セルビア議会選で政権交代が実現へ

バルカンの盟主セルビアで25日、早期議会選挙(一院制、定数250)の投開票が実施された。現地からの情報によると、新興勢力「学生の勝利、学生リスト」が過半数を獲得し、2012年以来政権を掌握してきたブチッチ前大統領が主導する「セルビア進歩党」の与党選挙連合「統一セルビア」を破り、政権交代を実現した。ブチッチ氏は同日夜、「学生リスト」の勝利を認めた。

「学生リスト(Student List)」が勝利したと認めたブチッチ前大統領,2026年10月25日、タニグ通信サイトから

現地からの情報によると、セルビアの各地では祝賀の光景が広がった。首都ベオグラードの街頭では、車列がクラクションを鳴らしながら市内を走り抜けた。ベオグラード中心部のデパート前では、主に若者たちからなる群衆が熱狂的に勝利を祝い、「セルビアは自由だ」と叫ぶ場面が見られた。

開票率56%の段階で、学生主導の勢力が「135から140議席」を獲得したもようだ。これは定数250議席の議会の過半数にあたり、単独で政権を樹立することが可能となる。ブチッチ氏率いる与党選挙連合「統一セルビア」は110議席前後の獲得に留まった。他の政党は議席を獲得できなかった。

投票率は、1992年のユーゴスラビア解体以来、70%に迫る最高水準に達した。海外居住のセルビア人の選挙へに関心が非常に高く、ウィーンではセルビア領事館の外に投票を待つ人々の列ができた。ロンドン、パリ、チューリッヒ、ストックホルムなどでも同様の光景が見られた。

セルビアでは次期議会選挙は来年12月の予定だったが、野党からの圧力に直面したブチッチ氏は、9月初旬に議会を解散し、早期選挙の実施を決定した。同時に、ヴチッチ氏は先月27日、大統領を辞職表明し、自身の所属する与党中道右派「セルビア進歩党」(SNS))の筆頭候補として出馬し、勝利した場合首相職に就任する意向を明らかにしていた。

セルビアでは2024年11月、セルビア第2の都市ノヴィ・サドの駅舎でコンクリート製の屋根が崩落し、16人が死亡する惨事が発生した。それ以来、学生たちは、この事故が「与党の汚職と手抜き工事」によって引き起こされた国家の人災であると激しく糾弾し、人口の1割以上が参加する同国史上最大規模の抗議デモへと発展した。当初、抗議活動は事故の解明が焦点だったが、学生が主導するデモはその後拡大し、政府全体や国内に蔓延する汚職を批判する動きへと発展していった。

その結果、与党進歩党に対抗する新生勢力として「学生の勝利、学生リスト」という候補者名簿が作成された。候補者名簿の顔ぶれには、多数の大学教授、医師、芸術家、スポーツ選手、起業家が含まれている。

「学生の勝利、学生リスト」の目標は、独裁的な政治スタイルのブチッチ政権を打倒し、民主主義と法の支配を回復することだ。「学生リスト」には、現役の学生はほとんど含まれていない。この運動を率いるのは、ノヴィ・サド出身で、人望の厚い心臓専門医イリヤ・スルダノヴィッチ氏。

同運動が掲げる11項目からなる簡潔な政策綱領には、法の支配と民主主義の回復、そして汚職や犯罪事件の追及が盛り込まれている。経済政策や外交政策については明らかはない。イデオロギー的に多様な顔ぶれからなる同リストは、内部の派閥争いを避け、幅広い支持基盤を確保するために、EU加盟やコソボ問題といった物議を醸すトピックにはあえて触れないようにしてきた。

一方、政権与党「進歩党」は国民に安定をアピールし、「学生リスト」に対しては「外部勢力に操られた混乱の仕掛け人」として描き出し、過去の選挙戦と同様、公約や選挙前の給付金で有権者を惹きつけようとしてきた。選挙戦の期間中、ブチッチ氏は主に年金受給者や社会福祉の受給者に向けて現金を配布する措置を講じ、年金の引き上げを約束した。

首相や大統領として12年間にわたり権力を維持してきたブチッチ氏は、その独裁的な統治手法を駆使し、国家機関やメディアの大部分を自らの支配下に置いてきた。 ブチッチ氏に近いタブロイド紙は、学生候補者らの信用を失墜させるような報道を行ってきた。

親ロシア、親中国の外交を推進してきたブチッチ政権が倒れたことで、セルビアの欧州連合(EU)の加盟交渉が動き出す可能性が出てきた。セルビアは2014年以来、EUと加盟交渉を開始してきたが、ブチッチ政権の専制主義的政治スタイルが交渉のブレーキとなってきた経緯がある。

なお、今年4月のハンガリー選挙で16年間君臨してきたEU懐疑派のオルバン政権が倒れ、今度はセルビアで14年間君臨してきたブチッチ政権が選挙で敗北したわけだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年10月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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