セルビアのノヴィ・サドの鉄道駅で起きた駅舎のひさし崩落事故から2年を迎えた1日、追悼集会が開かれた。2024年11月1日に発生した事故では16人が命を落とし、生存者はわずか1名だった。同駅の駅舎は、ノヴィ・サドとハンガリー国境を結ぶ鉄道路線の建設工事の一環として改修されたばかりであった。

セルビアの新勢力「学生リスト」のロゴ、「学生リスト」公式サイトから
ノヴィ・サド駅での惨事は、セルビア全土で、アレクサンダル・ブチッチ大統領の政府に対する前例のない抗議の波を引き起こした。そして2年後の先月25日に実施された議会選挙で14年間君臨してきたブチッチ政権は退陣に追い込まれた。同事故は‘セルビア政変‘の直接の切っ掛けとなった。
ちなみに、改修工事は、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」の一環として進められていた「ブダペスト(ハンガリー)ーベオグラード(セルビア)間」の鉄道近代化事業の一部。共同で元請けとして工事を請け負ったのは中国鉄路国際有限公司(CRIC)と中国通信建設有限公司(CCCC)の企業連合だ。資金の85%は中国側の融資だった。
ところで、議会選ではブチッチ前大統領が率いる与党「セルビア進歩党」(SNS)に対して圧勝し、定数250議席中、140議席を獲得した新勢力「学生の勝利・学生リスト」(SL)は現在、メディア、司法に対し、新しい政治情勢に適応するよう圧力を強めている。
「学生リスト」は親欧州派、右派ナショナリスト派、そして緑の左派といった勢力に分かれており、調整が必要な状況にある。現地メディアでは、デヤン・ショスキッチ前中央銀行総裁が次期首相の候補として取り沙汰されている。次期政権の構成が明らかになるまでには、まだ時間がかかる見通しだ。
なお、選挙で不正が確認されたため、53カ所の投票所で再投票が実施。同国の憲法によると、選挙の最終結果が明らかになり次第、30日以内に新議会が招集され、その後90日以内に新政権が発足しなければならない。
「学生リスト」と呼ばれているが、現役の学生や職業政治家はほとんど含まれていない。大学教授、知識人、弁護士、芸術家などが中心で、政治分野でのキャリアを有する者はいない。同運動が掲げる11項目からなる簡潔な政策綱領には、法の支配と民主主義の回復、そして汚職や犯罪事件の追及が盛り込まれている。経済政策や外交政策については明らかはない。SLは政権を発足するためにはより迅速な意思決定を可能にする政治組織が急務となる。
権力の空白が生じている中、学生グループは各分野で権力の移行を求めている。セルビア進歩党(SNS)が依然として強固な基盤を持つ地方自治体レベルでは、市長らに辞任を要求している。また、先月29日に開かれた記者会見では、警察、情報機関、司法といった国家機関の幹部らに対しても、その職を退くよう求めた。
ブチッチ氏が支配してきた司法の分野にも綻びが生じ始めている。報道によると、約2年前に16人の命が奪われたノヴィ・サド駅での惨事についても、司法当局は捜査を再開する予定だ。捜査は、ベオグラードのネナド・ステファノヴィッチ首席検察官の指示によってこれまで妨げられてきたという。
また、ブチッチ前政権は国内のメディアの約90%をその支配下に置いてきた。それだけに、SLは現在、メディア界の指導者の入れ替わりなどを進めている。
「学生リスト(SL)」は公開書簡の中で、公共放送RTSの幹部マンヤ・グルチッチの辞任を求めてきたが、同氏は28日に辞任した。SLは以前から、同放送局が学生運動を報道で無視するか、あるいは積極的にその信用を傷つけようとしてきたと非難してきた。29日には、さらに編集スタッフの交代が行われた。同日の主要ニュース放送の中で、同局はこれまでの報道のあり方について謝罪している。
一方、ブチッチ前大統領やその政党「セルビア進歩党」は政党の再編を実施する予定だ。ブチッチ氏は12月に予定されている大統領選挙に、自身の党から候補者を擁立しないことも明らかにする一方、「学生リスト」に対し、繰り返し「革命的テロを行っている」と非難している。
政治学者のヴェドラン・ジヒッチ氏は先月27日、オーストリア放送協会(ORF)のラジオ番組で、「選挙での勝利は実際に国を統治することに比べれば容易なことだ」と指摘している。人事や政策といった多くの重要な問題が、依然として未解決のままだからだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年11月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。







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