プルデンシャル生命の不適切金銭授受問題で同社は極めて大きなペナルティを受けることとなりました。今それに次いでソニーFG傘下のソニー生命で同様の問題が生じたことを受け、金融庁の調査が入るところです。保険業界は損保と生保は根本構造が違うとされますが、似た部分がある場合もあります。何故そのような問題が生じるのか見てみたいと思います。

プルデンシャル生命HPより
1年ちょっと前に損保関係の営業の方々と談義をしたことがあります。基本的には損保業界は個人事業主ではなく、会社や代理店が多いのですが、ダイレクトサービスをして個人外交員が成功報酬をもらう仕組みの会社もあります。私がたまたま談義したのは後者のケース。そしてその羽振りというか、大盤振る舞いにびっくりしたのです。「こんな派手な生活をしているのか?」と。するともう一人の外交員が耳元で「あの人は億を稼ぎますから」と。
その時ふと思ったのは組織内で億を稼ぐ人と数百万円しか稼げない人がいたらどのような事態が生じるのだろうか、という疑問でした。保険会社の営業は会社組織と違い、ヒエラルキーがなく、一匹狼の集まりです。当然、大きい仕事の契約を取れば社内で持ち上げられ、ヒーロー/ヒロインになる上に会社から更に様々な褒賞がつきます。よくあるのが成績上位者だけが招待される食事会。そこに集まる何十人かは過去半年とか、3か月と言った期間を区切って一定以上の売り上げをあげた会社にとってありがたい企業戦士達です。好きなだけ飲ませて旨いものを食わせるぐらい何ともありません。
この食事会に誘われるかどうかは保険外交員の心理を突くもので、隣の〇〇さんは2回連続で食事会に誘われたとか、向かいの席の〇〇さんは通算10回目らしい、などと怨嗟に近い噂話が様々出てくるわけです。
生保の場合はもっと熾烈で多くの生保営業担当者は個人事業主です。大手の生保レディは2階建て契約で、固定給の部分は会社の社員としての扱いで営業成績に応じて支払う能力給は個人事業主扱いです。また生保レディになってもすぐに仕事が取れるわけではないので年単位でこの2階建てのバランスが調整される仕組みになっており、入社したての頃は固定給が分厚いのですが、だんだんその割合が減っていく仕組みです。となると例えば5年やって成績が上がらなければ実質、さようならという感じになるのでしょう。
ギグワーカーと保険の外交員の違いは何か、というとギグワーカーの場合は労働力の提供という趣が強く、ある程度毎月の稼ぎが安定しているのですが、保険の外交員は営業成績ですから、時々デカいのが取れる、といったムラがあるのです。それを年単位で見るとある年は年収で2000万円稼いだけれど翌年は1000万円に下がることは往々にしておきます。すると何が困るか、と言えば税金なんです。特に外資系生保の場合、完全歩合制なので前年の収入に応じて今年の税金の予納もあるし、住民税は前年の収入をベースに翌年の5月から請求されます。成績にムラがあるとこれが払えないことが生じるのです。
また、経費は全部外交員持ちですから成績の悪い時には顧客への営業接待すら憚れることになります。更に上述のように成績の上位者と底辺の人が同じ部屋に所属しているので優勝劣敗が明白で成績が劣る人は多少、見栄を張るために盛りたくなるのが人間の性なのでしょう。
生保は人の入れ替えも結構あるので、辞めた人の地盤を継ぐという「底上げ効果」があります。一方、企業に昼休み伺って新入社員などがその生贄になるのは時代が変わった今でも全く同じ。私も入社したての頃、この生保レディさん達につかまって苦労しました。「今度お食事に行きましょう」という「悪魔のささやき」は数知れず。ただ内心「もう少し若い生保レディならなびいたかも」という若さゆえの思い出もあります。その企業派遣の生保レディも会社側は成績重視で、一定期間、契約が取れないとその人は出禁になり、次の人に交代させられます。なかなか厳しい社内ルールがあるわけで、生保レディたちはおいしい思いと苦い思いを織り交ぜながら日々、営業活動をしているのであります。
生保は既存契約のフォローアップが戦略上、非常に重要で、契約後も担当外交員が「いかがですか?見直しはしなくてよいですか?」とアプローチしてきます。そこで生まれるのが、外交員と顧客の個人的関係でそれが例の顧客からの借金や不正な投資話につながるのでしょう。
一般企業では営業担当者は数年に一度ローテーションします。銀行の担当も2-3年で変わります。それは癒着防止なのです。しかし、保険業界はその営業体制が独特の進化を遂げたので「おらがお客様」的な発想が強いのだと思います。銀行マンのような純粋な社員か個人事業主的な保険外交員かでそれは大きく変わるわけです。
今の保険業界の歩合制とか営業成績に基づく報酬システムは机上ではよくできているのですが、営業マンが全員、その枠の中に納まり、想定通りの成績を上げられないわけで、落ちこぼれ対策が抜け落ちている点も今回の問題が生じた原因の一つかもしれません。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2026年10月23日の記事より転載させていただきました。







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