2026年9月30日、ニデックは2026年3月期の決算を発表した。最終損益は約5,646億円の赤字で、監査法人は「意見不表明」とした(参照:「ニデック、最終赤字5646億円 監査法人は『意見不表明』」 EE Times Japan 2026/09/30)。
意見不表明とは、決算が正しいかどうかを判断できるだけの証拠を、監査法人が得られなかったという意味だ。
監査法人が判断できなかった理由は、会計不正にある。3月に公表された第三者委員会の調査報告書は、グループの多くの拠点で、売上の早期計上や固定資産の減損回避といった不適切な会計処理が行われていたと認定した。原因として挙げたのは、過度な業績プレッシャーと、永守氏への権限の集中である。営業利益率10%は必達目標とされ、報告書は、最も責めを負うべきは創業者の永守氏だとした。
永守氏の責任が重いことに異論はない。だが、トップが強権だったからで終わらせると、何が不正を生んだのかが見えなくなる。数字での評価は重要だが、ニデックでは数字そのものが人格の証明になっていた。不正の根っこはそこにある。数字で詰められ、自分がだめなのだと思ったことのある人には、他人事ではないはずだ。
筆者は、数字と人の値打ちを切り離さない限り、同じことはどの会社でも起きると考える。企業の事業計画づくりを支援する中小企業診断士の立場から、数字と人格が結びつくとなぜ不正が起きるのかについて、ニデックでの実際のメールや調査報告から考えてみたい。

ニデック元名誉会長の永守重信氏
「未達でよろしい」と「結果は器に比例する」が同じメールに
ニデックではまさに、数字と人の値打ちとなっていた。
第三者委員会の報告書は、永守氏のメールを取り上げている。そこには次の2文が並ぶ。『不正行為によって事業計画過達にするぐらいなら未達でよろしい。』『経営結果は経営トップの器や経営力に比例するものであり、それ以上もそれ以下もない。』(引用:「第三者委員会の調査報告書の公表及び当社の対応に関するお知らせ」 ニデック株式会社 2026/03/03)
前半は不正を戒めている。だが後半は、結果の良しあしをトップの器、つまり人の大きさで説明している。未達でもよいと言われても、未達を報告すれば自分の器が小さいと認めることになる。これでは言い出せない。
器の話は、言葉だけでは終わらなかった。報告書は『多くの経営幹部が、業績悪化の責任を取って降格されたり、ニデックからの「退場」を余儀なくされている。』と記している。器が小さいという評価は、そのまま降格や退場という処遇につながっていた。
では、届かなかった人に何が足りなかったのかは検討されたのだろうか。報告書には、国内グループ会社の幹部の証言がある。『業績フォロー会議の場で、グループ会社担当の執行役員が業績目標達成のための具体的な助言をすることはない。単に目標を達成するよう強く求めるだけである。』
結果を人の問題にした職場では、行動を見直す話し合いそのものが行われていなかった。
数字が人格になると、なぜ不正が起きるのか
では、数字が人の値打ちになると、なぜ不正が起きるのだろうか。
本来、会社の数字は理念から始まる行動の結果である。ニデックの社是は『誠実な心をもって全世界に通じる製品を生産し』、『社会に貢献する』ことをうたう。その理念のもとで社員の動き方を示すのが、三大精神の一つ『すぐやる、必ずやる、出来るまでやる』だ(引用:「統合報告書2024」 ニデック株式会社)。
つまり目的は、誠実なものづくりと社会への貢献にある。売上や利益といった数字は、それがどこまでできたかを確かめる手段だ。この順番なら、目標に届かなかったときは、どの行動が足りなかったのかを数字から逆にたどって問える。
ところが数字を人格にすると、目的と手段が逆になる。数字を達成した人が、誠実で社会に貢献している人として扱われる。届かなかった人は、器が小さい人、やる気のない人になる。数字が、人の値打ちを決めるものさしになるのだ。
そうなると、不正が起きやすくなる。なぜなら、未達を報告することが、自分は劣った人間だと認めることになるからだ。。単なるプライドの問題ではない。地位がかかれば、人は自分を守ろうとする。何が足りなかったのかを話し合う機会はなくなり、数字をごまかしてでも届かせようとする力が働く。
しかも、数字さえ届いていれば誠実な人として扱われるので、届いた数字の中身は誰も確かめない。そのとき『出来るまでやる』は、ごまかしてでも届かせるために働いてしまう。
目標と不正の関係については、米国の研究者シュバイツァーらが2004年に発表した実験がある。「○問解け」と具体的な目標を与えられた人は、「ベストを尽くせ」とだけ言われた人より不正をしやすく、あと少しで届かなかった人ほどその傾向が強かった。目標の達成に金銭の報酬がつくかどうかは、結果に関係がなかった(参照:「Goal Setting as a Motivator of Unethical Behavior」 Academy of Management Journal 2004/06)。
つまり人は、お金が欲しいからではなく、「目標に届かなかった(失敗した)」という事実そのものを心理的に受け入れがたく、それを取り繕うために不正をしてしまう、ということだ。そこに人格の否定と、降格や退場が重なれば、動機はさらに強まる。
成果で評価するのは間違っていない
「成果で評価して何が悪い。厳しく求めたから会社は伸びた」という声はあるだろう。
永守氏は『このようなやり方を否定するのであれば、日本から 1 兆円企業が誕生することはない』と繰り返し述べていたという。第三者委員会も、高い目標を掲げることそのものは『否定するものではない』としている。
もちろん、成果で評価するのは企業として当然のことだ。ただし、会社が伸びていた時期のやり方は、数字を求めるだけではなかった。永守氏は第三者委員会にこう述べている。『2010 年頃までは、工場に直接出向いて現場を見る機会も多く、現場の役職員と議論をして、無理な計画は改めさせることもできたが、グループの規模も拡大し、現場に頻繁に行けなくなってから、おかしくなってきたと思う。』
厳しい目標は、何が無理で何が足りないのかを現場で一緒に確かめる作業と組になっていた。なくなったのは厳しさではなく、この作業のほうである。
成果で評価することと、数字を人格にすることの違いはここにある。成果で評価する職場は、数字を見たあとに行動を見る。数字を人格にする職場は、数字を見たところで評価が終わる。届いた人は誠実、届かなかった人は器が小さい、で話が済んでしまう。
しかも後者は、成果主義としても成り立たない。成果で評価するには、数字が本当であることが前提になる。未達を言えない職場では、数字がごまかされる。ニデックの決算は、監査法人が正しいかどうかを判断できないものになった。数字を何より重んじた会社が、数字を信じてもらえなくなったのである。
問うべきは「何が足りなかったか」
会計不正を受けて、ニデックは『必ず正しくやる』という価値観を掲げた。これを『単なる精神論に留めることなく、実効性のある仕組みとして再構築していく』ともしている(引用:「改善計画書のご説明」 ニデック株式会社 2026/01/28)。
だが、標語を言い換えても再発は防げない。決算発表の前日、社長が辞任した。会社は、過去の決算を訂正する過程で『当社グループ役職員の旧執行体制下における行為を再評価する中で』、社長に『財務報告に関し必ずしも適切とは言いかねる言動もあった』ことが確認されたと説明している(引用:「代表取締役社長執行役員の辞任および新社長執行役員等の選定に関するお知らせ」 ニデック株式会社 2026/09/29)。新しい価値観を掲げて再生を率いていた社長も、古い体制の中にいたのである。
標語だけでは風土は変わらない。変えるべきは、未達を報告されたときの最初の一言である。
これはニデックだけの話ではない。未達を報告する場面を思い浮かべてほしい。部下として上司に報告するときも、管理職として経営陣に報告するときも、立つ位置は同じだ。そのとき最初に飛んでくる質問は「どの行動が足りなかったのか」だろうか。それとも「なぜできないのか」「やる気はあるのか」だろうか。
前者の問いは、話を数字から行動へ戻す。次の打ち手が決まり、同じ未達を繰り返さずにすむ。後者の問いは、話を人へ向ける。報告する側は自分を守るため、次から未達そのものを隠そうとする。
目標を高く掲げるのはいい。成果で評価するのもいい。未達を報告するときは、自分の器の話ではなく、どの行動が足りなかったかから話し始める。報告を受ける立場になったら、最初の質問をそこから始める。
問うべきは「何が足りなかったか」であって、「お前は何者か」ではない。
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濵口 誠一 中小企業診断士
従業員2万名の企業から10名の企業まで、約20年経営企画に従事し1000件以上の事業計画を策定。現在は中小企業診断士として経営戦略から実行支援まで行う。言語化・数値化を得意とし「話しているだけで悩みが解決した」「目標が従業員に伝わるようになった」という評価多数。
公式サイト:https://billion-break.com/
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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2026年10月27日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。






