2026年10月15日、テスラは「空飛ぶクルマ」、新型ロードスターを発表しました。
ステージ上で、イーロン・マスクが大勢の聴衆に…
「これ、AIじゃないからね。商売の成功は保証しないけど、興奮することは100%保証するよ」
…と言いながら見せた実写動画は、かなり控えめに言っても「イカれて」ます。
まず、新型ロードスターがU字を横向きにした路面をゆっくりと登り、路面が垂直になっても吸いつて落ちず、逆さの状態でも吸い付いた状態を維持。さらに進んで路面から離れて空中に出ると、車体から圧縮空気を噴出して、車体を回転させ、ゆっくりと地面に着地。(写真の左上と左下)
次の動画では、並べたテスラ車5台に向かって新型ロードスターが突っ走ります。ぶつかる寸前、車体の底から圧縮空気を噴出して浮上。車体側面の数か所からも空気を噴射し、空中回転。そして車体を細かく制御して、自然に着地。(写真の右上)
宙に浮かぶ様子は、まるでバック・トゥ・ザ・フューチャーのデロリアンです。
加速も凄く、時速97Km(時速60マイル)まで0.81秒で到達。(写真の右下)
最高速度は370Km。逆さになっても走れるのは、車体底部のファンで空気を吸引し、路面に吸い付くからです。
高速走行では車体は宙に浮かび上がるので、レーシングカーレースで走る車は、車の後ろにウィングをつけていわゆるダウンフォース(下向きの力)を発生させて、車体を下向きに押さえつけます。
新型ロードスターでは地面に吸い付いて同じ効果を出します。
なおイーロン・マスクは「安全性を最優先したクルマではないからね」と言っています。
生産開始は2028年だそうです。
この発表は、世界を驚かせました。
私の周囲では、辛口で感度が高い人ほど、熱狂的に反応しています。これを見て「欲しい」と、思った方がいるかもしれませんね。
そんな方のために、テスラのサイトで既に予約を受け付けてます。
当日予約金は68万円。10日以内に614万円です。
なお、あくまで予約金です。
ただし納期も価格も未定。総額がいくらになり、いつ届くのかは分かりません。
恐らく「絶対欲しい…。5000万円なら何とかできそうだけど、1億円超えたら買えないなぁ」みたいな人は、恐らく対象外です。
世の中には、1億円や2億円を簡単に出せる人が意外と多いのです。
純金融資産が3000万ドル(約50億円)を超えるUHNWI(Ultra High Net Worth Individual)と呼ばれる超富裕層は、全世界で556,850人いて、この20年間で255%増です。
新型ロードスターが世に出たら、彼らがこれまで買っていたフェラーリやランボルギーニといった従来のラグジュアリー・カーは、色褪せそうです。
予約する超富裕層は意外と多いかもしれません。
発表を見て、改めて私は思いました。
「イーロン・マスクは、やはりマーケティングの天才だ」
マーケティング視点で考えると、この発表はなかなか凄いのです。
① ラグジュアリー商品の王道
空を飛んだり、地面に吸いついたり、超加速性能や時速370Kmはすごい技術ですが、冷静になって考えると、まず使いません。
しかし、これがラグジュアリー商品の本質です。
ラグジュアリー商品の価値は、機能的属性だけでなく、心を揺さぶる感情的属性なのです。
ラグジュアリー商品の年間販売数は、世界全体でも数百〜数千個で、希少性を追求します。納期にも時間がかかります。
そして価格や販売量は、提供者が決定します。
新型ロードスターは、ラグジュアリー商品の本質を捉えた施策を打っているのです。
② 独自性とブランド効果
この発表は衝撃的です。
脳髄の真ん中に、確実に「ズドン」というインパクトを与えます。
「すごい。このクルマ、カッコいい」
「やっぱりイーロンはイカれている」
従来のEVは、走行性能・航続距離・充電時間などが重視されました。
しかし新柄ロードスターは、誰も考えたことがない「空中を飛ぶ」と言う要素を加えることで、テスラの独自性を際立たせています。
この独自性が、ブランドの本質です。
実際にクルマで空を飛ぶ人なんていないかもしれませんが、実際に空中を飛べる市販モデルがあることで、「テスラ」「ロードスター」と言うブランド価値が上がっています。
ブランドのハロー効果です。
③ メンタルアベイラビリティーと、フィジカルアベイラビリティー
新型ロードスターは広告も宣伝もしていませんが、こうして発表イベントが拡散され、ニュースでも取り上げられ、既に多くの人が知っています。
さらに、自社サイトでも即日予約を始めています。
これは自社でクラファンをやっているようなものです。市場の反応を数字で把握でき、顧客もキャッシュも獲得できます。
そもそも売上は、以下の式で決まります。
売上 = 消費者の認知(メンタルアベイラビリティ)× 買いやすさ(フィジカルアベイラビリティー)
まず、メンタルアベイラビリティは、今回の衝撃的な発表で獲得。
その上でフィジカルアベイラビリティーも周到に用意し、ビジネスにつなげているのです。
④ 企業統合への布石
テスラという企業を経営する立場でも、この発表は重要な布石です。
現在、テスラの業績は伸び悩んでいます。
そこで模索しているのが、SpaceXとの企業統合です。
しかし株式市場では、両社が企業統合するとどんな効果があるのかを疑問に思われています。
今回の新型ロードスターの発表は、SpaceXの技術を活用することで、それをわかりやすく視覚化しています。
実際にイーロン・マスクも「世界最高の自動車会社とロケット企業が協力すると、こうしたことが起きる」と述べています。
今後、2社が統合する動きは加速するでしょう。
⑤ で、果たしてデリバリーできるのか?
今回の発表イベントで見せたのは、動画のみです。
実車はステージ上にゆっくりと入ってきて披露されましたが、実際に走る様子は、発表イベント動画を見る限り、ステージでは披露されていないようです。
また2028年発売とアナウンスされましたが、もしかしたら生産責任者からすると「ちょっと待ってください。あれは初期プロトタイプで、生産の目処は全く立ってませんよ」かもしれません。
しかしイーロン・マスクからすると「2年があれば充分でしょ」なのでしょう。
今後、新型ロードスターは、これからクルマとしての製品完成度を高めつつ、商品として生産できるようにチューンナップを始めていくと思われます。
振り返れば20年前の2006年、まだEVが世の中にほとんどなかった頃、テスラが最初に発表した車が、ロードスターでした。
この時も注文が殺到。このお金で、テスラはその後のEV開発ができるようになりました。
イーロン・マスクのマーケティングには、こうした技術面の裏付けがあります。
ただ実際には、コミットメントを果たせないことは実に多くあります。
自動運転も、以前から何度もコミットしてますが、延期を繰り返しています。しかし今や米国では、ハンドルがないロボタクシーが既にサービスを開始しています。
米国市場では、壮大なチャレンジは、少々雑でも許してしまうおおらかさがあります。
今の世界で評価されるのは、大きなリスクに挑戦し、失敗をしつつも、しぶとく成功を勝ち取る企業なのです。
編集部より:この記事はマーケティング戦略コンサルタントの永井孝尚氏のオフィシャルサイト(2026年10月20日のエントリー)より転載させていただきました。永井孝尚氏のメルマガのご登録はこちらから。







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