黒坂岳央です。
最近、何をするにもスマホが前提のサービスが増えていると感じる。
たとえば、筆者が通っている病院や歯科医院では、受付時にスマホでQRコードを表示してチェックインし、お会計までできる。予約も専用アプリから行う仕組みで、PCからは利用できない。
銀行や証券会社の中には、PCだけではログインや取引を完結できず、スマホアプリとの併用が必要なところもある。また、飲食店でも、テーブルに設置されたQRコードをスマホで読み取り、注文から決済まで自分の端末で完結させる店舗が登場している。
筆者は今後、こうした動きがさらに加速し、スマホを持たない人、使えない人が社会から事実上排除される時代がやってくると予想している。そしてそれは必ずしも悪いことではない。
なぜなら、スマホ前提の社会には、それを上回る大きなメリットがあるからだ。

Deagreez/iStock
企業がスマホを使わせたがる理由
スマホ前提のサービスが増えた理由は、企業にとって経済合理性が高いからである。
飲食店では従来は客が店員を呼び、注文を伝え、店員が厨房にオーダーを通し、最後はレジで会計する必要があった。一連のプロセスには大きな人手が必要だったのだ。ところが、客自身のスマホで注文から決済まで完結させれば、これらの作業を大幅に削減できる。人手不足の解消にもつながる。
また、病院なら受付業務の省力化、イベントなら紙のチケットの印刷・配送費削減、銀行なら本人確認の強化や不正送金被害の抑制につながる。
今年に入ってスマホ必須化の流れは加速している。2026年8月、セブン銀行はインターネットバンキングの従来の認証方式を廃止し、原則としてスマホアプリによる認証を必須化した。
また、イオン銀行も2026年9月にスマホ認証を導入した。2027年3月末にはメールによるワンタイムパスワード認証を終了する予定で、以降はスマホによる認証が必要なインターネットバンキングの振込などが利用できなくなる。
スマホを使えない少数派のためだけに従来の仕組みを維持すれば、その分の費用がかかるので、「スマホがないとお断り」というサービスは増加していくと予想される。
海外は日本の未来
こうした動きは日本だけではない。海外ではすでに、スマホを使えない人が不利益になる社会になりつつある。
その筆頭がスウェーデンだ。なんと、同国では「古いスマホ」では電子身分証が使えない。「BankID」という電子身分証が銀行取引や行政サービスなどで広く利用されているがモバイルBankIDの動作要件が引き上げられ、iPhoneではiOS 16以上、AndroidではAndroid 9以上が必要になった。
また、イギリスも同様で国民保健サービス(NHS)が、患者への連絡や予約管理をアプリ中心に切り替えている。これまで郵送していた診療案内などをアプリで通知すれば、印刷費や郵送費を大幅に削減できるからだ。
中国は言わずもがな。QRコード決済が広く普及し、日常生活のデジタル化が進んでいて、2020年には高齢者がスマホを使えないことで移動や買い物などに支障をきたす問題が生じ、政府が対応を求める事態となったほどだ。
日本でも遅かれ早かれ、似たような状況に変わっていくだろう。
スマホ前提は良い社会
こうした社会で最も不利益を受けるのは高齢者である。スマホは社会でサービスを受ける以上、持たざるを得なくなっていく。
だがそれ自体は良い流れだと思っている。まず、これまで続いてきたアナログの対応は非常に多くの労働力を必要とする。まだまだ世の中はアナログ対応が残っているが、人口減少が続けば対応が難しくなっていく。
先日、筆者が来店した店は完全に一人で運営する飲食店だった。複数にお客さんが来店していたので心配になったが、ほとんど待たされることなく、また何のサービスの不満もなく対応してくれたのだ。それには創意工夫とデジタル対応があった。
予約はオンラインの完全予約制で、電話は受け付けない。会計もキャッシュレスのみである。電話対応や現金管理の手間がないため、店主は調理と配膳に集中できる。
こうした省力化は望ましいことだ。スマホを持たない人、使えない人への対応についても、すべて無料で維持する必要はないと考える。
たとえば、飲食店や小売店で電話予約や個別の有人対応を希望する場合、追加の対応コストに応じて料金を設定する方法がある。これを弱者切り捨てだと批判する人もいるだろう。しかし、無料の個別対応にも人件費は発生しており、その費用は最終的に商品やサービスの価格に反映される。追加対応を希望する人が相応の費用を負担する仕組みには、経済的な合理性がある。
もちろん、医療や行政など生活に不可欠なサービスについては別の配慮が必要だ。しかし、一般的な商業サービスまで一律に無料のアナログ対応を求め続ければ、省力化のメリットは小さくなってしまう。
◇
スマホはもはや仕事や遊びのための道具ではなく、本人確認やさまざまなサービスを利用するための社会インフラになりつつある。人口減少と人手不足が進む日本では、従来と同じサービスを維持するために、利用者自身にも一定のデジタル対応が求められる時代になるだろう。
スマホを使えない人に社会全体が合わせ続けるのではなく、社会の省力化に合わせて利用者も変わっていく。筆者はその方向性を支持したい。
■
2026年7月、全国の書店やAmazonで最新刊絶賛発売中!
「Z世代を甘やかすな」(著:黒坂岳央)








コメント