COP31の見通しと課題:脱炭素の理念とエネルギー安全保障の現実

有馬 純

筆者は11月12~21日、トルコのアンタルヤで開催されるCOP31に参加する。通算21回目のCOPとなるが、主要な争点と見通しを述べたい。

異例の議長体制

COP31は、開催国を争ったトルコとオーストラリアがCOP30で妥協した結果、前例のない運営体制となった。

トルコが正式な議長国となり、ムラート・クルム氏が全体統括、首脳会合、政治的働きかけ、アクション・アジェンダを担当する一方、豪州のクリス・ボーエン氏が交渉議長として政府間交渉の合意形成を主導する。政治的な成果の発信と難航する政府間交渉をいかに両立させるかが問われる。

主要交渉の焦点

両議長が発出したレターによれば、主要分野で目指す成果は次の通りである。

第一に、途上国が重視する公正な移行作業計画(JTWP)では、移行メカニズムの機能やガバナンス、運営方法に合意し、稼働に道筋をつける。気候資金と並んで途上国が最も重視する分野である。

第二に、気候資金では、新たな資金目標(NCQG)と2035年までの適応資金3倍増を進めるとともに、世界全体の資金の流れを気候目標に適合させるパリ協定第2条1(c)と、先進国の途上国支援義務を規定する第9条の関係が焦点となる。COP30では途上国の主張を受けて第9条に関する作業計画が設置されており、引き続き途上国が重視する分野である。

第三に、緩和作業計画(MWP)では、EUや島嶼国が化石燃料からの移行を含めた強化を求めるが、各国の自主決定を重視する新興国・途上国との隔たりは大きく、進展は限られよう。

第四に、適応では、COP30で採択された59の指標を実際の政策や報告に活用するため、2026~27年の「ベレン・アディスビジョン」の下で、各指標の測定方法などを詰める。適応は排出削減と異なり、洪水対策、干ばつ対策、農業の強靱化などを共通の尺度で評価することが難しい。損失と損害については基金による初期案件への資金供与とサンティアゴ・ネットワークによる技術支援が課題となる。

第五に、2028年のCOP33における取りまとめを目指し、COP31から第2回グローバルストックテイクを開始する。具体的には情報収集・準備作業を進め、評価の基礎となる各国の報告書や科学的知見を集める。また、科学的知見が求める地球全体の排出削減と途上国が重視する衡平性をどう両立させるかも議論される。途上国はIPCC報告書でしばしば引用されるモデル計算(1.5℃目標と整合的な削減経路等)は先進国と途上国の格差是正という論点を無視しているとの不満を有しており、6月の補助機関会合においても大議論になった。

化石燃料をめぐる対立

興味深いのは4回にのぼる議長レターの中で「化石燃料からの移行(transition away from fossil fuels)」への言及がないことである。この点はEUや島嶼国等が脱化石燃料を強く主張し、ロシア、産油国等がこれに猛反発して大揉めとなったCOP28以降、ずっと火種であり続けてきた。

COP30においてはルーラ大統領が化石燃料依存克服に向けたロードマップ策定を提唱したこともあり、脱化石燃料ロードマップを成果文書に入れるか否かで議論が紛糾したが、合意を重視したド・ラーゴ議長の采配により、成果文書には盛り込まれず、議長国ブラジルのイニシアティブとしてロードマップを立ち上げることとなった。

議長レターにおいて化石燃料問題に明確に言及していないのは、そこに焦点を当てると議論が紛糾することが確実であり、しかも合意が全く期待できないからだろう。合意と実行を重視するのであれば、化石燃料問題を争点にすることは決して得策ではない。

本年7月にCOP30議長国ブラジルが公表したロードマップ策定方針では、①各国・地域・産業の事情に応じた異なる移行経路を認め、②エネルギー転換の構造的な障壁、システム上のリスク、実現条件を分析する一方、③国・部門別の義務的な削減目標、期限、責任分担を定めるものではなく、④UNFCCCで交渉・採択される正式な文書ではなく、各国の政策判断と国際協力を支援する戦略文書とするとの方向性が打ち出されている。化石燃料依存の高い国からの反発を避けるための配慮が滲み出たものである。

ロードマップは交渉文書ではないが、ブラジルはこれをCOP31で提示する意向であり、結論文書においてこれがどう扱われるかが争点になる可能性がある。EUや島嶼国は昨年同様、化石燃料からの移行の再確認、ロードマップ策定とフォローアップを主張するだろうが、合意の可能性は皆無である。このため、最大でも「ブラジルの策定したロードマップを歓迎する」程度にとどまるのではないか。

35by35の意味と限界

一方、トルコが推進する「35 by 35 Global Electrification Pledge」は、2035年までに世界の最終エネルギー消費に占める電力比率を35%に引き上げる自主的な構想である。COP28で合意した再エネ設備容量3倍、省エネ改善率2倍を補完する。

IEAが9月に公表した特別報告書『Electrification』は、電力比率が現在の23%から、既存の費用対効果の高い技術によって2035年に33%まで上昇し得ると分析しており、35%は射程圏内だ。

正式交渉が先進国の削減要求と途上国の資金要求の対立で行き詰まる中、議長国は有志国による自主的な取り組みで成果を示そうとしている。35by35は世界全体の目標で各国の負担が明示されず、発電構成にも踏み込まないため、比較的支持を得やすい。

ただし、電化が進んでも電源の脱炭素化が進まなければ排出削減効果は限定的である。EUや島嶼国は再エネ比率の引き上げも求めるだろうが、化石燃料削減の条件を付ければ新興国・途上国の反発を招く。決定文書への反映があるとしても、踏み込んだ内容にはならないだろう。

イラン戦争の影響

COP31はイラン戦争に伴う国際エネルギー情勢の激変の中で開催される。国連のグテーレス事務総長やUNFCCCのスティール事務局長は、化石燃料依存の危険が明らかになったとして転換加速を訴えるが、各国政府は安定供給と価格抑制への対応に追われている。

燃料価格高騰によってEV普及が促進される一方、中国・インドでの石炭増産やLNG価格高騰を受けたアジア諸国の石炭回帰など、脱炭素に逆行する動きもみられる。

現実のエネルギー政策を動かしているのは、脱炭素だけではなく、エネルギー安全保障と価格安定である。エネルギー転換の方向性をめぐる理念と、各国が直面する経済・エネルギー面の現実との乖離は大きい。こうした現実が、規範主義的な色彩の強いCOPの議論にどこまで反映されるかが注目される。

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