マルコ・ルビオ米国務長官の欧州歴訪(2月13日~16日)はいろいろな意味で話題を呼んだ。特に、トランプ米大統領が就任して以来、同盟国の欧州諸国との関係に不協和音が飛び出してきたからだ。米国のグリーンランド買収、ひいては軍事力による領有論まで飛び出し、米欧は戦後、最悪の険悪な関係とまで言われ出した。そのような緊迫した状況下でルビオ国務長官がドイツのミュンヘン、スロバキアのブラチスラバ、そしてハンガリーのブタペストの欧州3都市を訪問した。

ルビオ米国務長官とオルバン首相の記者会見 2026年2月16日 撮影ジェニファー・ヴァルガ記者、オンライン新聞「24・hu」から
ルビオ国務長官はドイツ南部バイエルン州の州都ミュンヘンで開催された第62回ミュンヘン安全保障会議(MSC)に参加し、14日に基調演説した。欧州の政治家の間には昨年のMSCでのバンス米副大統の演説を思い出して、「ルビオ長官は何を話すだろうか」といった一抹の不安があった。
バンス副大統領は昨年2月14日、MSCで20分余り演説したが、その焦点はトランプ政権の政策やウクライナ停戦問題ではなく、欧州の政治批判に注がれた。曰く「欧州にとって脅威は、ロシアや中国ではない。(欧州の)内部だ」と指摘し、「米国が掲げている共通の価値観からかけ離れている」と主張。特に、「言論の自由」では、「移民問題で厳しい対応を求める右派政党を阻害し、その政治信条が拡散しないように防火壁を構築している」と糾弾したのだ。
米国は同盟国だと信じてきた欧州の政治家、知識人、そしてメディア関係者もその演説にショックを受けた。後から考えれば、バンス副大統領の演説は欧州とトランプ米政権の関係が険悪化する最初の出来事だった。トランプ政権はその後、関税政策、ウクライナ戦争への対応、北大西洋条約機構(NATO)加盟国の軍事支出問題、そしてグリーンランド領有問題まで途絶えることなく難問を提示し、米欧関係は緊迫状況が続いてきた。
結果は欧州側の取り越し苦労だったのかもしれない。ルビオ長官は特別、欧州諸国を称賛したわけではなかった。欧州の自由貿易、大量移民、気候変動に対する環境政策「気候カルト」には厳しい批判を行った。しかし、昨年のバンス副大統領のような欧州批判はなかった。ルビオ長官は「米国は強い欧州を望んでいる」と表明、米国と欧州の歴史的なつながりにも言及し、「私たちは共に属している」と語ったのだ。なお、MSCには米国から民主党のカルフォルニア州ギャビン・ニューサム知事などトランプ大統領批判の政治家らもミュンヘン会議に出席した。
ルビオ米国務長官は15日にスロバキアの首都ブラチスラバを、16日にはハンガリーのブタペストを相次いで訪問した。両国はEU加盟国だが、ブリュッセルとはしばしば衝突する一方、トランプ米大統領とは緊密な関係を維持している。ロシアによるウクライナ侵略戦争にもかかわらず、スロバキアとハンガリーはクレムリンとの良好な関係も維持しており、ロシアからの石油・ガス供給に大きく依存している。両国はEUの対ロシア制裁を批判し、ウクライナへの軍事援助を拒否している。
米国務長官のスロバキア訪問は7年ぶりだった。ルビオ長官はロバート・フィツォ首相やペテル・ペレグリニ大統領と会談し、原子力発電を含むエネルギーの多様化とロシアへの依存脱却について議論した。例えば、ヤスロフスケー・ボフニツェにおける5基目の原子炉建設をめぐる米国ウェスティングハウス社との協議が来年には具体的な契約締結に至る見込みだという。
また、スロバキア軍の近代化支援やNATOへのコミットメントについても協議が行われた。ルビオ長官はフィツォ首相との記者会見で「米国政府は従属的な欧州ではなく、パートナーを望んでいる」と付け加えた。スロバキア側は、進行中の米国製F-16戦闘機の購入など、更なる軍備増強を通じてNATOに貢献する用意があると確約している。
ブタペストではハンガリーのオルバン首相が待っていた。オルバン氏はトランプ大統領と懇意な関係だ。ハンガリーでは4月12日、総選挙が実施されるが、オルバン首相の与党「フィデス」が世論調査では野党に首位を奪われている。オルバン政権が存続の危機に瀕していることもあって、ルビオ国務長官は「トランプ大統領はオルバン政権を支援している」と表明することを忘れなかった。オルバン首相はルビオ長官との記者会見で「米国とハンガリーの関係は黄金時代の到来を迎えた」と豪語している。
米国とハンガリー両国間では、民生用原子力協力に関する協定の署名が行われた。昨年末、米国はハンガリーに対し、ロシア産原油を輸入する国に課せられている関税を1年間免除することを認めている。また、同年12月、ハンガリーは米国エネルギー大手シェブロンと、ワシントンから20億立方メートルの液化天然ガス(LNG)を輸入する契約を締結している。
ちなみに、ウクライナ経由(ドルジバ・パイプライン)のロシア産原油の輸送が1月27日から中断しているため、ハンガリーはアドリア海パイプライン経由で獲得するためにクロアチア政府と交渉中という。また、EUは2027年までにロシアからの化石燃料輸入を停止することを決定している。ロシアからのエネルギーに依存してきたスロバキアとハンガリー両国にとって安全なエネルギー供給確保は死活問題だ。
ルビオ国務長官の東欧2カ国訪問は、トランプ政権に親和的な中欧の政権との絆を深め、欧州内での影響力を確保し、エネルギー供給でロシアの影響を排除する戦略的な意図があったことは間違いない。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年2月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。






