抗議デモ後のイランの近未来と核問題:ハメネイ政権崩壊後のカオス

17日から2日間の日程でスイスのジュネーブで米国、イラン間の高官協議(間接協議)が再開する。両国間では今月6日、オマーンの首都マスカットで協議が行われたばかりだ。2回目となる今回の協議には、イランからアッバス・アラクチ外相、米国はスティーブ・ウィトコフ特使、そしてトランプ大統領の義理の息子であるジャレッド・クシュナー氏が参加し、オマーンが会議を仲介する。

イラン外務省のバガイ報道官「イランは交渉の長期化を願っていない」と強調、IRNA通信、2026年2月16日

米国側は核問題のほか、弾道ミサイル開発やイランの地域武装勢力への軍事支援問題、そして人権問題についても協議したいと考えている。一方、イラン側は協議は核問題一本に絞りたい考えだ。米国はイランの核開発計画の放棄を要求しているが、イラン側は「核エネルギーの平和利用は主権国家の権利だ」として、核開発の全面的停止には難色を示している。

トランプ米大統領は「核問題で合意に達しない場合、イランに対して軍事行為も辞さない」と強調、テヘラン側に圧力を強めている。同大統領によると、空母エイブラハム・リンカーンが1月末に湾岸地域に派遣され、近日中に2隻目の空母ジェラルド・R・フォードが同地域に派遣される予定だ。トランプ氏はイランが合意を拒否したならば、「非常に悲惨な結果になる」と強く警告している。

イラン外務省のエスマイル・バガイ報道官は16日、「第2回交渉のため、包括的な代表団をジュネーブに派遣した。イランは交渉の長期化に何の利益も見出していない」と述べた。それに先立ち、同国のマジド・タフト=ラワンチ外務次官は15日に公開されたBBCのインタビューで、「問題は米国側にある。米国が本気であれば、我々は合意への道を歩んでいると確信している」と述べ、米国との核合意に向けて妥協する用意があることを示唆したが、そのためには「制裁解除に米国が前向きな姿勢を示すこと」を条件に挙げている。

イランは核エネルギーの平和利用を主張してきたが、欧米諸国はイランが核兵器の開発を進めていると非難。テヘラン政府はこれを否定してきた。トランプ政権下で米国は2018年、イランの核兵器開発を阻止することを目的とした2015年の核合意から一方的に離脱し、イランに対する制裁を復活させた。そして2025年6月、イスラエル軍と連携してイランの核関連施設を爆撃した。トランプ大統領は「イランの核開発は完全に破壊した」と豪語してきた。ウィーンに本部を置く国際原子力機関(IAEA)はイランが米国の空爆前に高濃縮ウランを安全な場所に移動し、依然保管しているとみている。

ちなみに、アラクチ外相は16日、「第2回交渉に先駆け、IAEAのグロッシ事務局長とイランの核専門家チームが技術的な詳細について議論を深める」と発表している。イランがIAEAに査察問題で何らかの譲歩案を提示し、米国との交渉を有利に進める計算があるのではないか、と憶測されている。

トランプ大統領は「イランにおける政権交代は起こりうる最良の事態のように見える」と述べる一方、「イランが合意に応じるならば、米国の攻撃を回避できる」とも述べている。一方、イランは米軍の攻撃があった場合、報復措置として湾岸アラブ諸国の米軍基地もイラン側の標的となる可能性があると警告した。イランのメディアによると、イランの精鋭部隊「イスラム革命防衛隊」(IRGC)は16日、ペルシャ湾の要衝ホルムズ海峡で軍事演習を行った。

ところで、イラン最後のシャー(国王)の息子、米国在住のレザー・パフラヴィー氏は、トランプ大統領に対し、イラン国民への支援を求めた。同氏は「イスラム共和国を終わらせる時が来た。政権の改革ではなく、政権を葬ることだ」と、開催中のミュンヘン安全保障会議(MSC)の傍らで述べた。

MSCの開催中の14日、ミュンヘンのテレージエンヴィーゼには約25万人の人々が集まり、テヘラン政府への抗議集会を開いた。パフラヴィー氏が壇上に上がると、一部の人々が「国王万歳!」と叫んだ。多くのデモ参加者はイラン国旗を掲げ、元パフラヴィー国王の写真も見られた。パフラヴィー氏は「今日、ミュンヘンからトロント、ロサンゼルスに至るまで、イラン国民が立ち上がっている」と報告。ミュンヘンでの核協議については、「交渉は何の成果も生まないだろう。イラン政権は時間を稼いでいる。迅速な介入のみが、より多くの命を救い、地域の安全保障を向上させるのに役立つだろう」と語った。

イランでは昨年12月28日、テヘランのバザール商人たちが政府の優遇為替レートの廃止計画に反発し路上でデモをはじめ、抗議デモの波は大学に波及し、瞬くままにイラン全土に拡大。それを受け、イラン治安部隊はデモ参加者に実弾を発射するなど強硬な対応に乗り出す一方、国内の状況が海外に拡散するのを防ぐためにインターネットの接続を切断した。

人権団体によると、1月8、9日、治安部隊はデモ参加者に向けて銃撃し、多数が死亡した。イラン国営テレビによれば、イランで数週間にわたって続いている大規模な抗議活動で、3,117人が死亡したという。米国に拠点を置く人権団体HRANA(HumanRightsActivistsinIran)によると、イランで最近発生した大規模抗議活動でこれまでに4,519人の死亡が確認されている。実数はその数倍に当たるのではないかという。

米国に亡命し、ノースカロライナ州のデュ―ク大学で教鞭をとっているイラン出身のモフセン・カディヴァル氏は独週刊誌シュピーゲル(1月16日号)とのインタビューで、イランの今後について、4つのシナリオを挙げている。①1979年の現憲法に基づく国体の堅持、②議会選出による大統領制、③君主制(1906年憲法)、④民主主義に基づく共和国の建設だ。

問題は最高指導者ハメネイ師主導のイスラム政権が崩壊した場合、その受け皿が存在しないことだ。そのため、現政権が崩壊した場合、人口約9300万人の大国イランがカオスに陥る危険性が排除できない。

トランプ大統領 ネタニヤフ首相 ハメネイ師

なお、多くの国民を殺害したハメネイ師主導の現政権に対して国民は怒りと共に絶望感と閉塞感に陥っている、といわれる。パフラヴィー氏は、イラン国内外に住むイラン国民に対し、テヘラン指導部に対する抗議活動を継続するよう呼びかけている。パーレビ国王時代への王政懐古の動きも一部あるが、トランプ政権の出方も含め、イランの近未来への見通しは不透明だ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年2月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。