とっくに死んだ「敵国条項」を蒸し返す高市首相と中国の奇妙な論争

高市首相は9月22日の国連総会演説で、2005年の国連総会決議を挙げ、「同条項は早急に削除されるべきだ」と訴えた。「日本の誇りと名誉にかけて、強く申し上げておきます」とまで強調している。(内閣府)

これに対して中国が「現在も重要な現実的意義を持つ」と反論したが、この論争は奇妙である。旧敵国条項は、とっくの昔に国連で「死文化した」と確認されているからだ。

1995年に事実上決着している

国連は英語でUnited Nations、第2次大戦で戦った連合国である。旧敵国条項とは、国連憲章53条、77条、107条に残されている第2次世界大戦の敗戦国を念頭に置いた規定で、条文は現在も残っている。

しかし法的・政治的な扱いについては30年以上前に決着している。1995年12月の国連総会決議50/52では、旧敵国条項を削除する憲章改正手続きを開始する意思が示された。決議は賛成155、反対0、棄権3で採択された。

国連自身も当時、これらの規定を時代遅れ(obsolete)と位置付けていた。日本の外務省も外交青書で「1995年の総会決議において既に死文化していると決定された」と明記している。(国連プレス)

さらに2005年の国連首脳会合では、全加盟国首脳が参加して採択した成果文書で、国連憲章53条、77条、107条から「敵国」への言及を削除することを明確に決意した。決議60/1の177項には、それが明記されている(国連)。今も残っているのは憲章改正の事務手続きが終わっていないからにすぎない。

中国の「現在も有効」は無理がある

ところが中国外務省は9月23日、高市首相の演説に対し、旧敵国条項について「今日に至っても重要な現実的意義を持つ」と主張し、高市政権が軍備増強や「再軍事化」を進めているとして、この条項をファシズムや軍国主義の復活を防止する制度的保障として位置付けた。(中国外交部)

これは無理筋である。1995年の国連総会決議は反対ゼロだった。2005年の成果文書も無投票で採択され、中国もこの国際的合意に参加している。それをいまになって「重要な現実的意義がある」と言い出すのは、国際法の解釈というより対日外交の宣伝材料に利用しているだけだろう。

日本外務省も2025年、中国側が旧敵国条項を持ち出した際に「既に死文化したという認識をされている」「いまだ有効であるような内容は事実に反する」と明確に反論している(外務省)。ここは中国の主張がおかしい。

もう不毛な「歴史戦」はやめよう

高市首相の主張もおかしい。外務省が20年以上にわたって「死文化している」と説明してきた条文を、首相が国連総会で「日本の誇りと名誉」の問題として大きく取り上げ、逆に「まだ生きている条項なのか」という誤解を広げかねない。

日本政府が取るべき対応は、外務省の公式見解のようにそれを無視すればいい。条文の形式的な削除は、次の国連憲章改正のときやればいい。旧敵国条項について本当に必要なのは「歴史戦」ではない。死んだ条文は死んだままにして、機会が来たら削除する。それだけの話なのである。

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