「若者を投票所へ」では足りない:意識調査が示す、もっと深刻な現実

「若者が選挙に行けば未来は変わる」とよく言われる。投票率の低さを嘆くニュース、若者向けの主権者教育、SNSでの「とにかく投票へ行こう」の呼びかけ。耳に心地よいフレーズだが、本当にそうだろうか。

日本財団が2019年に実施した「18歳意識調査──国の借金」(17〜19歳の男女800人対象)は、この素朴な楽観を揺さぶる結果を示している。読み解くと、見えてくるのは三つの不都合な事実だ。

事実1:そもそも「現実」を知らない

国と地方自治体の借金が1000兆円を超えていることを「知らない」と答えた17〜19歳は61.3%。女性に限れば68.3%にのぼる。財政の規模感をそもそも持っていない層が、有権者の入口に立つ若者の6割以上を占める。

問題はその先だ。借金を前提とした2019年度予算案(歳入の3分の1が国債発行、歳出の4分の1が国債費)について意見を聞くと、全体では「わからない」が56.4%と過半数を占めた。賛成13.8%、反対29.9%は、いずれも少数派にとどまる。

ここで重要なのは、知識の有無で回答の構造ががらりと変わる点だ。

借金額を知っている層では、「わからない」が34.5%まで下がり、「反対」42.6%・「賛成」22.9%と意見が形成される。一方、知らない層では7割が「わからない」と答えている。知らないから判断できない、ではなく、知らないから判断する土俵にも立てていない。これが現実だ。

事実2:事実を知れば、判断はしっかりする

ここで悲観しすぎる必要はない。同じ調査は、別の希望的な事実も示している──若者は知識を与えられれば、それなりに筋の通った判断をする。

借金を「増やしてきた世代が負うべき」と答えた層と、「国民全体で負うべき」と答えた層を比べると、財政再建策の選好がはっきり分かれる。

「借金を作った世代に責任を取らせるべき」と考える若者は、論理的に歳出削減を選ぶ(52.2%)。彼らから見れば、増税は若い世代に新たな負担を背負わせるだけだからだ。
一方、「みんなで負担しよう」と考える若者は、消費税増税にも企業増税にも均等に開かれている。

価値観と政策選好の対応関係は、教科書的なほど整っている。自由回答にも「借金してきた世代が年金で楽して暮らすのは違うと思うから」(女性)、「未来ある若者の負担を増やさないでほしい」(女性)といった、世代論を踏まえた発言が並ぶ。情報さえあれば、若者は自分の価値観から政策を導き出せる

事実3:しかし「経済」になると、ほぼ全員が分からない

ところがである。問題はもう一段深い。「日本の将来に不安を感じるか」という問いには72.8%が「感じる」と回答した。漠然とした不安は持っている。しかし、その不安を具体的な経済理解に接続する回路がない。

自由回答を読むと、不安を訴える声の多くは「借金が増える」「年金がもらえるか」「税金が高くなる」といった生活レベルの実感に終始している。一方、賛成派・「わからない」派の自由回答には次のような言葉が頻出する。

「興味がないし前提知識もない」(男性)
「あまり考えたことがないから」(女性)
「実感がない」(女性)
「この先の経済の事はわからない」(男性)
「今までどうにかなってきたから」(女性)

「日本の借金は国民に対しての借金で、外国に借金しているギリシャ等とは違う」という、それ自体は議論のある主張をそのまま信じている回答も複数ある。正誤を判定するための経済リテラシーが、若者の側にも、おそらく多くの大人の側にも、ない

不安はあるが、経済の仕組みが分からない。だから判断は感情と直感で行われる。「税金は上がってほしくない」「サービスは減らされたくない」「企業に払わせればいい」──個別には理解できる感情だが、それらは整合する政策にはならない。

だから「とにかく投票へ」は危険ですらある

ここまでの三点を合わせると、暗い結論が見えてくる。

現状の若者の多数派は──

  • 国の財政状態という基本事実を知らない(知らない61.3%)
  • だから予算案について判断できない(わからない56.4%)
  • それでも将来には漠然と不安を抱いている(不安72.8%)
  • そして経済の仕組みは理解していない(自由回答が示す)

この状態のまま投票率だけが上がったら何が起きるか。「いま不安を煽ってくれる候補者」「いま不快なことを言わない候補者」が選ばれる。減税を約束し、歳出削減も先送りし、国債発行で当座をしのぐ──若者の漠然とした不安と素朴な感情に最も都合よく応える政策は、まさに財政を悪化させる政策である。

知識のないまま投じられる票は、未来を変える票ではなく、現在の心地よさのために未来を売る票になりやすい。「若者の投票率が上がれば未来が変わる」という命題は、その票が事実に基づいて投じられるという条件のもとでのみ正しい。

必要なのは「投票しろ」ではなく「現実を見ろ」

調査の希望的な部分を思い出そう。借金額を知っている若者は、態度を形成できる。価値観と政策をつなげられる。つまり、情報と認識のギャップさえ埋めれば、若者は十分まともな判断主体になりうる。

ならば、政治参加を促す側がやるべきことは、「投票へ行こう」のキャンペーンではない。

第一に、事実を知らせること。借金がいくらあって、誰がそれを発行していて、毎年の予算がどう組まれているか。SNS投稿一つで済む話を、誰も若者に向けて言っていない。

社会保障をほ削減しないのなら2040年にはいまよりも社会保障が50兆円も増加する

第二に、価値観の整理を促すこと。「世代間で負担を分けるとはどういうことか」「あなたはどちらを優先するか」を考えさせる。価値観さえ定まれば、調査が示すとおり、若者は政策を選べる。

第三に、経済リテラシーを上げること。これが最も難しいし、最も時間がかかる。だが、ここを抜きにして投票率だけ上げても、調査が示す「不安はあるが分からない」層を投票所に運び込むだけだ。

「若者を投票所へ」というスローガンは、それ自体は間違っていない。だが、そこに現実認識を伴わせる作業を抜きに進めれば、若者の票は未来を救う票ではなく、未来を売る票になる。意識調査のデータは、その危うさを冷静に告げている。

2040年の日本 (幻冬舎新書)


編集部より:この記事は永江一石氏のブログ「More Access,More Fun!」2026年5月26日の記事より転載させていただきました。

 

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