保護では医療扶助により医療費は無料である。記事によれば、バイトをしたため生活保護を打ち切られたという。それがいつなのかは不明だが。
生活保護打ち切りと家賃滞納の時期の前後関係次第ではあるが、まず住宅扶助が現金支給であることに、問題の根源がある。支給時に家賃と生活費を分けるわけではないから、金があれば使ってしまう。だらしない受給者は多い。
場末の「365日24時間オープン、救急車は断らない」病院にいたとき、生活保護受給者だらけでMSW(Medical Social Worker:医療ソーシャルワーカー)に聞いた話がある。
「2か月に1度の支給日に30万円くらい入る。気分が大きくなって飲み食い、パチンコ、競馬三昧。悪い友達が寄ってたかって、あっという間に使い尽くす人もいる」
「金がなくなったら次までどうするのか」
「入院するんだよ。医療費タダだから」。
実際、「入院させろ」と勝手にやってきて、医師が「ベッドあるからいいよ」と応じ、ある日突然勝手に退院した生活保護者もいた。結果、生活保護費4兆円の半分は医療費である。これではダメだ。
医療費は現物給付である。同様に住まいも現物給付にしていれば、滞納など起こらないから、このような事件にはならなかったし、無駄遣いも多少は減る。
また現役世代の場合、きちんと就業促進支援をするべきだ。生活保護法第17条には生業扶助として職業訓練も挙げられており、第60条には「被保護者は、常に、能力に応じて勤労に励み、生活の維持及び向上に努めなければならない」とある。最近の現役世代の生活保護受給者を見ていると、多少なりとも働けそうな人も多い。
筆者の在籍する外来でも、働けるはずなのに、なぜか生活保護になった体重100kg超の糖尿病患者がいた。痩せないと治らないと言われ続けての結果である。
本来、生活保護は部分的受給が可能である。実際に訪問看護利用者で、年金はあるが少なく介護費が出せないため、介護扶助だけ受給した例がある。生活扶助費は働いた分だけ減額される仕組みであり、いきなり打ち切ることは本来あり得ないし、してはならない。そこに今回の事件で疑義が残る。生活保護費は「最低生活」レベルなのだから、就業意欲を削がないよう、働くことで自ら生活水準を上げられる仕組みにするべきだ。
生活保護では貯金も禁止されているが、生活保護からの脱却には、仕事のための転居、仕事用の服や作業着・道具の購入、万一の傷病や失業時の備えなど、多少の貯金も必要になる。オールオアナッシングではなく、「苦しいところだけを援ける」ことで、経済的自立を支援するよう、ハンズオンで支える制度運用をきちんとするべきだ。
さらに問題なのは、行政側の生活保護担当者が、必ずしも福祉の専門家ではないことだ。正直、「あの担当者はダメだ」とMSWが言っていた例もあった。ならばいっそ、「手慣れた」社会福祉法人や公益社団法人に委託運営することも考えてよいのではないか。
ちなみに生活保護法には、更生施設等の入居施設の規定もある。実運用を聞いたことはないが、近年増えているメンタル不調での受給者や傷病が長期化した人などについて、住まいの不安がないよう、自炊が心身的に難しければ給食するなど、自立支援寮として整備したらどうか。
また、一部のギャンブルや酒・タバコ依存者の生活改善・向上(義務)のためにも、管理人の目は有益だ。公団住宅などを活用して施設整備をしてもよい。もっとも「たまゆら」火災事件のように「生活保護ビジネス」もあるから、法規制はきちんとするべきだ。
次に家賃保証会社だが、筆者も気分の悪い思いをして月690円を「捨てて」いる。検索すると、やはり良い話はない。貸金業のような規制法がないようで、一部はやりたい放題らしい。サラ金の取り立てのような真似をするとも聞く。実際に違法・不法行為をしでかし、裁判で保証会社が敗訴し、賠償命令が出た例も少なくないようである。
というより、生活保護であれば住宅扶助によって本来家賃は確実に払えるのだから、保証会社の必要はないはずである。では、この件でなぜ保証会社が絡んできたのか。
筆者の経験も含めて考えると、家賃保証会社は単に大家の合法的なヤクザ用心棒でしかない。賃貸人にとっては、まさにヤクザの取り立て屋であり、困ったときに助けてくれるわけでもないのに、毎月金を取るなどカツアゲに等しい。少額だから泣き寝入りするだけである。
そのような家賃保証会社には、きっちり法規制をかけるべきだ。恨まれ、刺されるような酷いことをさせないために、法規制をするのだ。そうすれば、このような事件も多少は減るかもしれない。
とにかく、筆者自身の現在進行形の体験と併せて、実に気分の悪い事件である。これを他山の石とせず、国は生活保護と家賃保証会社について、きちんと制度を正してほしい。
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