顧客を抱き込め!:売り切りから顧客といかに関係を維持するか

製造会社は基本的にはモノを作りそれを売り渡してしまえばそれで終わりになります。しかし、それではせっかく苦労して受注したものも納期をもって完了し、またゼロスタートになってしまいます。そこで一旦獲得した顧客とずっとご縁を頂くことがビジネスモデルとしては優れているとも言えます。

その仕組みは何種類かに分かれると思います。

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一番ポピュラーなのがサブスク型。例えば皆さんの使っているウィンドウズオフィスのソフトウェアでしょう。かつてはパソコンを買えば黙ってついてくるぐらいの勢いで、日本では「オフィス付き機種」などとして売っている場合もあります。しかし世界の中では通常はサブスク型です。日本は極めて珍しいケースでマイクロソフト社は市場が大きいことから日本だけの特別アレンジメントとして扱っていたと記憶しています。

サブスクの強みはそのアプリなりソフトウェアが必要な場合、仮に値上げしようが何だろうが、客から見れば使い続けなくていけない仕組みにあります。例えば私の会社が使っている会計ソフトは以前はソフトの買い切りでしたが、だいぶ前からサブスク型に変わっており、月に1万円ぐらいは払うわけです。高いな、と思っても会計士との絡みや過去のデータとの絡みがあるので他のサービスの代替しにくい特徴があります。

次に不動産事業において完成後にその物件を直接的に運営して収益を上げるケースがあります。これは私が得意とするやり方です。通常、不動産開発業者は相当多額の資金をもって建物を完成させます。よって分譲なり運営会社への売却をしない限りデベロッパーの資金負担はうなぎのぼりとなり経営のリスクも大きくなるわけです。一方で不動産価格が上昇気味である場合は持ち続けることで多額の含み資産を得るとともに運営を通した現金の回収ができます。私の場合は建物所有による減価償却額が運営収入に対して結構な比率になり税額の圧縮ができるのでここに注目して資金負担できる範囲で持ち続ける戦略に出たわけです。

3つ目としてエプソンなどプリンターメーカーなどが得意とする本体で儲けず、トナーで儲けるという手段です。同様に男性モノの髭剃りは替え刃の価格が異様に高いのですが、これも本体ではなく、替え刃で儲けるビジネスモデルになっています。替え刃でも同じブランドでないと本体と適合しないので一度買ったらしばらくはその髭剃りとのおつきあいになるわけです。

顧客を抱き込め、というのは売り切りから顧客といかに関係を維持するかがビジネスのポイントとも言えます。私は建設業との接点が多いのですが、例えば初めに1億円で請負契約を結んだ後、途中で気が変わり設計変更を依頼するとその工事代はびっくりするほど高いのが通常です。理由の1つに足元を見られるからでしょう。他の業者が入り込む余地がない中で発注側の「変更してほしい」=受注側の「追加発注」という意識だと思います。もう1つは多くのケースでは初期設計段階で顧客にとって完璧な完成予想と運営上の盲点を予見することは極めて難しいのです。よって設計変更は必ずあるものであり、それが最終的なコスト増の要因になるとも言えます。

よくオリンピックなどで警備費がかさむという話があります。あれも当初の入札段階では結構たたき合いなので安いわけです。では安値で入札した会社のメリットは何かといえば必ず追加発注があるのです。警備はその典型的なケースで警備エリアの3割5割増しなんて当たり前ですが、コストも3割5割増しになるのです。これが総額が膨大になるからくりとも言えます。そして大会組織委員会などコスト意識はないのです。開催が決定されたイベントをいかに滞りがなく終わらせられるか、ということだけに注力しているので警備費の増大、俺のせいじゃない、という話でしょう。

受注側からすればそこまで計算しているので儲かるようになっているわけです。発注側はそれが悔しいのでそれを回避する善後策をたてざるを得ません。たとえば私などは「設計変更禁止令」を常時出しています。変更したければ完成後、別の業者にやらせるという発想です。つまり騙しあいに近いのですが、業者の言うなりになればすべてむしり取られるとも言えるのです。

日経に「川重、鉄道車両『脱売り切り』国内ローカル線の保守支援 海外も視野、収益改善狙う」とあります。これも今更感が強いのですが、売る側から見れば、正しい戦略です。例えばエレベーターの保守点検は概ね施工したエレベーター会社が継続してやるのが普通です。理由の一つはソフトなどの一部がブラックボックス化されてたりして他社で扱えないこともあるのです。完全なる抱き込み商売ですよね。

自動車整備も面白いもので多くの方は買ったディーラーの持っていくのでしょう。私はディーラーのサービス価格が高いのを知っているうえに余計な修理やサービスを付加されるのが常なのです。英語でいうアップセールという類です。それが嫌で民間の自動車整備会社に持ち込んでいるのです。お互いに知っているので私が何を望んでいるか理解した上でサービスを施してもらっています。

「顧客を抱き込め」これは売る側のキャッチです。買う側は「相手に抱き込まれるな」なのだろうと思います。そういう点ではサブスクがなかなかビジネスして浸透しにくいのはウィンウィンの関係にないからなのかもしれません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2026年2月16日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。