リモートワーク解除は「便利な人員整理」

黒坂岳央です。

昨今、世界的にリモートワーク解除、オフィス出社への回帰が起きている。コロナ禍では「今後は都心のオフィスニーズはなくなり、リモートワークが前提の世界になる」という論調だった。

しかし、今や米国ITテックを始め、データドリブン企業が「リモートワークは効率が落ちる」として日本企業もそれに続く格好となった。

これにより、リモートワークを前提とした人生設計が狂った人もいるだろう。郊外に家を買った人や、日常生活をリモートワーク前提で設計した人はオフィス回帰は到底受け入れられないという人もいるはずだ。「オフィス出社なら退職する」という人も出てくる。

筆者は個人的に「これは事実上の退職勧奨の道具になっている面もある」と思っている。

AntonioGuillem/iStock

人員整理になるリモートワーク解除

もちろん、すべての企業が「社員をクビにするためにリモート解除を命じている」といっているわけではない。多くの経営者の本音は、管理のしやすさやコミュニケーションの活性化といった、組織運営の立て直しにある。

しかし、結果としてそれが「人員整理」と同等の効果を持ってしまっている点は否定できない。

特に日本では解雇規制が厳しく、業績不振や能力不足だけでは簡単に社員を排除できない。そのため企業は、配置転換や異動といった間接的な手法を伝統的に用いてきた。オフィス出社要請も、そうした間接的な調整手法の一形態として機能していると見ることができる。

「一律・公平な経営方針」という盾を使えば、違法性を問われることなく、自発的な退職へと追い込める。結果として、企業側にとっては「組織の引き締めやコスト削減」につながってしまう側面を持つ。

意図せずとも、リモートワーク解除が人員調整と同様の効果を発揮しているケースは少なくない。

「優秀な人から辞めてしまう」は本当か?

オフィス回帰を問う際、よく「優秀な人から辞めていく」と言われるが、実態はもう少し複雑だ。実際に流出するのは、「能力が高い人」も含まれるが、状況はもう少し複雑だ。

1つ目は高い市場価値を有する、いわゆるハイスキルワーカーだ。彼らは高いスキルや経験を持ち、リモートワークを前提とした職についており、いつでも他社に移動できる汎用的なスキルを持ってる。

2つ目は物理的制約を持つ人材である。具体的にいえば、育児、介護、地方居住などの理由で、そもそもオフィス出社が難しいワーカーである。

3つ目は、会社への帰属意識が相対的に低い人材である。組織内での評価や昇進よりも、働き方の自由度や裁量を重視し、管理や監視を負担に感じやすい層と言い換えることもできる。

一方で、会社に残る優秀層も存在する。様々な人材が想定されるが、その1つには会社に高いロイヤリティを持って働き、出世や社内の人間関係構築に価値を見出し、その企業内でキャリアを積み上げることに合理性を感じている人材である。また、対面での意思決定や顧客対応、マネジメントに強みを持ち、出社コストを払ってもなお成果を出したい層もここに含まれる。

会社からすれば帰属意識が低く、労働生産性もない人材だけにやめてほしいが、リモートワークを解除するとそれ以外の人も退職してしまう。

だが、トータルで見れば、組織に対するコミットメントが低い人材が流動化しやすくなるという結果をもたらしている。それが意図されたものかどうかに関わらず、企業側にとっては調整効果を持ってしまっているわけだ。

リモートワークを維持する2つの方法

リモートワークを続けたくても、会社が出社要請をするなら従わざるを得ない。では継続したい人はどうすればいいのだろうか。

現実的に取り得る選択肢は限られており、突き詰めると大きく2つに集約される。いずれも簡単ではないが、方向性としては明確だ。

1つ目は強者になること。リモートワークを「労働生産性を高めるから導入したい」という企業は少ない。米国ITテックの世界トップクラスの頭脳が集結する会社でもオフィス回帰に舵切りをしており、それ以外の会社ならなおさらである。企業にとってはオフィス出社はできないが、有能な人材を確保するための手段や、福利厚生のような位置づけに近い。

そうなると、「自分が選ぶ側」になるのが最も期待値の高い行動だ。つまり、強者になる。その企業でしか通用しない人材ではなく、労働市場全体が大きな部署のような感覚で、組織に縛られない圧倒的な専門性を磨き、いつでも「条件の合わない契約」を破棄できる自分を作ることである。

もう1つは独立することだ。独立すれば上司はいなくなるので、すべて自分で決めることができる。

筆者はコロナ禍からずっとリモートワークをしていたし、今もそうだ。商業出版の書籍の原稿を書いたり、こうしたビジネス記事の執筆、またYouTube動画配信など基本的にリモートワークしかできない。たまに講演やテレビ出演、インタビューなどはさすがに外出が必要だが、仕事の99%は自宅と自分で借りたオフィスでやっている。

今起きているリモートワーク解除は誰にとっても他人事ではない。いきなりオフィス回帰命令が下る可能性は誰にでもある。そうなった時、それを青天の霹靂として受け止めるのか、ある程度織り込んだ前提として備えるのかで、その後に取り得る人生の選択肢は大きく変わってくる。

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働き方・キャリア・AI時代の生き方を語る著者・解説者
著書4冊/英語系YouTuber登録者5万人。TBS『THE TIME』など各種メディアで、働き方・キャリア戦略・英語学習・AI時代の社会変化を分かりやすく解説。