トランプ政権とイランの間で6月に締結された覚書(MoU)は、わずか1か月余りで崩壊の危機に瀕している。ロイター通信によれば、仲介国は双方に10日間の停戦を提案し、交渉再開を模索しているものの、戦闘は激化を続けている。
米国はイラン各地への空爆を継続し、イランは米軍基地や商船への攻撃を繰り返している。停戦どころか、ホルムズ海峡をめぐる軍事的緊張は一段と高まり、世界のエネルギー市場にも影響を与え始めている。

トランプ大統領 ホワイトハウスHPより
問題は核ではなくホルムズ海峡
こうした状況を理解するうえで示唆に富むのが、米外交史・国際政治研究の第一人者ウォルター・ラッセル・ミードによる『ウォール・ストリート・ジャーナル』への寄稿である。
ミードは、今回の対立の本質を核問題ではなく、「抑え込むことのできない(irrepressible)」構造的対立にあると指摘する。
イランはペルシャ湾のエネルギー資源とホルムズ海峡に対する影響力を拡大しようとしている。一方、米国は第二次世界大戦後、一貫して中東産油国から世界市場への自由なエネルギー輸送を自国の繁栄と安全保障の根幹と位置付けてきた。
つまり、両国は妥協できない国益を抱えているのである。
仮に核開発問題で一定の合意に達したとしても、この地政学的対立そのものは消えないというのがミードの見立てだ。
トランプはむしろ強気になっている
興味深いのは、ミードがトランプの対イラン姿勢について「慎重になっている」のではなく、「以前より自信を深めている」と分析している点である。
その背景として挙げられるのが国際環境の変化だ。
ロシアはウクライナ戦争の長期化によって軍事・経済両面で消耗している。中国も景気低迷を背景に、米国との関係改善を模索せざるを得ない状況にある。そのため、イランを積極的に支援できる現状変更勢力は限られている。
さらにイラン自身も、中東諸国や商船への攻撃を繰り返した結果、地域諸国との関係を悪化させ、自ら外交的孤立を深めている。
こうした環境は、トランプ政権にとって軍事的・外交的な行動の自由度を高めている。
中間選挙後も中東重視は続くのか
トランプ政権は「中国への集中」を掲げて発足した。しかし、今回の危機は、中東のエネルギー安全保障が依然として米国外交の中核的利益であることを改めて示している。
トランプ自身、「エネルギー支配(Energy Dominance)」を外交政策の柱として掲げてきた。ホルムズ海峡の航行の自由が脅かされる限り、米国が中東への関与を大幅に縮小する可能性は高くない。
むしろ、今回の戦闘は、中東からの撤退ではなく、海上交通路の防衛やイランへの抑止を目的とした軍事的関与を強化する方向へ向かう可能性を示唆している。
構造的対立は容易には終わらない
停戦交渉が再開されたとしても、それは根本的な和解を意味しない。
ミードが指摘するように、米国とイランは「抑え込むことのできない対立」に置かれている。イランが地域覇権を追求し、米国がホルムズ海峡をはじめとする国際エネルギー輸送路の安全確保を最優先課題とする限り、両国は何度停戦を繰り返しても、再び衝突する可能性を抱え続けるだろう。
今回の覚書崩壊は、単なる外交交渉の失敗ではない。それは、トランプ政権下の中東政策が一時的な危機対応ではなく、エネルギー安全保障を軸とする長期的な戦略へと再び回帰しつつあることを示しているのではないだろうか。







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