自称哲学者の内田樹氏と東京新聞記者の望月衣塑子氏による共著『常識なき世界を生き延びるために』(朝日新書)が、書籍に多数の事実誤認が見つかった問題を受け、販売が中止され、回収されることになった。
内田氏は11月1日、自身のXで「書籍は回収、Amazonでの発売も中止ということを昨夜朝日新聞出版から伺いました」と報告した。

同書は2026年9月に朝日新聞出版から刊行された対談本で、政治や社会、メディアの問題を論じたものだ。しかし、「日本中学生新聞」の創刊者である川中だいじ氏について、本人が語っていない発言や、実際には起きていない出来事が事実として記述されていた。
「ほとんどが事実ではない」と当事者が抗議
問題が発覚したのは、川中氏本人が書籍の記述に誤りがあると指摘したことがきっかけだった。
本書には、川中氏が小学生時代に学校で新聞を掲示したところ教師に剥がされたというエピソードや、外務省への取材を申し込んだものの、記者ではないことを理由に断られたという話が掲載されていた。
しかし、川中氏はこれらを事実無根だと否定し、Xで望月氏が自分について語っている内容のほとんどが事実ではないと訴えた。
ほかにも、川中氏が同級生から「老害」と呼ばれたという記述や、本人の発言が別人の発言として紹介されていた問題などが指摘された。
単なる誤字脱字や数字の間違いではない。実在する人物について、存在しないエピソードが複数掲載されていたのである。
望月氏「最大の責任は私にある」と謝罪
問題を受け、10月28日に望月氏と内田氏はそれぞれXで謝罪した。内田氏は、校正段階で誤りを見抜けなかったことを認めた。望月氏も、川中氏や関係者を傷つけたことについて謝罪した。
朝日新聞出版は10月27日に訂正を掲載し、31日には公式サイトで改めて謝罪した。しかし、書籍の販売が続いていたことから、対応の遅さを批判する声も上がっていた。
そして11月1日、内田氏が書籍の回収とAmazonでの販売中止を報告した。同日、望月氏も自身のYouTube番組で生配信を行い、「最大の責任は私にある」と謝罪した。
望月氏は、川中氏を取り上げたのは若い世代が日本の政治や社会を変えていくという期待からだったと説明した。しかし、結果として川中氏を傷つけてしまったと述べ、著者としての確認が不十分だったことを認めた。
誤った記述が生じた原因については、弁護士らと対談記録を照合して調査しており、結果を公表する意向を示している。
フェイクニュースを批判する本が事実誤認で回収される皮肉
今回の問題がとりわけ深刻なのは、本書がデマやフェイクニュース、陰謀論などを批判する内容だったことである。
望月氏は東京新聞の記者として、政府や政治家の発言を厳しく追及してきた。内田氏も社会問題について積極的に発言してきた論客である。
その2人が、事実確認の不十分な情報を著書に掲載し、結果として書籍の回収に至ったことは皮肉というほかない。
対談本では発言の文字起こしや編集の過程で誤りが生じることはある。しかしそれはゲラで修正するのが常識で、その手を抜いて本人が語っていない内容を事実として掲載することは非常識も甚だしい。
問われるジャーナリストと出版社の説明責任
今回の問題では、著者だけでなく朝日新聞出版の編集・校閲体制にも疑問が残る。
複数の事実誤認がどの段階で生じたのか。対談の発言そのものに誤りがあったのか、それとも編集過程で内容が変わったのか。
これらは現在調査中であり、現段階で意図的な捏造があったと断定することはできない。
しかし、原因が何であれ、実在する人物について事実ではない記述が出版され、当事者から抗議を受けて回収に至ったという結果は重い。
政治家や政府の説明責任を追及するジャーナリストであれば、自らの誤りについても同じ基準で説明する必要がある。
書籍を回収すれば問題が終わるわけではない。著者と出版社には、誤りが生じた具体的な経緯と、再発防止策を明らかにする責任がある。
フェイクニュースを批判する人々が、フェイクニュースと同じような誤情報を広めてしまった。
今回の騒動は、情報の真偽を判断するうえで、発信者の知名度や政治的立場よりも、事実確認こそが重要であることを改めて示している。






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