G20でベッセント米財務長官が日本に「リフレ政策をやめるべきだ」と求めたと報じられている。日本の金融政策を多少でも知っている人なら、ここで首をかしげるはずだ。
「リフレ政策は、とっくに終わっているのではないか?」

日本経済新聞
日本でリフレといえば、2013年に黒田東彦総裁が始めた「量的・質的金融緩和(QQE)」でマネタリーベースを大幅に増やす政策だが、これは2016年のマイナス金利導入で大きく変わった。
2024年3月、植田総裁は「その役割を果たした」と明言し、短期金利を主たる政策手段とする通常の金融政策へ戻った。それなのに、なぜベッセントはいまさら「リフレをやめろ」と言うのだろうか。
日本の「リフレ」とベッセントのreflationは違う
これは日本メディアの誤訳ではない。9月1日のG20後の記者会見では、さらに踏み込んだ表現になり、
“Japan should stop the reflation now and Abenomics is done.”
と明言している。問題は、その reflation が何を意味しているのかだ。日本では「リフレ」という言葉には特殊な歴史がある。1990年代以降のデフレ論争で、リフレ派は日銀が大胆に金融緩和し、インフレ率を引き上げるべきだと主張した。
その究極形が黒田日銀のQQEだった。黒田氏自身も「2%の物価目標への強いコミットメントとマネタリーベースの大幅な拡大を組み合わせた政策」と説明している。この意味で「リフレ政策をやめろ」というのは、かなり奇妙である。
「リフレ」は拡張的な金融・財政政策全般をさすこともある
マネタリーベースを操作目標にする政策は事実上2016年に終わり、2024年にはYCCもマイナス金利も終了した。いまの日銀はマネタリーベースを増やして物価を上げようとしているのではなく、逆にインフレを警戒しながら金利を上げている。
ベッセントがこうした経緯を知らないとは考えにくい。おそらく彼のいう reflation は、日本でいう「リフレ派」の政策よりもずっと広い。英語圏では reflation は、デフレや需要不足から脱却するため、金融政策や財政政策によって名目需要と物価を押し上げる政策全般を意味することがある。
IMFもかつてアベノミクスについて、金融・財政・構造改革という「3本の矢」を組み合わせてデフレ脱却を図る政策として reflation という言葉を使っていた。ベッセントもこの意味で使っている可能性が高い。
「マネーを増やすな」ではなく「デフレ時代の政策をやめろ」
ロイターもアベノミクスを、大規模な金融刺激、積極財政、成長戦略を組み合わせた政策として説明している。そして今回のベッセントの発言は単なる日銀批判ではなく、大規模な財政刺激という「古い考え」を終わらせることだと分析している。
日本政府関係者も、ベッセント発言を高市政権に「過度に拡張的な財政政策を避けろ」と求めるメッセージだと受け止めている。こう考えると謎は解ける。
ベッセントの”stop the reflation”とは「マネタリーベースを増やす政策をやめろ」という意味ではなく、正確には、
「日本をまだデフレだと考えて金融・財政の両面から需要を刺激するのはやめろ」
という意味だろう。これは金融政策に関する技術的な助言ではなく、高市政権に対する政治的なメッセージである。






コメント