
- プレジデントオンラインの記事(10月8日)は、東北大の2010年の論文を根拠に「ご飯食の子は総合的なIQが高い」と書いた。でも論文の総合IQはp=0.06。有意差なし。言語性IQも動作性IQも有意差なし。
- 差が出たのはIQの下位指標7つのうち「知覚統合」1つだけ(p=0.021)。しかも論文が主解析と位置づけた3群比較では、IQに差はなかった。
- 論文の著者自身が「横断研究なので因果要因は特定できない」と限界の節に書いている。記事はそこを1行も紹介していない。パン群のほうが大きかった脳の部位があることも書いていない。
- 「ご飯の家はおかずと味噌汁、パンの家はトーストとジュース」問題。論文はおかずの品数は調整したが、中身と家庭の生活習慣は調整できていない。朝ごはんをちゃんと作る家かどうか、が丸ごと残ってる。
- 書いたのは医師。肩書きを看板にして、医学部で最初に習う「相関と因果の区別」を外している。自説のために論文をねじ曲げるのは、科学者がやってはいけないこと。
- ついでに記事後半の「現代小麦はグルテンが多い」「古代小麦は消化しやすい」も、調べたらかなり怪しい。正直な但し書き:ご飯がパンより悪いという話ではない。「この論文でIQの差は言えない」という話です。
こんにちは。永江です。
Facebookで回ってきた記事がこれ。めちゃいいねが付いてる。脊髄反射したんだろうな
朝食は「パン」と「ごはん」どちらが正解か…290人の子どもを調べた東北大の研究でわかった”知能の差”
日本人は朝食に米食とパン食のどちらを選ぶといいか。医師の桐村里紗さんは「日本の健康な290人の小児を対象とした研究で、朝食がご飯食の子どもと、パン食の子どもを比較したところ、総合的なIQに差がみられた」という――。
※本稿は、桐村里紗『土に触れる人はなぜ健康になるのか 身体の中の自然を育てる』(光文社新書)の一部を再編集したものです。
出典:PRESIDENT Online(2026年10月8日)/筆者:桐村里紗(医師)。光文社新書『土に触れる人はなぜ健康になるのか 身体の中の自然を育てる』の抜粋。ライブドアニュースやYahoo!にも転載
リードでは「総合的なIQに差がみられた」と桐村さんの発言として書かれている。しかも注記どおり、中身は桐村さん自身の本の再編集です。
タイトルで「知能の差」。プレジデントのランキングで1位にもなってた。で、子どもを持つ親がこれを読んで「明日からパンやめてご飯にしよう」となるわけです。
わたしはこういうの、元論文を開くことにしてます。記事にはちゃんとリンクが貼ってあった。PLoS ONEというオープンアクセス誌なので誰でもタダで全文が読める。読みました。記事と論文、書いてあることが全く違うんですよ。ww
白米がいいと言いたいなら、それを支える論文を持ってくればいい。ところが持ってきた論文を開くと、IQについては「差があるとは言えない」、因果については「わからない」と書いてある。自分の主張を支えてくれない論文を持ってきて、支えているかのように力説している。なので今回は、記事の中身より先に、まず論文を一緒に精査するところから始めます。
まず中身を押さえます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 論文 | Breakfast Staple Types Affect Brain Gray Matter Volume and Cognitive Function in Healthy Children(PLoS ONE 5巻12号 e15213、2010年12月8日公表) |
| 著者 | 瀧靖之、川島隆太ほか7名(東北大学加齢医学研究所) |
| 対象 | 宮城県の健康な子ども290人(男女145人ずつ、5.6〜18.4歳) |
| 集め方 | 幼稚園〜高校に29,740枚のチラシ → 1,423家庭が問い合わせ → 776家庭が参加希望 → 290人のMRIを撮影 |
| 群分け | 朝の主食が「白米」「白パン」「両方」の3群(郵送アンケート。10歳未満は親が回答) |
| 測ったもの | 脳の灰白質・白質の体積(MRI)、IQ(WISC-III/WAIS-III) |
| 調整した要因 | 年齢、性別、世帯年収(7段階)、朝食を食べる頻度、朝食のおかずの品数 |
| 研究デザイン | 横断研究(ある一時点で一回測っただけ。追跡も介入もなし) |
一番大事なのは最後の行。横断研究です。ご飯を食べさせたらIQが上がった、という実験ではない。「今ご飯を食べてる子と、今パンを食べてる子を、一回測って比べた」だけ。
これで言えるのは相関までです。
- 相関:ご飯を食べている子のほうが、ある指標が高かった
- 因果:ご飯を食べたから、その指標が高くなった
この2つは別物。アイス売上と水難事故が一緒に増えても、アイスが人を溺れさせてるわけじゃない。両方「夏」のせい。中学で習う話ですよね。ここで「お米の栄養素が」とか言い出したらトンデモです。
プレジデント記事は4ページ目で、ご飯食の子どもは「総合的なIQが高い」と報告されている、と書いてます。
論文の数字はこう。

p値ってのは、ざっくり言うと「本当は差がないのに、偶然これくらいの差が出る確率」です。医学や心理学では5%(0.05)未満でやっと「有意差あり」と言っていい、というのが一般的なルール。
- 総合IQ:p=0.06 → 有意差なし
- 言語性IQ:p=0.090 → 有意差なし
- 動作性IQ:p=0.107 → 有意差なし
- 知覚統合:p=0.021 → 有意差あり(ここだけ)
つまり総合IQについては「ご飯群の平均点のほうが高かったが、統計的に差があるとは言えなかった」。これが正しい読み方です。「IQが高い」と書いた時点でアウト。
さらに言うと、この論文はIQ関連で7項目を検定してる。総合IQ、言語性、動作性、それと下位指標が4つ。そのうち0.05を切ったのは1個だけ。
くじを7回引けば、1回くらい当たりが出やすくなるのは当たり前ですよね。だから複数の項目を同時に調べるときは、基準を厳しくする「多重比較の補正」をするのが筋。一番単純なやり方(ボンフェローニ法)だと基準は0.05÷7で約0.007。知覚統合のp=0.021はこれを越えられない。論文本文に、この補正をした記述はありません。
もう一つ。論文は「ご飯・パン・両方」の3群比較を主解析、「ご飯vsパン」の2群比較を追加の解析と、自分で位置づけてます。で、主解析の3群比較ではIQに有意差なし。上の図の数字は全部、追加解析のほうです。
メインで差が出ず、サブで切り直して1個出た。これを「知能の差がわかった」と呼ぶのはさすがに盛りすぎでしょ。
公平のために書いておくと、論文著者も考察で、p=0.06の総合IQを「substantially(実質的に)高い」と表現してます。有意じゃない結果を強めの言葉で書く癖は、論文の段階から始まってる。プレジデント記事はそれをさらに「IQが高い」に格上げした。伝言ゲームで数字が盛られていく典型パターンです。
これが一番ひどい。論文の最後、限界(Limitations)の節にはっきり書いてあります。
we cannot identify the causal factor(因果要因は特定できない)出典:Taki et al. (2010) Discussion(限界の節)
理由は横断研究だから。因果をはっきりさせるには追跡研究が必要だ、とも書いてる。さらに、調整した5つ以外の環境要因が影響している可能性は排除できない、米とパンの差はGI値以外の栄養素かもしれない、結果は慎重に解釈すべき、群の人数が不均等で統計に偏りが出たかもしれない、とまで自分で並べてます。
誠実な限界の書き方です。問題は、プレジデント記事がこの部分を1行も紹介していないこと。代わりに「GI値が低いから脳にポジティブ」という、論文が「考えられるメカニズムの一つ」として挙げた仮説だけを持ってきてる。
あと細かいけど、記事では「有意に大きい」が全部「優位に大きい」になってる。統計の「有意」と、勝ち負けの「優位」は別の言葉。変換ミスだろうけど、統計の話をしてる記事でこれが2回出てくると、まあ、そういうことかなと思いますww
記事はご飯群の脳で大きかった部位(左上側頭回など、両側の尾状核)を丁寧に紹介してます。それは論文どおり。
でも同じ論文に、パン群のほうが大きかった部位もちゃんと出てくる。両側の眼窩前頭回と右の中心前回あたり。白質の体積比はパン群のほうが大きかった。アブストラクト(要旨)の3文目に書いてあります。読めば必ず目に入る場所。
ご飯の勝ちだけ書いてパンの勝ちを書かない。これを世間ではチェリーピッキングと言います。
ついでに言うと、ご飯群が大きかった部位は、統計の厳しい補正(FWE補正)をかけた値で見るとp=0.528、0.954、0.764と全然有意じゃない。論文はもう少し緩い補正方法で有意としています。どちらの補正が妥当かは専門家の間でも議論があるところなので深入りしませんが、「脳が大きい」も記事が言うほど盤石な話ではない。年齢を分けて見ると、11.2歳未満の子どもではご飯群とパン群の灰白質の比率に有意差はなかった(p=0.066)ことも書いておきます。
ここがわたしの一番言いたいところ。
パンの朝って、トーストとジュース(大人はコーヒー)で終わる家が多いでしょ。中には目玉焼き程度は作るかもしれないが学園漫画では子供はトーストをくわえながら走って家を出ます。忙しい朝の最短ルート。
ご飯の朝はそうはいかない。白飯だけで食べる人はいなくて、納豆、卵、焼き魚、味噌汁、漬物等がつく。タンパク質やアミノ酸もいっぱい。バレーボールの選手の調査で背が高い子き家が和食という調査を見たことがあります。そしてご飯を炊いて味噌汁を作る家と、トーストを焼くだけの家。比べてるのは主食というより、朝にどれだけ手間をかける家庭か、なんですよ。
で、ここは正直に書きます。論文側もこれは気にしていて、朝食のおかずの品数は調整してる。だから「おかずの差を無視してる」わけではない。
ただし調整したのは品数だけ。アンケートでは乳製品、野菜、卵、肉、魚・大豆、スープ、果物、味噌汁、ジュース、紅茶・コーヒー、日本茶のどれを食べるかも聞いてるのに、統計で揃えたのは数だけです。つまり「味噌汁と焼き魚」の2品と「ジュースとコーヒー」の2品が、同じ2品として扱われている。
そしてもっと大きいのが、測ってないもの。
- 親の学歴(子どものIQとの関係がよく指摘される要素)
- 朝ちゃんと起きる、寝る時間が決まっている、といった生活リズム
- 家庭で親がどれだけ子どもに時間をかけているか
- 昼と夜の食事の中身
世帯年収は調整してますが、7段階の自己申告。毎朝ご飯を炊いて味噌汁を作れる家は、親が朝に時間を取れて、生活がきっちりしてる家である可能性が高い。それが子どものIQにも影響する、という説明で十分に話が通っちゃう。ご飯がIQを上げたんじゃなくて、ご飯を出す家の何かがIQと一緒に動いてる可能性を、この研究デザインでは潰せない。著者本人が「他の環境要因は排除できない」と書いてるのは、まさにこのことです。
それに対象は「チラシを見て、自分から脳のMRI研究に応募してきた宮城県の家庭」。約3万枚配って応募は1,423家庭。子どもの脳の研究にわざわざ応募する家庭が、日本の平均的な家庭だと思う人はいないでしょ。
タイトルはIQだけど、記事の2〜3ページ目はほぼ小麦批判です。こっちも調べました。
記事は、品種改良された現代小麦には古代小麦にほとんどなかったグルテンがたくさん含まれる、と書いてます。出典は示されていません。
これを実際に調べた研究があります。ドイツのライプニッツ食品システム生物学研究所のチームが、1891年から2010年までに登録された小麦60品種を同じ条件で3年間育てて比較した(Pronin et al., 2020, Journal of Agricultural and Food Chemistry)。結果は、グルテン量は120年間で変わっていない。タンパク質全体はむしろ少し減っていた。グルテンの中で免疫反応を起こしやすいとされるグリアジンの割合は減っていた。研究チームは、品種改良で現代小麦の免疫刺激性が上がったという証拠は見つからなかった、と結論しています。
記事は、カムット小麦、スペルト小麦、一粒小麦などの古代小麦ならグルテンが極めて少ないか構造が違うので消化しやすくリスクが少ない、と勧めてます。
でも、古代小麦も小麦です。グルテンは普通に入っている。2021年の総説論文(Nutrients誌)は、スペルトとカムットは試験管レベルの毒性が低めだったものの、セリアック病の患者にとっては今でも有害と考えられていると整理しています。一粒小麦、エンマー小麦、カムットからセリアック病の反応を起こすペプチド配列を検出した研究もある(Foods誌、2019年)。米国のセリアック病支援団体Beyond Celiacも、スペルトも一粒小麦もグルテンフリーではない、と明記しています。
グルテンで本当に困っている人が、この記事を読んで「古代小麦なら大丈夫」とスペルトのパンを買ったら困るわけです。ここは一番実害が出かねないところ。
「セリアック病じゃないけどグルテンで体調が悪くなる」という自覚がある59人に、グルテン入り、フルクタン(小麦などに含まれる糖の一種)入り、どちらも入っていないプラセボのシリアルバーを、本人にも研究者にもわからないようにして食べてもらった試験があります(Skodje et al., 2018, Gastroenterology)。
結果、お腹の症状を増やしたのはフルクタンのほう。グルテンとプラセボの間には差がなかった。研究チームは「非セリアック・グルテン過敏症」という呼び方そのものに疑問を投げかけています。
もちろんこれで「グルテン過敏は存在しない」と決着したわけではなく、犯人は一つじゃないという反論も専門誌に出ています。ただ、記事のように「現代小麦のグルテンが原因」と言い切れる状況ではない、ということ。記事のHLA(白血球の型)とアレルギーの話やモルヒネ様の中毒性の話にも、出典は示されていませんでした。
ここまで読んで、「まあ素人のライターが論文を読み違えたんでしょ」と思った人もいるかもしれない。違います。書いたのは医師です。記事のリードからして「医師の桐村里紗さんは〜という」で始まってる。読者は「お医者さんが言ってるなら」と思って読むわけです。
記事末のプロフィールを、そのまま要約します。
医師、株式会社天籟代表取締役、一般社団法人プラネタリーヘルスイニシアティブ代表理事。1980年岡山県生まれ、2004年愛媛大学医学部医学科卒業。内科医として予防医療・生活習慣病・在宅医療に従事。2022〜25年に東京大学大学院工学系研究科の社会連携講座を主宰。鳥取県江府町に移住し、地域経済圏の事業を展開。量子ゲート数理「四則和算」の社会応用にも取り組む、とある。出典:PRESIDENT Online 記事末の著者プロフィール(要約)
「量子ゲート数理」が何なのかは、わたしにはさっぱりわかりませんww そこは置いておきます。問題は「医師」の部分。
今の医療は「根拠に基づく医療」が大前提です。薬でも治療法でも、「効いた気がする」「相関があった」じゃなくて、比較試験で確かめたかどうかで判断する。横断研究は証拠の強さとしては下のほう。相関と因果を混ぜないのは、医学生がいちばん最初に叩き込まれる話です。
その医師が、
- p=0.06を「IQが高い」と書き
- 著者本人が書いた「因果は特定できない」を飛ばし
- パン群が勝った結果を落とし
- 「古代小麦はグルテンが極めて少ない」と、セリアック病の人が真に受けたら危ないことを勧めている
素人が書いたなら「まあ勉強してね」で済む。でも白衣の肩書きで書いた文章は、読者が「医学的に正しい」と受け取る。だから責任が重いんです。リンクまで貼ってるんだから、せめて論文の最後の「限界」の段落くらいは読んでから書いてほしかった。英語でたった1段落ですよ。
念のため。わたしは桐村さんの診療を見たことはないし、臨床の腕をどうこう言うつもりはない。言ってるのはこの記事に書かれた論文の読み方です。それだけで十分にまずい。
東大の講座を主宰していた研究者でもある。だったらなおさら。自説を主張するために論文の都合のいいところだけ切り取ってねじ曲げるのは、科学者がいちばんやっちゃいけないことでしょ。結論が先にあって、論文はその飾り。それは科学じゃなくて、宣伝です。
誤解のないように。わたしは「パンのほうがいい」と言いたいわけじゃない。ご飯に味噌汁、焼き魚。立派な朝ごはんです。食べられるなら食べたらいい。
そもそも、朝ご飯でIQが本当に上がるなら、毎朝ご飯と味噌汁を食べてきた日本から、ジョブズもアインシュタインもとっくに生まれてるはずですよねww パンをかじって育った国から出てきてるんですけど。
言いたいのは、この論文を根拠に「ご飯で子どもの知能が上がる」とは言えないということ。総合IQは有意差なし。主解析でもIQ差なし。因果は著者本人が否定。パン群が勝った部位は無視。おかずの中身も家庭環境も調整しきれていない。
この記事は書籍の抜粋です。「知能の差」という煽りタイトルは、おそらく編集部がつけたもの。でも「総合的なIQが高い」と書いたのは本文で、本文は桐村さんの本そのもの。編集部のせいにはできません。それが「医師が言っている」「東北大の研究」という看板で、ランキング1位になるくらい読まれた。リンクを貼るなら、リンク先に何が書いてあるかくらいは読もうよ。読者も同じで、「東北大」「290人」「医師」という大きい字が並んでいたら、まず元論文を疑ったほうがいい。大きい字はだいたいウソだから。
朝ごはんで本当に気にすべきは、パンかご飯かじゃなくて、そもそも食べてるか、主食だけで済ませてないか。それならトーストに卵とヨーグルトをつければいいだけの話です。
この先生、こういう本ばっかりだしていらっしゃるんですね
・桐村里紗「朝食は「パン」と「ごはん」どちらが正解か…」PRESIDENT Online(2026年10月8日)
・Taki Y, et al. (2010) PLoS ONE 5(12): e15213
・Pronin D, et al. (2020) J Agric Food Chem 68(46): 13247-13256
・Ancient and Modern Cereals as Ingredients of the Gluten-Free Diet(Nutrients, 2021)
・Celiac Antigenicity of Ancient Wheat Species(Foods, 2019)
・Skodje GI, et al. (2018) Gastroenterology 154(3): 529-539(PDF)
・Beyond Celiac「Is Spelt Gluten-Free?」
編集部より:この記事は永江一石氏のブログ「More Access,More Fun!」2026年10月13日の記事より転載させていただきました。









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