骨太ショックが示した「責任ある積極財政」の無責任さ --- 平尾 正憲

政府は7月21日、「骨太の方針2026」を閣議決定しました。

6月末に原案が示されて以降、円安と長期金利の上昇が進み、一部では「骨太ショック」とも呼ばれました。原案に日本銀行の利上げを牽制するようにも読める記述があり、官民投資や消費税減税の財源も明確に示されなかったことで、政府の財政運営への不安が強まったためです。

閣議決定後も円安は止まらず、7月23日には1ドル163円台まで下落しました。中東情勢や原油高も要因ですが、政府の財政運営や、政府・日銀の政策運営への不安が円売りを後押ししている面は否定できません。

円安になれば、電気、ガス、ガソリン、食品、日用品、物流などに価格上昇圧力がかかります。日本は、原油、天然ガス、飼料、肥料、食料、工業原料の多くを輸入に頼っています。同じものを輸入するために、より多くの円が必要になり、企業の経営コストも上がります。

物価上昇によって名目上の売上や税収が増えても、企業や国民が豊かになったとは言えません。食事の量、商品の質、自由に使えるお金、将来への余裕が削られているだけです。

さらに問題なのが、国債の利払いです。

財政への不安は、金利を押し上げる要因になります。借金が増え、返済能力への不安が強まれば、投資家はより高い利回りを求めます。もちろん、長期金利はインフレ期待や日本銀行の政策、海外金利、国債需給などさまざまな要因で動きます。しかし、財政不安が強まれば、それも金利上昇圧力の一つになります。

金利が上がれば利払いが増え、財政はさらに悪化します。その悪化が、さらに高い金利を招く。財政不安と金利上昇の悪循環に陥る危険があります。

国債の多くは固定金利なので、影響は直ちに出るわけではありません。しかし、借り換えのたびに過去の低金利国債が高金利国債へ置き換わり、利払いは年々増えていきます。

財務省の試算では、利払費は2026年度の13兆円から、2027年度15兆5000億円、2028年度18兆5000億円、2029年度21兆6000億円へ増えます。政府の想定より金利が1ポイント高い状態が続けば、2034年度には約42兆5000億円、2035年度には45兆2000億円に達する機械的試算もあります。

さらに、あくまで単純な試算ですが、現在と同程度の新規国債発行が続き、普通国債残高がその分だけ増加し、国債全体の平均金利が4.5%まで上昇すると仮定すれば、10年後の利払いは約65兆円、20年後には約78兆円に達します。現在の税収約84兆円の大半が、過去の借金の利子だけに消える規模です。

普通国債残高は2026年度末に約1145兆円、同年度の新規国債発行額は約30兆円と見込まれています。実際の利払いは国債の償還や借り換え、金利構成によって変わりますが、金利上昇が続けば財政負担が急速に重くなることに変わりはありません。

利払いが増えれば、医療、介護、子育て、教育、防災、災害復旧、インフラ更新に使えるお金は減ります。不足すれば、増税するか、行政サービスを削るか、さらに国債を発行するしかありません。

骨太の方針は「責任ある積極財政」を掲げ、単年度の基礎的財政収支の黒字を機械的に追うのではなく、債務残高の対GDP比を下げることを財政運営の中核に置きました。その上で、投資を拡大し、2040年度にGDPを1100兆円近くまで増やし、名目3%超の成長を定着させるとしています。

この枠組みには、実質成長に加え、物価上昇による名目GDPの拡大によって、債務残高の対GDP比を低下させる側面もあります。

しかし、名目GDPの上昇そのものが財源になるわけではありません。物価上昇によって税収が増えても、家計の生活費と企業の経営コストが増えているなら、国民が別の形で負担しているだけです。

最大の問題は、投資効果が政府の想定を下回った場合の対応が十分に具体化されていないことです。

政府は、投資誘発効果の薄い予算や効果の上がっていない施策を見直す方針を示しています。しかし、必ず成功する投資などありません。

どの程度の成果が出なければ撤退するのか。どの事業から支援を打ち切るのか。投資が失敗して財源が不足した場合、歳出削減と増税のどちらで補うのか。こうした基準まで具体的に示して、初めて「責任ある積極財政」と呼べるのではないでしょうか。

積極的に財政支出をするなら、積極的な財源論が必要です。それを避ければ、円安と物価上昇で家計の購買力が削られ、輸入コストで企業経営が圧迫されます。国民は、税率の書かれていない「インフレ税」として、生活苦でその財源を支払うことになります。

その状態で軍事的衝突や大規模災害が起きたら、どうするのでしょうか。災害大国の日本では、防災、救助、復旧、生活再建のすべてにお金が必要です。

目先の減税で生活が少し楽になれば、被災地を支える余力が失われてもよいとは言えません。次に被災するのは、自分たちかもしれないからです。

これ以上財政への不安を強め、災害対応の余力まで失わせるのであれば、少なくとも食料品の消費税減税は白紙に戻すべきです。

責任ある積極財政とは、成功を約束することではありません。失敗しても国民生活への被害を抑えられるよう、撤退基準と財源を先に示すことです。

このままでは、投資の失敗を埋めるために削られるのは、政府の計画ではありません。

私たちの生活です。

平尾 正憲
平成生まれ、東京都三鷹市在住。現役世代の負担増と将来世代への責任を軸に、社会保障、税制、行政改革などを論じる。寛容と現実主義に基づく保守本流の言論を目指す。

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