AI文章の「気持ち悪さ」と「文体は心の鏡」という言葉

Tokyo FM+に、こんな記事が掲載されています。

『村上春樹「文章を見れば、その人の心の内が分かる」50年近く小説を書いてきて気づいた、文体と生き方の深い関係』

作家の村上春樹さんがディスクジョッキーを務めるラジオ番組『村上RADIO』で、8月30日にオンエアされた内容です。

番組で村上さんは「今月の言葉」として、日頃愛用されている「リーダーズ英和辞典」から、こんな例文を引用されています。

Style is an index of the mind.
「文体は心の鏡である」

村上さんは50年近く小説を書いてきて「本当にそのとおりだと、僕も思います」とおっしゃっています。

AI時代に、これは考えさせられる言葉です。

人は頭の中に、言葉にならない思いを抱えています。そうした思いを言葉に置き換えて、人は考えを深めます。そうして出てくる言葉に心が宿るのです。

私も、自分の文章を時間を置いて見直すと、違和感を感じたり「意味が通っていないなぁ」と感じることが時々あります。

こんな時はたいてい書くときの思考が不十分です。

まだまだ修行が足りません。

ですので本の執筆では、自分の文章を構想段階・ドラフト段階・執筆段階・最終原稿段階・ゲラのチェック段階で、合計十数回ほど見直し、書き直しています。

中には林真理子先生のように、キッチンの横に座って、原稿用紙にサインペンでサラサラ書いて、素晴らしい文章を仕上げる方もいますが、こんな芸当は私にはとてもムリです。

私が企業様で行っている研修でも、提出課題に書かれている文章が、よく読み取れないことがあります。そんな時、受講者ご本人にお話を伺うと、考えが十分に固まっていないことも多いのです。

このように文章を書くのは、なかなか大変な作業です。

しかし文章を書くことで人は思考が深まり、課題への解決策が研ぎ澄まされます。村上さんや林さんのような方々は、そうした作業の達人です。

そうして脳に汗をかいた文章を通して、自分のパーソナリティーが読み手に伝わるのです。まさに「文体は心の鏡」。文章を見れば、その人のことが透けて見えてくるのです。

そこで気になるのが、最近よく見かける生成AIで出力した文章です。

文章を書くには、思考の手間がかかります。人は誰でも手間はかけたくありません。だから生成AIを使って文章を書く人が増えています。

短い指示でそれなりの文章が仕上がるので、ホントに楽ですよね。

メールや書簡といったビジネス文書は、正確な情報を間違いなく伝えることが大事ですし、定型表現も確立していますから、生成AIを使うことは理にかなっています。

しかしプレゼン資料や記事・著書執筆のように「話し手・書き手の意思が問われる資料」での生成AIの使用は、効率が上がる反面、デメリットも大きいと思います。

その最大の要因が、相手に自分のパーソナリティーが十分に伝わらないことです。

最近巷でよく見かける、生成AIで書かれた文章やプレゼンチャートを見ると、直感的に「AIで作ったな」とわかって、無意識に「イラッ」とすることはないでしょうか?

生成AIは、世の中に既にある膨大な情報を組み合わせて、出力しています。ですので一見すると、論理的で破綻がない、優等生的でバランスがよいアウトプットが出てきます。

しかしそこに私たちは「その人の心」を感じ取れないのです。

なぜなら「文体は心の鏡」だからです。

そして人の心は、必ず何らかのバイアスがかかっています。

このバイアスを「個性」ともいいます。

ですので、私は自分で文章を書くときは、生成AIは使っていません。この文章も、AIは使っていません。

実は正直に言うと、ある短い期間、使っていたことがあります。

この時、親しい知人に「永井さん、この文章、生成AIを使ってますか?」と指摘されたのです。

自分では「論理的な破綻もないし、良くなったなぁ」と信じ込んでいたのですが、周囲が見ると「これまでの文体と明らかに違う。何か気持ち悪い。本当に自分で書いたの?」となっていたのです。

自分では気づかないものですね。

これがきっかけで、文章を書くときは生成AIを一切使わず、自分で考えて書くようにしています。

私は自分で書いた結果も、AIでチェックしていません。良い意味でのバイアスが削られてしまうからです。

とはいえ、思考を広げる段階では、AIは良い壁打ち相手になります。私は思考の壁打ち相手としては、AIをかなり使い倒しています。

一方でAIとの壁打ち結果から取捨選択するのは、人間です。そこに心が宿るのでしょう。

生成AIを使う場面と使わない場面は、自分なりにメリハリをつけると良いのではないかと思います。


編集部より:この記事はマーケティング戦略コンサルタントの永井孝尚氏のオフィシャルサイト(2026年9月8日のエントリー)より転載させていただきました。永井孝尚氏のメルマガのご登録はこちらから。

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