磯崎さんからコメントをいただいたので、簡単に答えておきます。テクニカルな話なので、マクロ経済学に興味のない人は無視してください。
たぶん最大のポイントは
仮に「国債が大量に市場にバラまかれそうだ」ということなら、国債の市場での消化が困難になって金利があがるはずですが、日銀が国債引受けをするというのは国債が市場を通らないということです。市場の需給に影響がないとしたら、はたして国債は暴落する(金利が上昇する)んでしょうか?
という点だと思います。これは他人の権威を借りるわけではないが、白川総裁が懸念している点です。たとえば毎日新聞はこう書いています:
白川方明総裁は2月18日の記者会見で「金融政策は財政ファイナンス(財政赤字の穴埋め)を目的とせず、そうした中央銀行の姿勢を政府が尊重する(ことが必要)」と、買い入れ拡大圧力をけん制した。「財政悪化のツケを日銀が引き受けた」との見方が市場で広がれば、長期金利は急騰しかねないからだ。
太字の部分は記者の解説ですが、「日銀幹部」がそう説明したようです。この金利上昇は国債の需給によるものではなく、「日銀が引き受けないと国債が消化できないのか」と市場が受け止めて、国債のリスク・プレミアムが上がるわけです。
リフレ派の人達と今回の池田さんの記事が共通していまいちよくわからないのは、「期待」だけで本当に物価が動くんだろうか?という点。[・・・]「インフレ目標掲げただけでインフレが起る」なんてことを思いつく人は、実際に企業でマーケティングやったり価格を決める現場にいたことが無い人なんじゃないか、と思います。
この後半はおっしゃる通りで、白川総裁のもとではどんな目標を掲げてもインフレは起こらないでしょう。しかし極端な話、亀井氏が日銀総裁になって「国債を500兆円引き受けてインフレを起こす」と宣言したら、邦銀は急いで売り逃げ、長期金利が暴騰してインフレになるでしょう。
理論的にいうと、新ケインズ派フィリップス曲線では、インフレ率がインフレ予想とGDPギャップによって決まるので、人々がみんなインフレを予想すると国債を売って実物資産に換え、これによってインフレが激しくなってインフレ予想が強まり・・・というループに入って、ハイパーインフレが起こります。この予想は根拠のないsunspotであっても、多くの人が信じたら「自己実現的な予言」になります。石油危機のときの「トイレットペーパー事件」って覚えてます?
つまりマイルドなインフレを起こすのはむずかしいが、ハイパーインフレを起こすのは簡単で、現に途上国ではありふれた事件です。私の記事は思考実験ですが、日銀の信認が失われると危険であることは間違いないでしょう。
コメント
日銀が全部国債を引き受けるとなれば、大企業や金持ちは円を売るかインフレに強そうな企業の株を買うか、あるいは保全が容易な金や不動産などを買ってリスクヘッジに走ると思います。
おそらく大幅な円安が予想され、市場で国債が暴落する可能性は極めて大でしょう。
インフレも当然発生すると思いますが、それなのに市場で日銀が国債を買い支えるという暴挙に出れば、それが更に暴走すると思います。
とくに国債に偏っている郵政は破綻確実ですから、かなり高い確率で日銀は買い支えると思います。
インフレが起きているのに市場で国債を買い支えれば、それに火がついて日本人は一気に貧乏に陥るでしょう。
たぶんないとは思いますが、最悪のシナリオは日本人が円を決済通貨として使わなくなる危険性です。
そうなれば、ジンバブエのようなハイパーインフレになってしまうかもしれません。
ついでなので書きますが、三橋さんによれば、ジンバブエも財政破綻ではないそうです。
だから日本も財政破綻はありえないそうです。
そりゃハイパーインフレ覚悟で中央銀行が買い支えれば、定義上の財政破綻が起きないだけだろうに。
トイレットペーパー事件のころは赤ん坊だったので覚えていませんが、生々しい記憶として語られるのは耳にしています。私の若い頃の経験として覚えているのは、コメの不作で皆が米屋の前で行列した一件です。少し離れたところでもコメが入荷したと聞けば、車を出して買いに行ったものでした。結局あの事件がきっかけとなって「一粒も入れない」と言う馬鹿なコメ保護主義が終焉を迎えたんだったと思いますが、あの当時行列した人の中で、うどんやパンやパスタでも食いつなげる人はいなかったのでしょうか?食糧危機でもなく貨幣の信認があってもあのようなパニックは起きるんですよね。バブルの異常加熱を覚えている(当時貧乏学生として冷ややかに見つめていた)者から見れば、ハイパーインフレや取り付け騒ぎは、起きてみればあっけなく起きるように思います。
ツッコミが入る前に補足すると、私がリンクを張った記事の式は、標準的なDSGEではなくMankiwの簡単モデルなので、インフレ予想がadaptive expectationになっています。これは実は、ハイパーインフレのモデルと同じです。インフレは好不況に関係なく、みんなが起こると思えば起こるのです。
これは一種の「相転移」なので、何も起こらない(0)かハイパーインフレになる(1)かの二つに一つで、中間はありません。亀井総裁が「インフレにするぞ」といっても、最初は何も起こらないが、本当に100兆円引き受けを始めたら、みんなあわてて売り始めるでしょう。逆にいうと、国民がパニックになるぐらい無責任にコミットしないと、デフレは止まらない。
つまりインフレのアクセルは2つあって、普通の買いオペはブレーキがきくのですが、ハイパーインフレにはブレーキがないのです。日銀が信用を失ったら、二度と取り戻すことはできない。民主党政権が倒れて、「新円」を発行しないとだめでしょう。
はじめまして、botaskieといいます、今回は様々な見解を見てみたく登録させていただきました。
個人的には「中央銀行の独立」「財政と金融の独立」を考えると亀井氏の発言に否定的です。
ただ、いくつか気になる点があるので、書き込みさせていただきます
・国債を売却し、実物資産に充てるというお話ですが、(短期にはともかく)例えば不動産なら国民の所得が一定で家賃収入が変わらないとすれば、不動産の収益率が低下して、収益性の観点から、金利が上がった国債への回帰が起こる可能性があるのでは?と思いました。
特にBIS規制などで、国債のリスクウェイトが0である以上純資産を積み増したい銀行の行動はちょっと読みづらいです。
・また、商品(金、石油、穀物など)ですが、投資をするときの資金調達コストが跳ね上がっていると思われる以上、また実需がインフレ率程上がらないとしたら、長期的には価格は安定するのではないでしょうか?
トイレットペーパー騒動が短期間で収束したように、一時的な混乱で収束するのではないのでしょうか?
当方一応会計で、経済学には疎いため、ロジックや用語が怪しいかもしれませんが、大目に見てください
リフレ派がよりどころにしているイギリスでは中銀によって国債(にあたるもの)が買われているようですが、では効果が上がってるのかとなると、そうでもないようです。
http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=90920008&sid=ajwpnWZjS98s
上記ページの「OECD国内総生産(GDP):統計概要」から転記すると、
イギリス
2009-10~2009-12 +0.1%
2009-07~2009-09 -0.2%
2009-04~2009-06 -0.2%
日本
2009-10~2009-12 +1.1%
2009-07~2009-09 0.0%
2009-04~2009-06 +1.3%
となっています。リフレ派からすると何もしてない日本のほうが数字は良いです。
勝間さん、飯田さんの本のタイトルのように「かんたん」ではないということは確かだと思います。