エネルギー危機に陥ったハンガリー

ハンガリーのオルバン政権はウクライナに対し欧州連合(EU)が昨年12月の首脳会談で決定した今後2年間のウクライナへの融資900億ユーロをストップすると脅迫している。親ロシアのオルバン首相がプーチン大統領の意向を受けてウクライナに嫌がらせをしているのではない。ロシアからの原油輸送がウクライナ側のストップでできなくなったことへの報復だ。

電力や天然ガスの供給停止の可能性を示唆するハンガリー政府のグヤ―シュ首相府長官、Wikipediaより

ハンガリーやスロバキアは依然、ロシアから安価の原油、天然ガスのエネルギーをウクライナのドルジバ・パイプライン経由で輸入してきたが、そのパイプラインが戦争の被害で損傷。原油輸送が今年1月27日からストップになっている。ハンガリー側はウクライナにパイプラインの迅速な修理を要請してきたが、これまでウクライナ側はハンガリーの要望を無視してきた。

ハンガリーのシーヤールトー外務貿易相は「ウクライナはEUのブリュッセルと連携してパイプラインの修復を遅らせている」と指摘する一方、緊急策としてアドリア海パイプライン経由で獲得するためにクロアチア政府と交渉中という。

EUは2027年までにロシアからの化石燃料輸入を停止することを決定している。ロシアからのエネルギーに依存してきたハンガリーにとって安全なエネルギー供給確保は死活問題だ。一方、ウクライナの視点から見ると、ハンガリーが依然、ロシアからガスと石油を購入していることは、ロシア側に侵略戦争の資金源を与えていることになるわけだ。

ハンガリー側はウクライナ側の態度に激怒。シーヤールトー外務貿易相は「ドルジバ・パイプライン経由でハンガリーへの原油輸送が再開されるまで、EUによるウクライナへの900億ユーロの融資を阻止する」とXで述べている。

ハンガリーでは4月12日に国民議会選挙が実施されるが、16年間政権を維持してきたオルバン首相の与党「フィデス」が野党の親EU派のティサ(TISZA)の躍進で苦戦を強いられている。このような時にロシア産の原油が途絶え、燃料価格が吊り上げられるなら大変だ。だから、「ウクライナは我が国の野党と共謀してパイプラインの修復を遅らせている」といったハンガリー側の批判となるわけだ。

ハンガリー首相府のゲルゲイ・グヤーシュ長官は19日、「ウクライナの政治指導部がハンガリーとスロバキアに損害を与える狙いがあるのは明らかだ」と指摘し、政府が3か月以上分の戦略的原油埋蔵量を解放する一方、ハンガリーの拠点を置く国際的な石油・ガス会社MOLはクロアチア経由で輸送するためにロシア産石油50万トンも発注したという。同長官はまた、「ウクライナ側のパイプラインを通じた石油輸送が再開しなければ、電力や天然ガスの供給停止の可能性も検討せざるを得ない」という。

EUは既に、ウクライナに2年間で最大900億ユーロを供与することで合意した。欧州議会も承認済みだ。ただし、最初の資金拠出には、加盟国理事会の承認が必要となる。

ちなみに、ウクライナへの900億ユーロの融資は、ウクライナが2026年から2027年にかけて直面する深刻な資金不足を回避するための巨大な経済・軍事支援パッケージだ。 公務員の給与や年金支払いなどの国家運営資金と、武器調達などの軍事支援(約600億ユーロ)の両面を支える計画だ。

EU側はこの決定を全会一致で通すため、ウクライナ支援に批判的なハンガリー、スロバキア、チェコに対しては、この融資に伴うEU予算の保証義務から除外される「オプトアウト(適用除外)」を認めた。しかし、ハンガリーがエネルギー問題を理由にこの融資の実行を再びブロックする構えを見せてきたのだ。

ハンガリー政府は2月20日のEU大使級会議において、ウクライナによるロシア産石油の輸送停止(ドルジバ・パイプライン問題)への報復として、この最終的な承認プロセスをブロックした。この融資が遅れると、ウクライナは2026年4月にも深刻な予算不足に陥るリスクがあり、EUは4月のウクライナの資金枯渇を防ぐため、ハンガリーとの妥協点を探る必要に迫られてきた。

参考までに、ハンガリーとウクライナ両国関係はウクライナ戦争前から険悪だった。両国の対立は、ウクライナ西部のザカルパッチャ地方に住む約15万人のハンガリー系少数民族をめぐる権利問題に根ざしている。 ウクライナが2017年、公の場でのウクライナ語使用を推進する「教育法」や「言語法」を採択したことに対し、ハンガリーは「母国語で学ぶ権利が侵害されている」と猛烈に反発した。これを理由に、ハンガリーは2017年からウクライナの北大西洋条約機構(NATO)協力やEU加盟交渉を長年ブロックし続けてきた。

ロシアのウクライナ戦争の勃発後、両国関係はさらに険悪化してきた。ハンガリーのオルバーン政権が他のEU諸国とは異なり、親ロシア的な姿勢をとったことで、関係は決定的に悪化した。ハンガリーはEU・NATO加盟国でありながら、ウクライナへの武器供与を拒否し、自国領土の武器通過も認めていない。オルバーン首相は「ウクライナは勝てない」と主張し、EUによる巨額の軍事・経済支援や対ロシア制裁にたびたび反対してきた。そして新たにエネルギー問題が浮上してきたわけだ。

ロシア軍のウクライナ侵攻開始から4年。ウクライナは今、ロシア軍との戦いだけではなく、ハンガリーともホット外交戦(第2フロント)を展開中だ。一方、ハンガリーでは21日、国民議会の選挙戦が公式にスタートを切った。

ハンガリー・オルバン首相とロシア・プーチン大統領 クレムリンHPより


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年2月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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