「日本の就職氷河期世代は、なぜもっと怒らなかったのか」という議論が話題になっている。

ある匿名投稿では、筆者がオーストラリア留学中、フランス、ロシア、米国、豪州などの学生や大学関係者に、日本の就職氷河期について説明した体験が紹介されている。名門大学を出ても就職できず、公務員試験に応募が殺到し、不安定な仕事に甘んじた若者たち。その話を聞いた外国人の反応は、「そこまでひどい目に遭ったのなら、なぜデモをしなかったのか」だったという。
フランス人から見れば、権利は黙って待つものではなく、街頭で要求するものらしい。確かにロシアはかなり怪しいが、フランスには、その成功例がある。
デモでCPEを撤回させた若者たち
2006年、フランス政府は26歳未満を対象とする「初回雇用契約(CPE)」を導入しようとした。
CPEは最初の2年間について解雇を容易にする制度だった。政府の狙いは、若者をいったん採用すると解雇が難しいため採用をためらう企業に、「まず雇ってみよう」と思わせることだった。
ところが学生や労組は「若者だけ解雇しやすくするな」と猛反発。大学封鎖と大規模デモが続き、政府はついにCPEを撤回した。

政治的には見事な勝利である。政府を街頭から屈服させたのだから、日本の氷河期世代に「なぜ戦わなかった」と説教したくなる気持ちも分からなくはない。
問題は、その後だ。
政府には勝ったが失業には勝てなかった
フランスの15~24歳失業率は2006年の22.0%から、好景気だった2008年には19.0%まで下がった。しかし金融危機後は再び上昇し、2013年24.9%、2015年24.7%、2016年24.6%となった。
CPE撤回から10年たっても、若年失業率は撤回時より高かったのである。
もちろん「CPEを撤回したから失業率が上がった」と断定することはできない。リーマン・ショックもあった。
しかし少なくとも、「若者がデモをしたので若者の生活が良くなった」という美談にはならない。
むしろCPEが突きつけていたのは、もっと嫌な現実だった。
解雇しやすくすれば企業は採用しやすくなる。しかし雇用は不安定になる。解雇を難しくすれば雇用は安定する。しかし企業は新規採用に慎重になる。
どちらを選んでもフリーランチ(タダ飯)はない。
「権利を守れ」で仕事は生まれない
CPEに似た小企業向け制度CNEについては、解雇規制の緩和によって一定の雇用増が生じるとの研究もあった。効果は劇的ではないが、政府の政策が単なる「若者いじめ」だったわけではない。
若者はデモによって「簡単に解雇されない権利」を守った。その代わり、「企業が若者を採用しやすくする仕組み」も葬った。
ここに就職氷河期論の落とし穴がある。
日本の若者は戦わなかった。フランスの若者は戦った。確かに政治文化は違う。
だが、政府に勝つことと労働市場に勝つことは別である。
デモをすれば法律は変えられるかもしれない。しかしプラカードを何本掲げても、生産性は上がらず、企業の採用意欲も自動的には増えない。
「日本人は従順だから損をした。フランス人は戦ったから権利を得た」という物語は気持ちがいい。
残念ながら、経済はそれほど気持ちよくできていないのである。
そして、氷河期世代の教訓は、自己責任論として歴史の陰に埋もれていくのだろう。









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