
Olivier Le Moal/iStock
「戦略家のための戦略家」と称されるリチャード・ルメルトの戦略論は、多くの人から一目置かれてます。
ルメルトが名著『良い戦略 悪い戦略』で紹介した戦略論は、このようなものです。
⓪ 課題を設定する
① 診断する
② 基本方針を立てる。
③ 行動する
当たり前に見えますが、これがなかなか難しいのです。
たとえば200年前に、欧州を征服したナポレオンが、英国上陸を目指して、英仏海峡を支配しようとしました。
こんな状況で、英国海軍のネルソン提督は、次のような戦略を立てました。
⓪ 課題の設定:ナポレオンの上陸阻止には、英仏海峡の制海権の掌握。そのために敵艦隊殲滅が必要だ
① 診断:敵艦隊は数でこちらを上回るので定石では勝てない。しかし敵は寄せ集めで練度が低い。しかも当日は荒波。敵は正確に撃てない
② 基本方針:敵艦隊の横っ腹に正面から突っ込み、敵を分断すれば勝てる
③ 行動:「私が陣頭指揮をする。敵艦隊の突っ込み分断せよ。全軍突撃だ」と号令を出す
結果、敵艦隊の損失は22隻、英国の損失は0隻。英国は制海権を守り、危機を脱しました。
実に見事な戦略です。
では、ルメルトの戦略論は万能なのでしょうか。
経営学者ミンツバーグは著書「戦略サファリ」で、ルメルトの体験談としてこんな一文を掲載しています※1)。
「ホンダの課題」は、どう対応すればいいのか?
(リチャード・ルメルトの許可を得て掲載)・ 1977年、私はMBA最後の試験で、ホンダ・モーターサイクルに関するケースを出願した
「ホンダは、世界の自動車産業に参入するべきか」
・これは、「サービス」問題だった。「イエス」と解答した者は、落第点をつけられた。なぜなら、
‐すでに市場は飽和状態だった。
‐優れた競争相手が、既に日本、米国、そして欧州に存在していた。
‐ホンダは、自動車に関する経験が皆無に難しかった。
‐ホンダは、自動車の流通チャネルをもっていなかった。・しかし、1985年、私の妻は、ホンダ車を乗り回していた
「戦略論の大家」をして、こうして戦略を見誤るのです。
まさに戦略思考の落とし穴です。
戦略的に考える事は、決して悪いことではありません。むしろ戦略思考は、多くの人が苦手とする貴重なスキルです。
一方で戦略思考に優れた人は、ともするとこんな言い方をしがちです。
「こんなの〇〇〇だから、ダメに決まってる」
「こんなことをすると、こうなる」
こうして戦略思考を重視して考える人は、偶然の出来事を過小評価します。
しかし現実のビジネスでは、たいていは最初に「こうしよう」と思った通りになりません。
試行錯誤の末に、全く違う形になったりします。これは多くの方々が経験していると思います。
最初に考えていたことと違う形に着地する事は、必ずしも戦略思考の弱さだけが原因ではありません。ビジネスとは、そもそもそういうものなのです。
YouTubeは、もともと動画付きデートマッチングサイトでした。しかし誰もデート用の動画を投稿せず、普通の動画ばかりを投稿していました。そこで普通の動画投稿に変えたら大ヒットしました。
ポストイットは、「粘着力の強い接着剤を作ろう」と考えた3Mの研究者が、逆に粘着力が弱くすぐ剥がれる接着剤ができて困ってしまい、その5年後に教会で讃美歌を歌っていて「楽譜にくっつくしおりにこの接着剤が使える」と気づいた3Mの別の研究者が閃いて、生み出されたものです。
ビジネスとは、予想通り行かないのです。
ビジネスを戦略的に考えることは大事なことですが、「ビジネスは戦略通りにいかない」と理解することも、同じくらい重要です。
そしてYouTubeやポストイットの成功もわかるように、戦略が間違っていたとわかった時の対応次第で、ビッグチャンスが得られることも多いのです。
【参考文献】
※1)『戦略サファリ』ミンツバーグ著 p.140
編集部より:この記事はマーケティング戦略コンサルタントの永井孝尚氏のオフィシャルサイト(2026年5月26日のエントリー)より転載させていただきました。永井孝尚氏のメルマガのご登録はこちらから。







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