黒坂岳央です。
4月から自転車に乗れなくなった、というコメントをSNSで見かけた。
自転車青切符問題である。これまでは注意で済んでいたものが、今後は信号無視や歩道走行で反則金を課せられると聞けば、確かに不安が広がるのはわかる。中には「ハンドサイン義務化や歩道の全面走行禁止」といった、明らかに誤った情報まで拡散されている始末だ。
だが、この4月からの法改正に怯える必要はない。なぜなら、実態として何も変わっていないからだ。筆者は新しい街へ引っ越したのを機に運動も兼ねて自転車を検討しているが、正しくルールを理解すれば不安になることは何もない。

Svetlanais/iStock
ルールに何も変更はない
まず騒ぎになっている4月の自転車青切符問題だが、事実確認をするべきだ。
今回の改正の核心は「新しい禁止事項の追加」ではない。信号無視がいけないことも、歩道を原則として走ってはいけないことも、一時停止を守らなければならないことも、すべて以前から道路交通法に明記されていたルールだ。
自転車は道路交通法上「軽車両」に分類される。つまり法律的には、自動車やオートバイと同じ「車両」である。歩行者とは根本的に異なるカテゴリーだ。歩道は原則として走行禁止であり、車道の左側を走るのが基本というルールは昭和から変わっていない。
変わったのは一点だけ。これまで「注意・指導」で終わっていた違反行為に対して、4月1日から16歳以上を対象に反則金制度(青切符)が適用されるようになったという点である。
対象となる違反行為は113種類に及ぶが、その中身は「信号無視」「一時不停止」「歩道の速度超過」など、どれも「やってはいけない」と誰もが知っているはずのものばかりである。
「何やらルール変更があったようで不安で乗れない」と嘆く人は、単純に情報を確認していないだけだ。
これまでが異常だっただけ
では、なぜ今まで取り締まられなかったのか。
答えは単純で、警察が本格的に動かなかっただけだ。自転車の違反は従来、赤切符(刑事手続き)か口頭注意かの二択しかなかった。赤切符は前科がつく重い処分であるため、信号無視程度の軽微な違反にいきなり適用するのは現実的ではなく、結果として事実上の無法地帯が長年にわたって放置されてきた。
この構造的な問題の結果がどうなったかは、データが雄弁に語っている。警察庁の調査によれば、自転車乗用中の死亡・重傷事故の約4分の3に、自転車側の法令違反が認められた。信号無視、一時停止違反、前方不注意など、ルールを守らないことで死んでいる人間が、毎年これだけいたのだ。むしろ、ずっと放置してきたほうが異常で良くなかったと言える。
今回の青切符導入は、この歪んだ状態を是正するための当然の措置である。「軽微な違反には軽微な罰則を」という、いたって合理的な仕組みを導入しただけに過ぎない。
「怖くて乗れない」は自白に等しい
冷静に考えてみよう。そもそも、なぜ「もう違反が怖くて乗れない」という感想が出てくるのか。
信号をきちんと守り、車道の左側を走り、一時停止をしっかり行い、スマホを見ながら運転しない、という当たり前のことを当たり前にやっていれば、青切符を切られることはない。取り締まりは「警察官が実際に見て、明らかに違反行為を行ったと判断できるもの」が対象である。
「怖くて乗れない」という反応の正体は何か。それは、自分がこれまで日常的に違反を犯してきたという事実への、無自覚な自白ではないだろうか。赤信号を渡っていた。歩道をスマホを見ながら走っていた。一時停止を無視していた。そうした行為が「罰せられるようになった」から怖いのだ。
ということは、法律を守って乗っていた人間にとって、今回の改正は何も変わらないので「ふーん」で終わる話だ。怯えているのは、これまで無法状態で乱暴運転をしてきた人たちだけである。
日本人の歪んだ「規制強化」感覚
この騒動が露わにしているのは、自転車問題だけではない。
日本人の法リテラシーの低さ、あるいは「罰則がなければルールを守らなくていい」という無意識の前提が、改めて可視化されたと言うべきだろう。
本来あるべき姿への是正を「規制強化」と誤読する感覚は、根が深い。自動車の交通違反に青切符が存在することを誰も「規制強化だ」とは言わない。それが自転車に適用されただけで大騒ぎになるのは、自転車が長年「ルールの外」に置かれてきたという歪んだ認識が社会に定着しているからだ。
自転車は車両である。車両には交通法規が適用される。反則金は「罰」ではなく「ルールの実効化」だ。これは規制強化でも締め付けでもなく、単なる正常化である。
欧州の多くの国では自転車の交通違反に対する取り締まりはすでに当然のこととして機能している。日本が遅れていただけであり、今回ようやく追いついたに過ぎない。
◇
青切符の導入によって、これまで歩道を走っていた多くの自転車が車道に流入することが予想される。これは自動車ドライバーにとっても無関係ではない。
だが怯える必要はない。ルールを守って乗ればいいだけの話だ。それが今まで免除されていたのが異常であり、今回それが終わっただけである。
厳密にいうと自転車に乗れなくなったのではなく、大人扱いをされるようになっただけだ。
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