中年の早期退職は「ほぼ自殺行為」

黒坂岳央です。

2025年度に早期・希望退職を募集した上場企業は46社、対象人数は2万781人だった。前年度の8,326人から約2.5倍である。注目すべきは、実施企業の約7割が直近決算で黒字だったことだ。

業績が悪化したから切るのではなく好調なうちに年齢構成を整えていることが分かる。三菱ケミカルグループでは50歳以上の1,273人が応募した。この流れは当分止まらない。

早期退職者の中には「もう会社員生活は疲れた。雇われず、動画編集やコンテンツ配信など自営業で食べていく」という想定で、そうした高額スクールに通って学び直しをする人がいる。だが、現実うまくいく人は少ない。

筆者は30代で会社を出て9年になるが、週末起業で先に収入を作ってから脱サラした。早期退職の経験者として持論を述べたい。

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資産運用生活は非現実的

本稿では仮に50代を早期退職者と前提に考えるなら、年金受給まで15年ある。そうした状態で「資産3000万円でFIRE」とした場合、これで生活が成り立つかどうかだ。

3000万円は年金生活まで減らせないので、取り崩さず運用益で暮らすなら、年間4%使えるとすると年120万円にしかならない。さらに早期退職は厚生年金の加入期間を短くするので、将来受け取る年金額そのものも減る。

さらにこれは「株式相場がこの先15年維持できれば」という完全なるIFのケースだ。もしも相場が暴落、10年低迷したらいきなりこの計画は完全に破綻する。いや、これまで通り相場好調が続いたとしても年120万円での生活は厳しい。全部株ではなく、他のアセットに分散すれば年間で使えるお金は減るので破綻。

3000万円くらいではとてもFIREは無理だが、独身の50代資産の平均値が999万円、中央値が120万(金融経済教育推進機構)となっており、大多数の人には全く足りない。

選択肢は3つだけ

資産運用では全く足りないので、退職しても働き続けるしかない。そこで3つある労働力の売り先を考える必要がある。

1つ目は雇用市場だ。ここで買われるのは「過去のキャリア」である。職務経歴書、在籍企業名、役職といった履歴だ。

2つ目は業務委託市場。一般的にクライアントワーク中心の個人事業主である。そこで買われるのは「実績」だ。作品、単価実績などだ。

そして3つ目は自分の顧客への直販。いわゆるクライアントワークでない起業である。

50代会社員がこの3つから選択して「稼ぎ続けられるか」を考慮する必要があるわけだが、現実的には多くの場合は1しかない。

早期退職を選ぶ人の中には「会社が嫌」で脱サラを選択するが、30年かけて蓄積してきたのは「職務経歴書という形の資産」だけだ。これが現実であり、多くの場合は1つ目の市場でしか換金できない。

「脱サラして夢の悠々自適な生活」は労働市場ではない、フラットなマーケットに評価されるコンテンツを持っている人のみに許されるフロンティアなのだ。

在職中に実績を作る

ここから導かれる結論は明快だ。

業務委託やクライアントワークの市場は、年齢による差別が比較的少ない。50代早期退職者でもチャレンジ自体は可能だ。

だがこれは全く救いではない。年齢が変数でないということは、20代とまったく同じ土俵で、実績だけを見て比較されるということを意味する。

この世界は「結果が全て」であり、若手でもポテンシャルを見てもらない厳しい世界で何も実績がない50代は厳しい言い方をすると「価値ゼロ」という判定になる。

誤解しないでほしいのは「50代は脱サラしても勝てない」といっているわけではない。「備えがない50代がダメ」と言っている。

筆者がやったように、給料というセーフティネットがある在職中に個人事業主か起業の実績を作るべきである。給与が払われている間なら、失敗してもリスクはほぼゼロ。逆にそれをやらずに脱サラしても「普通の転職」しか待っていない。だが、多くの50代にとって転職は逆風になる可能性が極めて高い。

規制産業が唯一の望み

だが何事も例外はある。会社員しかやったことがない中年に、残された現実解は「規制と資格で守られた雇用」である。設備管理、施設警備、マンション管理、大型ドライバー、そしてタクシードライバーである。

タクシーは自由度が高く、年齢の上限も緩い。ライドシェアの全面解禁は2026年6月の規制改革推進会議の答申でも見送られ、タクシー会社以外がプラットフォームを運営する形態は認められていない。規制が防波堤として機能しており、文字通り誰でも働ける。

筆者は旅行や出張の際によくタクシーを利用する。ドライバーとよく会話をするのだが、「会社員が疲れてタクシードライバーになったが、かなり自由度が高い生活に満足している」と言っていた。ニ種免許も会社が取らせてくれるという。同僚の中には育児を頑張る主婦もいるそうで、仕事と育児の両立もドライバーなら可能だといっていた。これは会社員と自営業のハイブリッドのような立場だ。

規制に守られた職域を選ぶことは、規制が続くほうへの賭けになる。今は大丈夫だが、変化の早い現代、10年後は分からない。だがそれを言うならあらゆる業種がAIによる淘汰に晒されており、賭けが不要な業界など存在しない。みな条件は同じだ。

早期退職を決断する前にやるべきことがある。1つ目は転職エージェントに2、3社登録し、面談まで到達するかを見ればいい。実際の求人票で自分の年齢と職種の年収レンジを確認する。社外の人間から仕事の相談が来るか観察する。無料で、今日から始められる。

そして2つ目は個人事業主や起業へのチャレンジだ。全くの未経験で脱サラ後にやると失敗は「無給期間の拡大」という直接的なコストになってしまうからだ。何も備えず、早期退職に乗るのは文字通り自殺行為でしかない。

 


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Z世代を甘やかすな」(著:黒坂岳央)

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働き方・キャリア・AI時代の生き方を語る著者・解説者
著書4冊/英語系YouTuber登録者5万人。TBS『THE TIME』など各種メディアで、働き方・キャリア戦略・英語学習・AI時代の社会変化を分かりやすく解説。

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