★★★★☆(評者)池田信夫
行動ゲーム理論入門
著者:川越 敏司
販売元:エヌティティ出版
発売日:2010-03-17
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ゲーム理論は誤解されやすい。まず、その名前がよくない。チェスなどのゲームの必勝法のように見えるので、「ビジネスに勝つゲーム理論」という類の本がよくあるが、こういう本を読むのは無駄である。それは人間がどのような戦略的行動をとるかについての実証的理論であり、どう行動すれば勝てるかについての理論ではないからだ。その内容も、歴史的に変化してきた。
- ゼロ和ゲーム理論:フォン=ノイマンが1928年に発見した理論。チェスのような一方が勝つと他方が負けるゲームには、必ず解が存在することが証明された(これをツェルメロが証明したというのは誤り)。
- 協力ゲーム理論:フォン=ノイマンがモルゲンシュテルンとの共著で構築した、難解で役に立たない理論。ゼロ和n人ゲームになると、経済学者でも理解している人はほとんどいない。
- 非協力ゲーム理論:ナッシュ均衡の概念を核とする合理的行動の理論で、現代のゲーム理論の主流。1970年代以降に発展した。
- 進化ゲーム理論:90年代以降に流行した、進化的安定戦略にもとづくゲーム理論。合理性のない生物の進化も説明でき、コンピュータ科学にも応用された。
- 行動ゲーム理論:合理性でも進化でも説明できない人間の限定合理的な行動を実験によって確かめる理論。
本書は、この第5段階の理論の最新の成果の紹介である。「入門」と題しているが、内容は学部上級以上で、従来のゲーム理論の説明がほとんどないので、普通の入門書(たとえば『ゲーム理論の思考法』)を読んでからでないとむずかしいだろう。
理論と実験結果の紹介がほとんどで、経済的な応用についての記述がほとんどないが、従来のメカニズムデザインが超合理的で実用にならなかったのに対して、限定合理的な「行動メカニズムデザイン」の研究が始まっているのは興味深い。今後は、実際の制度設計に使える理論の構築を期待したい。