AIの哲学入門(3) デカルト的な人工知能はなぜ挫折したのか

大規模言語モデル(LLM)は驚くほど自然に人間の言葉を操り、高度な推論を行っているようにみえるが、人工知能の研究史を振り返ると、現在のAIが基盤としている経験主義(ボトムアップ)のアプローチは、かつて異端とされ、長らく主流派から軽視されてきた。

1950年代から1980年代後半にかけて、古典的人工知能の世界に君臨したのは、人間の知性を論理とデータの集合体とみなすデカルト的パラダイムだった。それは人間の脳内に生得的なアルゴリズムが存在し、そこに大量のデータを入力すれば人間の知能は再現できるという仮説だった。

方法叙説 (講談社学術文庫)
ルネ・デカルト
講談社
2022-01-12

 

「デカルト派言語学」と人工知能

ルネ・デカルトは『方法叙説』で「良識(bon sens)は、この世のものでもっとも公平に分配されている」と述べた。この良識は理性(raison)とも言い換えられ、「すべての人々が生まれながら平等にもっている」とされた。これを「人間が遺伝的に文法知識をもっている」と解釈したのが、ノーム・チョムスキーである。

1950年代の心理学界を支配していたのは行動主義だった。これは人間の心の中身をブラックボックスとし、外部からの刺激とそれに対する反応の統計的・習慣的なパターンの蓄積として人間の行動や言語を説明しようとした。

これに対してチョムスキーは、1966年の著書『デカルト派言語学』で、人間の言語能力は経験や習慣の産物ではなく、遺伝的に脳に備わった普遍文法であると主張した。そのコアは、言語を二つの階層で捉えることだ。

深層構造: 思考そのものに近い普遍的な論理構造。

表層構造: 実際に口に出される音や言語ごとの語順。

「子供はどうしてこんなに複雑な言語を短期間で完璧に覚えられるのか?」という問いに、チョムスキーは「生まれつき言語の設計図(普遍文法)が脳に組み込まれているからだと答えた。

彼は17世紀の「ポール・ロワイヤル文法」が、文の論理的な構造を分析しようとしていた点に注目した。たとえば「目に見えない神が目に見える世界を創造した」という文は、深層構造では次のように複数の句構造が組み合わさっていると考え、そこから表層構造を生成する。

高市
生成文法の句構造規則

チョムスキーの解釈には疑問が多いが、この「言語は遺伝的なルールにもとづく記号処理システムである」というトップダウンの合理主義は、古典的人工知能(GOFAI:Good Old-Fashioned AI)のコンセプトに合致していた。

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