金融危機の犯人探しと今後の検討課題 - 北村隆司

北村 隆司

社会を揺るがす事件の後、犯人探しが始まるのは時代や国境を越えた人間社会共通の性癖だ。米国では上下両院揃って、次々に証人を呼び出し激しい聴聞を続けた。この公聴会は毎回4-8時間続き、充実した議会スタッフを駆使して調べ上げた証拠に基き、言動の矛盾を突いたり、犯罪性の有無を厳しく問うたりする内容は迫真に迫るものだった。議会聴聞会を公開し、全米にTV放送するアメリカの透明性は、日本も見習って欲しいものだ。


テレビ局自身もそれぞれに工夫を凝らし、犯人探し番組を制作している。CNNは「金融危機を引き起こした10大容疑者リスト」を作り、夫々の罪状を詳報した。この番組で挙げられた個人犯のトップ5は、大損害を日本を含む世界中にばら撒いた人物でありながら、日本人にはあまり知られていないのではないだろうか?

1位 ジョセフ・カッサノAIGの金融商品事業本部長 (CDSを乱発して会社を国の管理下に追い込んだ張本人。10数年間でAIGから得た報酬は300億円を超え、責任を問われて退職した後も月額1億円強の顧問料を受け取り、議会で大問題となった人物)。

2位 リチャード・フルド リーマンブラザース会長 (倒産したリーマン・ブラザースで永年に亘り君臨したビリオネアー。リーマンから得た2007年度の報酬額は50億円を超え、レーマンの倒産で600億円を遥かに超える個人資産を失ったといわれる。)

3位 クリストファー・コックス現証券取引委員会委員長(南カリフォルニア大学からハーバードのロー・スクールとビジネスス・スクールを同時に卒業した秀才。弁護士から下院議員を経て委員長に就任。アメリカ証券委員会は警察力も持つ強力な機関でありながら、規制を嫌うブッシュ政権の意向を受けて放任政策を行ったと集中砲火を浴びた。)

4位 フィル・グラム前テキサス州選出共和党上院議員 (徹底した規制反対派。経済学者でもある同氏は上院議員時代の影響力も強く、放任行政の影の責任者といわれている。)

5位  アラン・グリーンスパン前連銀総裁。(1987年から2006年迄の20年近く縁銀総裁を勤め、インフレを防ぎながら米国の成長の舵取りをした、神格的連銀総裁。議会で危機の責任を追及され、金融政策の正当性を主張しつつも、「ベストアンドブライテスト(学校俊才)の集る金融界を信用していたが、これ程強欲に走るとは思わなかった。規制無用論の信念は揺らいだ」と証言した。

組織としては、1位 證券取引委員会、2位 連銀(アメリカ中央銀行)、3位 米連邦住宅抵当金庫及び米連邦住宅貸付抵当公社、4位 格付会社、5位 アメリカ国民(過剰消費の罪)が、5大犯罪組織に指名された。国民にも責任があるとして、きちんと断罪しているところが、CNNの面目躍如たるところだ。

今後の金融秩序を考えるに当たって、大至急検討すべき項目として、私は下記を上げているが、さて、どんな議論が出てくるのだろうか?

1)金融派生商品(定義で揉める事は確実だが)の取引は相対取引は禁止して取引場経由とする。

2)先物を含め、実物取引以外の取引には全て「取引税」を賦課する。

3)所有権の変換を伴わない空売買には「取引税」に加え、証拠金を引き上げる。

4)金融機関はグラス・ステーガル法以前に近い状態に戻し、綜合金融サービス業モデルを見直す。

5)格付け会社が證券その他財務商品の発行企業から所得を得ることを禁止。

6)格付け方式の大幅見直し。

7)経営者の報酬審議会のメンバーは、公器としてのステーク・ホールダーの代表者をもって構成する。

8)ペンション・ファンド等、不特定多数の人間の資産を預かる機関が、ヘッジファンド等の投機性の高い企業へ投資することを原則禁止。

9)租税回避地との全ての取引(財の移動)に各国が平衡税を賦課する國際協定の締結。

10)レバレッジの上限設定の國際協定の締結。

ニューヨークにて 北村隆司