リモートワーク解除は「令和の社員追い出し部屋」

黒坂岳央です。

リモートワーク解除、出社要請というニュースには必ずといっていいほど、「社員がやめてしまう!経営者は分かっていない!」という憤りリプライがつく。だがその一方で、「出社回帰は合法解雇」という見方もあると思っている。

特に昨今はAIエージェントへの置き換えも想定される。筆者の弟はデータサイエンティストであり、今まさに企業へのAIエージェントの開発、導入の仕事をしているのだが、そうした会社は増加している。

emma/iStock

簡単には解雇できない日本企業

日本の解雇規制は屈指の厳しさである。整理解雇には「人員削減の必要性」「解雇回避努力」「人選の合理性」「手続きの妥当性」という4要件が課され、これを満たすのは難しい。希望退職を募るにもコストがかかる上、優秀な人材から先に辞めていくという逆選択が起きやすい。

つまり日本企業には、業績が悪化しようがAIで代替が進もうが、正社員を法的リスクなしに削減する手段が限られている。

そこで出社義務を強化すれば、フルリモートを前提に転職や移住をしていた層、あるいは家庭の事情でリモートを必須とする層が自主的に辞めていく。これは解雇ではなく自然減であり、企業側には一切の法的リスクがない。

米国では先行して実施

これは日本の専売特許ではない。2022年、イーロン・マスクはテスラの全社員に対し、週40時間以上出社しない者は「辞めたとみなす」と通告した。その数ヶ月後、Twitter買収直後には、部下のリモートワークを擁護する管理職自身を解雇すると全社に警告し、さらに「ハードコアな働き方」についてこられる者だけがサインアップせよという最後通牒を出している。

当時のマスクの動機はAI代替ではなく、忠誠度と胆力による選別だったが、社員のふるい落としとしては機能したと言える。

企業が欲しいのは出世する人間と会社に従順な人間だ。そのため、出社要請は昇進意欲や組織へのコミットメントを測る装置として機能する。上司との接触頻度や経営陣への認知は依然として評価や昇進に強く影響するため、管理職を目指す人材ほど素直に出社に従う。

社員がやめても企業は困らない

「リモートワークを解除すると優秀な人もやめてしまう」という指摘がある。だが、これは企業側は分かったうえでやっている。それを理解するため、ここで一度、辞める人材を二層に分けて考える必要がある。

1つは、代替不可能な高度専門職や意思決定層である。この層が流出すれば企業は確実に困る。だが実際には、こうした層ほど出社義務を受け入れる傾向がある。経営陣への接触機会や昇進機会を天秤にかけたとき、リモート維持よりも出社継続を選ぶ合理性があるからだ。

もう一つは、属人性の低い定型業務層だ。この層は、リモート環境下では成果の可視化が難しく、企業側から見て「本当に必要な人材か」の見極めが困難だった。

定型業務ほどAIエージェントへの置き換えが技術的に容易で、出社回帰による人員の自然減とAI導入のタイミングが重なるのは偶然ではなく、同じ層をターゲットにした二つの独立した圧力が同時に作用しているからだ。

出社回帰はこの層への踏み絵として機能する。辞める者が出ても、定型化された業務は代替の選択肢が複数ある。後任を正社員で採用し直す、個人事業主に業務委託として発注し直す、あるいは自動化ツールで一部を代替する。属人性が低い業務ほどこの3つの選択肢すべてが機能しやすく、結果として企業側の交渉力は辞める側より常に強い。

つまり企業が本当に恐れているのは「優秀な人材の流出」ではなく「誰が優秀で誰がそうでないかを可視化できないまま高コストで抱え続けること」である。出社回帰は、この不透明性を強制的に解消する。

個人的な本音だけを言えば、リモートワーク維持は日本全体でプラスの面もある。特に育児をしなければいけない立場なら、大変ありがたい制度であることは間違いない。既婚者の出生数を決めるのは「お金以上に時間」であるため、リモートワーク解除は生み控えの原因になり得る。

企業にとってはメリットがないが、社員にとってはメリットの大きなリモートワーク、非常にバランスが難しい制度なのだ。


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Z世代を甘やかすな」(著:黒坂岳央)

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働き方・キャリア・AI時代の生き方を語る著者・解説者
著書4冊/英語系YouTuber登録者5万人。TBS『THE TIME』など各種メディアで、働き方・キャリア戦略・英語学習・AI時代の社会変化を分かりやすく解説。

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