ディナノ米国務次官(軍備管理・国際安全保障担当)は6日、スイス・ジュネーブの国連軍縮会議で演説し、「中国が2020年6月に爆発を伴う核実験を秘密裏に行っていた」と主張した。同次官によると、中国は20年6月22日に「核爆発実験を1回行ったほか、複数回の核実験を実施。数百トン規模の核実験の準備も進めていた」という。同時に、核実験が外部に漏れないために地震波を抑制するデカップリング方法を用いたというのだ。

中国の最初の核実験(1964年10月16日、CTBTO公式サイトから)
このニュースを聞いて不思議に思った点は2つある。「なぜ米国は5年半前に中国の核実験を探知していながらこれまで沈黙していたのか」、そして「なぜ今、発表したか」という疑問だ。
米露間の核軍縮枠組みである「新戦略兵器削減条約(新START)」が2月5日に失効したばかりだ。トランプ政権は、ロシアだけでなく中国も含めた3カ国による新たな軍備管理体制を構築したい考えているといわれる。そのためには、中国側を交渉テーブルに着かせる必要がある。そこで中国が過去、極秘に核実験をしていたという情報を暴露して圧力を掛けた、という深読みができる。
中国の沈健軍縮担当大使は「虚偽の言説だ。核問題に関しては最大限の慎重さと責任ある態度を取ってきた」と弁解している。中国は1996年以来、核実験の一時停止(モラトリアム)を厳格に守ってきたという。ロプノール試験場での活動は「既存の核兵器の安全性と信頼性を維持するための通常の保守活動」であり、条約に違反する爆発は一切行っていないというのだ。
米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は2024年1月20日、衛星写真を基に中国が同国西部新疆ウイグル自治区にある核実験地を再改修、拡大していると報じた。中国の習近平国家主席が2013年に就任して以来、人民解放軍が核兵器の強化と増加に乗り出していることはよく知られている。
ウイグル自治区のロブノール(Lop Nor)は旧ソ連カザフスタンのセミバラチンスク核実験所と共に核実験所として知られてきた。ウィーンに本部を置く包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)によると、中国は過去、ロブノールで地上、地下計45回の核実験を行った。同国の最初の核実験は1964年10月16日、最後の核実験(地下実験)は1996年7月29日だ。
中国は核戦力で米ロに後れを取っているという焦りがある。モスクワは冷戦時代、700回以上、米国は1000回以上の核兵器実験を実施してきた。核実験回数では中国は米ロ両国と比較して圧倒的に少ない。核兵器の性能向上を実現するためにはどうしても核実験が必要だというのだ。
中国共産党政権派の環球時報の編集長・胡錫進氏は2020年7月28日、「中国は比較的短期間に核弾頭の数を1000基水準に増やすことが必要だ。米国との戦争に勝利するためには1000個の核弾頭が不可欠だ」という趣旨の論評を掲載し、大きな反響を呼んだことがある。
1996年9月、包括核実験禁止条約(CTBT)が作成され、核物質の爆発を禁止する国際条約の署名、批准が始められたが、条約発効に必要な要件(条約第14条=核開発能力所有国の44カ国の署名・批准)を満たしていないため、条約は依然発効していない。ただし、米英仏ロ中の5カ国は核実験のモラトリアム(一時停止)をこれまで遵守してきた。中国は1996年にCTBTに署名したが、批准していない。
ところで、中国が密かに核実験を行い、CTBTOがそれを探知できなかったとすれば深刻だ。中国の核実験について、CTBTOは、「当該の日(2020年6月22日)に核実験特有の事象は検知されていない」と述べているのだ。米国側の情報が恣意的な誤報か、CTBTOの探知能力問題かだ。
CTBTOの検証体制は、加盟国100カ国以上が運営する300以上の観測所からなるネットワーク「国際監視制度」(IMS)が構築されている。具体的には、地震探査、水中音響探査、超低周波音探査、放射性核種探査技術を駆使し、核実験の爆発がどこで発生しても検知できるようになっている。そしてこれらの施設から収集されたデータはウィーンにある国際データセンター(IDC)に送信され、そこでアナリストが事象を評価し、署名国と調査結果を共有することになっている。
ただし、IMSの探知能力はTNT換算で約0.5キロトン以上の核爆発だ。ロバート・フロイド事務局長は「このレベルを下回る核実験を確実に検知するには、ネットワークを大幅に拡張するか、はるかに強力なデータ分析ツールが必要になる」という。そのうえ、条約が発効していないので、加盟国への現地査察はできない。
中国がワシントンが主張するように核実験を実施していたとすれば、考えられるシナリオは、①核爆発の規模が0.5キロトン以下だった、②デカップリングが成功した、③は①と②の両方が組み合われて行われた場合だ。
ちなみに、地下核実験は岩盤に直接爆弾を埋め込んで行う(カプリング状態)。この場合、爆発の衝撃が周囲の岩石を圧縮・変形させるため、強力な地震波が発生する。デカップリングでは、地下にあらかじめ巨大な空洞を作り、その中心で爆破を行う。爆発で生じた膨大なエネルギーはまず空洞内の空気を圧縮する。衝撃波が周囲の岩壁に到達する頃には圧力が分散され、岩石を塑性変形(元に戻らない変形)させる力は弱まる。その結果、地震波のエネルギーが劇的に減少する。
いずれにしても、中国が「デカップリング」を用いて実験を成功させていたならば、それは既存の国際監視網を無力化する極めて深刻な挑発行為だ。一方、米国が具体的な証拠を示さないまま中国批判を繰り返すのであれば、それは軍拡のための口実作りと言われても仕方がない。

習近平国家主席 中国共産党新聞より
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年2月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。






