『俺のこと、何か言ってた?』の高瀬川玄は現代人の生き写し

内藤 忍

ネットフリックで公開されたばかりのドラマ『俺のこと、何か言ってた?』を早速観ています。久しぶりに大笑いしながら考えさせられる作品です。一見するとシュールなコメディのように見えますが、その根底に流れているのは、現代人が陥っている病理への強烈な皮肉ではないかと思います。

脚本を手掛ける宮藤官九郎氏のセンスは、以前話題になった『不適切にもほどがある!』にも通じます。笑いの中に時代を切り取るテーマを入れ込みテンポよく進めていく切れ味の鋭さがあります。時代の空気感や人間の愚かさを笑いに昇華させつつ、後から考えさせられる手法は見事というほかありません。

今回のドラマのテーマは「現代人の承認欲求という病」ではないでしょうか。

役所広司さん演じる大物舞台俳優「高瀬川玄」が、パンデミックでワクチンを接種した日本人が記憶喪失になることによって忘れ去られた存在になってしまう。俳優も知名度が無ければ誰からも相手にされないただの年老いたおっさんです。

誰もが知っている存在から誰も知らない存在への大転換を見ると落ちぶれた存在に見えてしまいますが、実は現実の世界のほとんどの人は元から誰にも知られていない無名の存在。ドラマで言えばセリフすらないエキストラのような存在です。

ところがスマホとSNSの登場によって世の中に知られて注目される存在になれる可能性が出てきました。そこで他人の視線や評価に一喜一憂し、SNSのフォロワー数や「いいね」の数で自分が認知されているかどうかを確認したいと思う「承認欲求」が肥大しているのです。

注目を集めるためにSNSに高級ワインや高級レストランの写真をアップしたり、自分の自慢の家族やペットの写真をアップしたり、さらには自分自身の「奇跡の一枚」や女性であれば水着の際どい写真までアップしてしまう。

しかしそこまでやっても実は関心を示す人はごく一部に過ぎないのです。

有名芸能人やいわゆるインフルエンサーのような人を例外とすれば、SNSにアップされているコンテンツのほとんどは自己満足に過ぎません。

「承認欲求」というのは麻薬と同じように中毒性があって気が付かないうちに誰もがその罠にはまってしまうのです。

サウナで働く無名になった高瀬川玄を見ていて自分の姿が生き写しに見えてきて何だかドキッとしました。

今回のドラマがそんなテーマを最後にどのように調理していくのでしょうか。実はドラマはまだ途中までしか見ていませんが、この先どんな展開が待っているのか、最後まで見るのが本当に楽しみです。


編集部より:この記事は「内藤忍の公式ブログ」2026年10月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

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資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。

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