30日のシンポジウムで議論する論点を、司会者として整理したいと思います。まず第1セッションは、経済学的にいうと「労働市場と資本市場の改革」です。城さんからは、現在の「格差問題」の根本的な原因が、「終身雇用」を前提にした企業の人事制度にあるという問題提起があるものと思います。
この種の問題は、世界的にも(特に欧州で)昔から議論されているもので、少なくとも経済学者のコンセンサスはかなり明確です。解雇規制などの「労働者保護」を強めることは、マクロ経済的には失業率を高め、生産性を低下させ、有期雇用を増やして「格差」を拡大する、という事実が欧州各国で統計的に観察されています。
その原因は、ミクロ経済学の初歩的なロジックで理解できます。解雇規制を強めることによって、企業の人的投資コストが上がるため、労働市場で決まる水準に比べて労働需要が減り、労働の超過供給が失業や非正社員といった形で出てくるわけです。統計的事実は必ずしも明快ではありませんが、規制強化が労働者にとって好ましい結果をもたらさないことは、ほぼ定型的事実といってもいいでしょう。
したがって経済政策としては、正社員と非正社員の格差を是正するには、解雇規制を緩和(特に整理解雇規制を撤廃)して労働市場を柔軟にすることが望ましいというのが、OECDの勧告やNIRAの緊急提言などに共通の結論です。この点について、経済学者の中ではあまり論争はありません。
しかしこれを政策として実現することは、きわめてむずかしい。「労働者をクビにしやすくする」という改革は、いかにも冷酷な「資本家の手先」の発想だと思われるからです。さらに労働組合という強力な圧力団体がついているため、各国ともこの種の改革は挫折することが多い。その代表が、全国的規模の「反乱」によって雇用改革がつぶされたフランスです。
したがってこの問題のむずかしい点は、何が合理的な政策かということより、国民をどう説得するかということでしょう。そのためには、政治家とメディアを教育することが重要です。さいわいネット上では、城さんのような意見への支持が広がり始めているようですが、大手メディアはいまだにこの問題をタブーにしています。シンポジウムでは、どうすればこの問題に国民的な合意が得られるのか、ということも議論したいと思います。
コメント
同様に、「論理的には正しいが感情的に受け入れられない政策」として、年金支給水準の切り下げがあります。
このままだと年金制度が持続不可能なことは明らかで、いつか、年金支給水準を切り下げなければなりません。それが額面の切り下げになるのか、ハイパーインフレによる実質価値の下落になるのかはわかりませんが。
このまま高齢者に年金を食い逃げされるよりは、今のうちから、支給水準を引き下げて、若年者の不利益を少なくした方がいいと思うのですが、政策として「年金支給額引き下げ」を掲げると、高齢者はもちろん、若年者すら反発する可能性が高い。