欧州最大の自動車メーカー、フォルクスワーゲン(VW)が大規模なリストラに踏み切ろうとしている。経営陣が検討している人員削減は世界で最大14万人。約65万人の従業員の約20%に相当する。ドイツ国内では工場閉鎖まで選択肢に浮上している。
2024年末に合意したドイツ国内での削減は2030年までに3万5000人超で、その後、VW、アウディ、ポルシェ、ソフトウェア子会社CARIADを合わせ約5万人の削減が決まった。そこからさらにリストラを拡大しているのが現在の状況である。

Business Insider
EVに賭けたVWを襲った中国勢
VWが苦境に陥った原因は、米国の関税、ドイツの高い人件費、エネルギーコストの上昇、中国市場の販売減少など複数の問題が重なっているが、最大の原因はEVへの急速な転換である。
VWはディーゼル不正問題以降、巨額の資金をEVとソフトウェアに投入し、主力を内燃機関からEVへ移す戦略を進めてきた。ところがEVで待っていたのは、テスラだけではなくBYDや吉利汽車など中国メーカーとの激しい価格競争だった。
かつて中国市場はVWの利益を支えるドル箱だったが、2026年上期の中国での販売は前年同期比31.6%減った。グループ全体でも上期の販売台数は8.4%減の約400万台、営業利益は11.6%減の59億ユーロ、営業利益率はわずか3.8%だった。
中国メーカーはEVを低価格で大量生産し、その競争がいまや欧州市場にまで押し寄せている。VWは「EVを作れば未来を取れる」と考えていたが、そのEV市場そのものが世界で最もきびしいレッドオーシャンになってしまった。
問題は「EV一本足」で中国の土俵に乗ったこと
だからといって「EVは終わった」と考えるのも間違いである。欧州では2026年7月、主要16市場でBEVの新車販売比率が25.7%まで上昇した。VW自身も欧州でBEVの受注残を2025年末から50%以上増やしている。EV市場そのものはむしろ拡大している。
問題は需要の速度を政策で読み違え、巨大企業が一斉にEVへ経営資源を振り向けたことだ。自動車産業では工場を建て、車台を開発し、サプライチェーンを組み替えるまで何年もかかる。一度「2030年にはEV」という前提で数兆円を投資すれば、需要が数年ずれただけで巨大な過剰設備になる。
内燃機関なら100年以上蓄積した欧州メーカーの技術的優位があるが、EVではモーター、電池、半導体、ソフトウェアが競争力を左右する。中国企業の土俵に乗ってしまった。いまVWは車種を最大50%削減し、仕様の複雑さを最大75%減らすという大手メーカーとしては異例の改革を進めている。
中国政府はEVで世界を支配しようとしている
世界市場でみても中国だけが極端にEVとPHEVに集中し、他の国はハイブリッドが主流になっている。これは中国がEVに巨額の補助金を投入し、全国に2400万基の国営充電設備をつくってEVを奨励している影響が大きい。これはWTO違反の不公正貿易であり、日本がまねるべきではない。

世界の自動車の販売台数とシェア(東電エナジーパートナー)
しかし中国車の市場は20%の過剰生産で赤字操業になっており、ダンピング合戦で多くの企業が脱落している。中国政府がBYDなど特定のメーカーを「半官半民」で支えている状態だ。これが持続可能とは考えられない。
中国でEVが伸びている原因は、その技術力でも性能でもない。中国共産党の世界支配の野望である。習近平にとっては採算なんてどうでもよい。極端にいえば、すべての中国車が赤字になっても、それが世界を埋め尽くせば中国が世界を支配できるのだ。
トヨタの「全方位戦略」は正しかった
これに対して日本メーカーが通常の貿易として対応してはいけない。トヨタはEV、ハイブリッド(HV・PHEV)、燃料電池を地域ごとに使い分けるマルチパスウェイを掲げてきた。
そのため欧州などから「EVで出遅れた」と強く批判されたが、現在、世界市場ではHV需要が急増している。トヨタは2028年のHV・PHEV生産を約670万台まで増やす計画を取引先に示しており、世界生産の約6割を占める可能性がある。
ホンダも方向転換した。米国EV市場の成長鈍化を受けてEVへの資源集中を見直し、HVを強化すると正式に発表している。北米ではEV計画を縮小する一方、2030年までに15車種の新しいハイブリッドモデルを投入する方針だ。
幸い今のところ日本では中国車のプレゼンスは限定的である。充電設備が少ないからだ。政府はこれを放置し、中国EVの補助金を廃止して、ダンピングを防ぐべきだ。
政治家の言葉を信じないで企業戦略を立てるべき
VWの失敗から日本メーカーが学ぶべき教訓は、「EVをやめろ」ではない。EVの開発は続けなければならない。中国や欧州ではEV市場が拡大しており、中国メーカーの電池、ソフトウェア、コスト競争力との差は大きいだからだ。
だが政治家や官僚が描く2030年や2035年の「脱炭素化」シナリオを、そのまま経営計画にしてはいけない。ライフサイクル全体で考えると、EVがハイブリッドより環境負荷が小さいとはいえない。モーターとエンジンを柔軟に生産し、市場の需要に応じて比率を変えられる体制を作るべきだ。
VWの失敗の最大の原因は、EUの「将来はEVしか認めない」という不合理な規制と将来予測を信じて巨大企業が一方向へ走ったことだ。日本メーカーがVWから学ぶべきなのは、EVへの転換を急ぐことではなく、政治家の言葉を信じないで合理的な企業戦略を立てることである。







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