株主提案「便器は和式」「新聞紙で拭け」を除外できるか

米国で、個人株主がどう呼ばれているかご存知か。

「門前のハエ(gadflies at the gate)」

である。企業にとってうるさい(蠅い)存在だから。彼らの株主提案が、主に政治的主張だからだ。例えば、温室効果ガスである。排出状況開示を求める左派。その開示にかかるコストや経営影響の開示を求める右派。会社側からすればどちらも同じ。邪魔なのだ。

米国では、「32万円」の株式を保有していれば株主提案ができる。ドイツの「9300万円」の株式保有、イギリスの議決権総数の「5%以上」保有といった要件に比べ、ハードルが低い※1)。安価な株主提案権により、米国の株主提案のおよそ3分の1は、個人株主が占める。25年には、一人で259件の提案をした個人株主もいるという。

企業側は、これらの提案内容をチェックし、反論意見書を作成しなければならない。弁護士を雇うこともある。要するコストは莫大だ。米国商工会議所によれば、提案1件当たり1400万円(8万7000ドル)の費用が発生するという。

バーゲン状態の日本

では、日本はどうか。米国ほどではないものの、ドイツ・イギリスよりハードルは低く、「議決権総数の1%」または「300個以上の議決権」が要件となっている。さらに、東証の要請により株式分割が頻繁に行われているため、議決権の「低価格化」が進んでいる。2分割だったら5割引き。5分割だったら8割引き。いまや日本の株主提案権はバーゲンセール状態だ。

結果、日本でも個人株主が提案するようになってきた。だが内容は、米国よりもタチが悪い。26年4月の「いよぎんホールディングス」の株主総会では、以下の提案がなされている。

「社名を(株)いよぎん株主阿鼻叫喚ホールディングスとする」

ケチ根性丸出し、徹底する低配当だからだという。過去には、

「オフィス内の便器はすべて和式とし、足腰を鍛練し、株価四桁を目指して日々踏ん張る旨を定款に明記する(2012年 野村ホールディングス)」

というのもあった。今がふんばりどきであり、和式便器に毎日またがり下半身の粘りを強化すれば、かならず破綻は回避できるから、だという。

「トイレットペーパーの代用品として古い新聞紙を使用する(2020年 三井金属工業)」

というのもあった。硬い紙で肛門からの出血を伴っても、気合さえあれば乗り切れることの模範とならなければならない、という。

いよぎんホールディングスに提案したのは議決権302個、三井金属工業へ提案したのは議決権301個と、いずれも株主提案要件ギリギリの株主だった。

このような提案がされるのは、日本では広い範囲の株主提案が認められているからだ。イギリスでは、「いやがらせ目的である場合」「法的根拠のないことがあきらかであるとき」は株主提案できない※2)。米国も、

  • 取締役選任についての提案
  • 特定の配当についての提案
  • 会社の事業に重要な関係性のない提案

などは株主提案できない。しかも、多くの場合、可決されても法的拘束力を持たない。企業側は従う必要がないのだ。一方、日本は「法令・定款に違反する場合」以外は拒絶できず、可決されたら従わなくてはならない。

提案範囲が広い+法的拘束力がある+価格が安い=コスパが良い

これが、日本の「株主提案権」だ。政府も傍観していたわけではない。7月17日、自民党の「成長志向型コーポレートガバナンスプロジェクトチーム」は、会社法改正の提言案をまとめた。株主提案要件の「300個以上の議決権」を廃止し、「総株主の議決権の1%以上」だけにする。いわば、株主提案権の値上げである。

通常、「300個以上」より「1%以上」の方がはるかに高い。例えば、時価総額13兆7千億円のNTT株式会社で「300個以上」を満たすには、460万円でこと足りる。一方、「1%以上」を満たすには、1370億円が必要だ※3)。今回の提言が通れば、資金力に乏しい個人株主は株主提案ができなくなる。

「300個以上」の趣旨

だが、「個人株主に株主提案をさせる」。これが「300個以上」要件の趣旨だったはずだ。株主が多い大会社の場合、議決権の「1%」という相対的基準だけでは、個人株主は提案できない。提案しやすくするために「300個」という絶対的基準を設けたのだ。矛盾を抱える今回のプロジェクトチーム案は、

「金は出せさるが、口は出させない」

といった状況をも生み出しかねない。さらなる熟議が求められる。

ソクラテスのハエ

冒頭の「ハエ(gadflies)」には、「権力者や社会に対し異議を唱える存在」と言う意味もある。かつて、ソクラテスは、人々につきまとい、耳の痛い話をし、目を覚まさせる存在として、自身を「馬を刺して刺激するハエ(ウシバエ)」になぞらえた。

ハエを排除しようとして、ソクラテスを排除してしまう。そんな事態にならないことを願うばかりだ。

【脚注】
※1)
アメリカ: 市場価格で2000ドル以上の議決権付株式3年以上の継続保有、市場価格で1万5000ドル以上の議決権付株式2年以上の継続保有、市場価格で2万5000ドル以上の議決権付株式1年以上の継続保有
(1ドル160円換算)

ドイツ:株式資本の5%以上を保有する又は持分価格が50万ユーロに達する株主で 権利行使日の3か月前から継続して保有していること。
(1ユーロ186円換算)

イギリス:議決権総数の5%以上を有する株主、又は1人あたりの平均払込済金額が100ポンド以上の議決権付株式を有する100名以上の株主。日本の株主提案権に相当する権利として、説明書送付請求権(2006年会社法314条1項)・公開会社における議案等通知請求権(338条1項、338A条1項)が 存在する。

※2)
プライム上場企業平均株価を2400円とする(×300個=7200万円)

※3)
26年7月24日執筆時点

【参考】
会社法改正等に関する意見書 公益社団法人 関西経済連合会
株主提案権制度の改正提言相次ぐ (大和総研)
Individual shareholder proposals?why do they do it?

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