高市早苗首相が、飲食料品の消費税率を2027年4月から2年間、8%から1%に引き下げる案について、自民党内の意見集約を指示する方向だという。
超党派の社会保障国民会議では結論を出せず、1%への減税案と野党の給付案を併記する見通しとなった。そこで今度は自民党執行部と党税制調査会、総務会に判断を回すらしい。
これは「丁寧な合意形成」ではない。失敗したときに誰の責任か分からなくするための、典型的な責任分散である。
しかし、政治家が責任を分け合えても、市場は損失を分けてはくれない。これを強行すれば、本当に「高市ショック」が起きかねない。

高市首相 首相官邸HPより
年4.3兆円をどうするのか
国会答弁によると、飲食料品の消費税率を8%から1%へ引き下げた場合、税収は年間約4.3兆円減少する。2年間なら単純計算で約8.6兆円である。国民1人当たりの減税額は年間約3万6,000円と試算されている。
問題は、減税額ではなく財源だ。
恒久的な歳出削減や増税を同時に示さない限り、減収分は国債で穴埋めするしかない。「2年間限定だから大丈夫」という説明も通用しない。いったん下げた食料品の税率を選挙前に8%へ戻せる政治家が、いったい何人いるのか。
2年間限定の減税は、2年後に終了する政策ではない。恒久減税へと変質する可能性の高い、期限付きの財政時限爆弾である。
いま減税すれば円と国債が売られる
減税を実施するタイミングも最悪だ。
日本の10年国債利回りは7月9日に2.9%まで上昇し、約30年ぶりの高水準をつけた。30年債、40年債の利回りも4%台に上昇している。市場が警戒しているのは、インフレだけではない。高市政権の財政拡張路線そのものだ。
円相場も1ドル=163円を超え、約40年ぶりの円安水準となった。政府が為替介入を警告しても円安が止まらないのは、市場が日本政府の政策運営に疑いを持ち始めているからである。
この状況で、財源なき4.3兆円減税を打ち出したらどうなるか。
国債が売られ、長期金利が上がる。財政への信認が低下して円が売られる。円安によって輸入物価が上昇し、食料品やエネルギー価格がさらに上がる。
食料品の税率を7ポイント下げながら、円安によって食料品価格そのものを押し上げる。右手で値札を下げ、左手で輸入価格を引き上げる政策である。
減税で物価高対策という矛盾
高市首相は、この減税を物価高対策として説明してきた。
確かに税率を下げた瞬間には、消費者物価指数は機械的に下がる。しかし、商品の税込み価格が減税分だけ下がる保証はない。企業が原材料費や人件費の上昇を吸収している場合、減税分の一部が企業収益の改善に回る可能性もある。
さらに、家計の可処分所得を増やす減税は需要を刺激する。供給力が増えないまま需要だけを増やせば、結果は価格上昇である。
日銀は、中東情勢と原油価格の上昇が日本の成長率を押し下げる一方、物価を押し上げるリスクを指摘している。
輸入インフレが強まっている局面で大型減税を行うのは、火災現場にガソリンをまいてから、消火器を配るようなものだ。
「高市ショック」は政策の必然になるか
高市首相は、自民党内の慎重派に配慮し、政府と党で責任を共有しようとしているという。
だが、本来、最終判断を下すのが首相の仕事である。党内に意見を聞き、国民会議に意見を聞き、税制調査会に意見を聞き、最後に「みんなで決めました」と言うのなら、首相は何のためにいるのか。
市場が見ているのは会議の数ではない。
年間4.3兆円の財源を示せるのか。国債発行を増やさないのか。日銀の金融引き締めを妨げないのか。2年後に本当に税率を戻せるのか。
これらに明確な答えがないまま減税を強行すれば、円安、債券安、金利上昇が同時に進む可能性がある。株価だけが円安で一時的に上がったとしても、住宅ローン金利や企業の資金調達費、輸入物価は上昇する。
それは景気対策ではない。国民の預金と賃金の価値を下げる政策である。
「高市ショック」は、誰かが悪意を持って起こすものではない。財源なき減税、金融政策への介入、バラマキ財政を重ねれば、政策の必然として起きる。
英国の市場を混乱させた「トラス・ショック」を笑っている場合ではない。日本でも首相の名前が市場暴落の代名詞になる日は、思っているより近いかもしれない。







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