企業防衛と消費者の利益 - 中川信博

中川 信博

出光佐三は人間尊重、大家族主義、独立自治、黄金の奴隷たる事勿れ、生産者より消費者への5つを社是に今日の出光興産を築いた人ですが、特に最後の「生産者より消費者へ」は出光が戦前、戦後を通して国内外の独占企業との戦いを通し貫いた姿勢です。


今日政治でさえ「消費者の目線で」とか「国民目線」などとしていますが、企業戦略を遂行する中で時にはこの消費者の利益を無視しなければならないこともあるようです。
1995年マイクロソフトのウインドウズ95の発売が喧しいとき、私はある企業コンサルタントの方からある商品の販売にかかわらないかとのお誘いで、当時普及し始めたインターネットを利用したビジネスモデルを起案して起業しました。

会社はコンサルタントの方が出資しているソフトハウスの休眠会社を借り受け、コンサルタントの方の事務所の一角で事業を始めました。

商品はある工場経営者が開発した寒冷地対策の自動車用品、ビジネスモデルはインターネットで販売したものをガソリンスタンドで受け取らして、取り付けもガソリンスタンドで行なうというものでした。結局このモデルは加盟してくださるガソリンスタンド獲得がすべてでしたが、スタンドに部品を納入している卸会社との折り合いがうまくゆかず頓挫いたしました。

しかしながら一部の地域の2次卸会社にご協力頂くことができた、スタンド店頭で販売することが出来るようになり、店頭に陳列する為パッケージをデザインしました。商品が店頭に並ぶ頃を見計らって、商品の知名度を上げるため、新聞やテレビに広告を出しました。

このときのパッケージや広告のデザインをして頂いたデザイナーから興味深い話を聞きました。

それはその時期から10数年前、ある中小企業が超音波を使った洗剤いらずの洗濯機を開発し、売り出そうとしていたときのことです。そのデザイナーは早い時期からその洗濯機の開発にかかわっていて、当然のこの売出しも彼のプロデュースで行なわれるはずだったのですが、結果はこの商品は世にでませんでした。

洗濯機は超音波で汚れを分離するだけでなく、汚れを浮き上がらせるので上澄みを流せば洗濯水はまた使用でき、かなりの節水にもなります。また当然洗剤を使用しないので排水もきれいです。白い衣類は、若干の洗剤を使用すれば漂白剤を使用するより白く洗濯できるのでその意味でも環境にやさしい商品でありました。

なぜ世に出なかったのか、その理由は国内外の影響を受けると推測される企業が周辺特許(正確には実用新案になるかとおもいますが、彼がそういっていましたので)を次々と取得しました。その結果その洗濯機を1台造るのに100万くらいかかってしまうことになりました。当時河川に流される生活排水が問題視されていた時期だけに、その洗濯機が普及することは関係する企業にとっては致命的になりかねませんでした。

現在、三洋電機が超音波を利用した洗濯機を商品化していますが、もしこの洗濯機があの当時実用化されていたならば、河川の浄化は20年以上早く進んだ可能性があります。

マイクロソフトは消費者利益の向上のため、インターネットエクスプローラーやメディアプレイヤーのOS抱き合わせを係争して、ネットスケープナビゲーターやリアルプレイヤーを駆逐してまいりました。これによって私達消費者は多くの利便性を享受致しました。(アメリカでは独占禁止法との兼ね合いが常にと取りざたされていますが)

しかし上記の洗濯機の場合、消費者の利益は見捨てられました。厳密に言えばその中小企業に戦略が欠如していたのと係争するだけの資金力が無かったことが原因ですが、それにしてもあまりにも大きい消費者の利益と、環境に対する配慮が対抗企業には欠如していたとはいえないでしょうか。

企業防衛と消費者の利益という問題は経営者が意思決定をするうえで微妙であります。企業防衛の為、合法的に行なわれる戦略はときに、消費者の利益を大きく損なうことがあります。あるいは違法すれすれの戦略をとらなければならない場合もあります。

しかしながら「economy」を経済と経世済民の略語を充当させてからは、済民という意味は希薄になりました。企業活動を経済の一部分と捉えるならば、消費者の利益を優先させることが経済、及び企業活動の本来の使命ではないのでしょうか。

私は上の事例の場合、なにか消費者の利益と自然環境を優先させる為の知恵が無かったのかとおりにふれて考えています。競争は必要ではありますが、もっと大きな理念の下にこれら大小の複数企業が協業できていたのではないかと思っております。

人間は動物と違い道具と知恵をうまく使うことが出来るので、逆に動物ような弱肉強食の自然競争がうまく出来なくなってしまったのではないかと考えております。

中川信博