ハンガリー、ロシアを「脅威」と位置づけ

ハンガリーのマジャル新政権は「浄化の炎」作戦(Operation Cleansing Fire / Purifying Fire)という勇ましい旗を掲げ、16年間にわたり独裁的な強権政権を運営してきたオルバン前首相の「政治・経済マフィア体制」を解体し、法の支配と民主主義を回復するための包括的な政治・法的改革キャンペーンを推進中だ。具体的には、①前政権の汚職撲滅と国家資産の回収,②オルバン派要人の排除と憲法改正,③メディア改革とプロパガンダの排除などだ。そして外交では親ロシア路線からの決別だ。

ハンガリーの首都ブタペストの夜景、ハンガリー外務省公式サイトから

オルバン前政権の16年間、ハンガリーは欧州連合(EU)の加盟国の中でも飛びぬけてロシアに対して友好関係を維持してきた。もちろん、その背後には、ロシアからの安価な原油・ガスを確保するという国家のエネルギー政策があった。

オルバン氏は政権時代、親ロシア路線と批判するEUのブリュッセルに対し、「私はハンガリーの首相だ。国の利益を第一に考えるのは当然だ」と弁明してきた。そのハンガリーで今年4月に実施された議会選挙の結果、オルバン政権は惨敗し、16年間の幕を閉じた。

プーチン大統領 クレムリンHPより 2026年

マジャル新政権が誕生して以降、ハンガリーとEUの関係は急速に正常化してきた。EU(欧州委員会)は5月29日、オルバン前政権の「法の支配の侵害(汚職や司法への介入)」を理由に凍結していた164億ユーロ(約2.7兆円)以上の補助金・融資の凍結解除を正式に発表した。マジャル新政権が汚職対策機関の権限強化や司法の独立など、迅速なシステム改革に着手したことがEU側に高く評価された結果だ。前政権はEUの重要決定(ウクライナ支援など)に対し、拒否権を連発して交渉を人質に取る外交を行ってきた。これに対しマジャル首相は「原則として拒否権は使わず、誠実な対話で解決する」と表明し、EUの信頼できるパートナーに戻る姿勢を示している。

外交政策の転換は、マジャル政権が8月26日、ウクライナと戦争を続けるロシアを「脅威」と位置付けたことで一層鮮明化した。これはマジャル首相の署名入りの国連総会向け文書の中で明らかになったものだ。同文書は、今月開催される国連総会への同国代表団の立場を明確にしたものだ。文書には、「ハンガリーはロシアの軍事侵略を非難し、国際的に承認された国境線内におけるウクライナの主権と領土の一体性を全面的に支持する」と記されている。

さらに「ロシアの行動は、ハンガリー、欧州、そして国際秩序に対する脅威となっている」と指摘。ハンガリー政府は、ウクライナのための「持続可能な平和と長期的な安全保障を模索する交渉を支持する」と明記している。

今月8日、ハンガリーは、ロシアの外交官10人を追放する措置をとった。アニタ・オルバン外相がソーシャルメディアで発表した。ロシア外交官追放の根拠は、当該外交官らによる「ウィーン条約に適合しない活動」への関与だ。具体的には、諜報(スパイ)活動だ。

これに対し、ロシア側は報復措置を発表した。ロシアの通信社が8日に報じたところによると、ロシア外務省報道官マリア・ザハロワ氏は、「厳しく、痛みを伴う」措置になると言及している。

考えられるロシア側の報復措置として、①同数の駐モスクワのハンガリー外交官の追放だ。ただし、10人の外交官が追放された場合、駐モスクワのハンガリー大使館は機能できなくなる、②ロシアからの原油・天然ガスの供給ストップだ。ロシアがエネルギーを「外交的武器」として使い、供給制限や停止を行う可能性は排除できない。ロシアは2022年、ブルガリアがロシア外交官を追放した際、その報復としてガス供給を停止している。

ちなみに、オルバン前政権とロシアの密着さを物語る例としては、ハンガリーのシーヤールトー前外相が、EUでの協議内容をロシアのラブロフ外相に漏洩していたことだ。それが報道されると大きな波紋が広がった。オルバン政権下のハンガリーは、EU内におけるロシア情報機関の重要な拠点と見なされてきた。

アニタ・オルバン外相は、今回の決定に対し、「ロシアとの外交関係の断絶を意味するものではない。ハンガリーは相互尊重とルールの遵守を維持しつつ、モスクワとの対話を継続する」と説明し、対ロシア関係の断絶といった過激な憶測を否定した。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年9月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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