「ゆうちょの預入限度額を2000万円に」という亀井大臣の発表に対して、いろいろと異議が出ているようです。まぁ、ゆうちょ改革については、この限度額増額だけではなく「日本郵政の内部における消費税をゼロに」など、かなり無謀なものも入っているので、このまま通すのは問題でしょうが、「2000万円への増額」の話に限れば、これは突然出てきたものではありません。
少なくとも今年の1月には出ていた話であり、私はそれを題材にして「ゆうちょ限度額引き上げに思うこと」をアゴラへ投稿しています(ここでは「良くない」という結論になっています)。
したがって、今さら閣僚からいろいろと異論が出るのは如何なものでしょうね。議論をするなら、それなりに時間はあったはずです。
そもそも元大蔵官僚を多くの反対を押し切って社長に就けたのも、この2000万円への増額も、結局のところ「国債の安定的な保有機関づくり」の一環であり、今の政権運営からすれば、誰も反対できないのではないでしょうか(亀井大臣も「国債保有機関づくり」という話は明確に否定していますが・・・)。
「財政」について、現政権は当初から無頓着すぎるように感じていましたが、やはり、かなり問題があります。例えば、財源は「必ずある」「何とかなる」という話の中で「子育て手当」を成立させてしまったものの、果たして「事業仕分け」くらいのやり方で何とかなるのでしょうか。もし、財源がない状態で子育て手当を行えば、それは単なる「バラマキ」に過ぎません。しかも「やっぱり(財源ねん出は)無理でした」ということになっても、それでも「命を守りたい」という話になるに決まっています。
そうなれば、結局、国債増発になるしかないでしょう。当然、来年度になって景気が素晴らしく良くなるとは思えないので、税収が大きく伸びる可能性も低く、それでも予算執行は減らせないと各閣僚はいうでしょう。となれば、来年度も44兆円を上回る国債増発になってしまいます。さらに悪いことに「子育て手当ては満額を予定している」ので、今年度よりも2兆円ほどは増加することになります。ということは、果たして「どのくらいの国債発行になるのか」。考えるだけで恐ろしい限りです。
そのような中、日銀の国債保有残高は、現在50兆円ほどになっています。他方、銀行券発行は70兆円くらいですから、現状の「銀行券ルール」でいえば、あと「約20兆円」しか追加で保有できないことになります。
となれば、「Xデーは?」と不安になります。が、実際には市場自体は落ち着いています。これは「結局、ゆうちょが買うのでしょう」と市場が思っているからではないでしょうか。つまり「ゆうちょ預入限度額2000万円」は既定路線と考えるべきであり、閣僚が云々言っているような場合ではないはずです。
閣僚の中には「2000万円増額をするにしても、運用方法をはっきり示さないと、国債買入機関を作るだけになってしまう」と言っている方もいますが、増税議論もなく、それでいて、結果として「拡張的な財政支出」を承認しておいて、一体、積み上がった政府債務残高をどうするつもりでいるのでしょうか。むしろ、はっきり「国債買入機関を作るのだ」と言ってしまった方が、事はスッキリするように思います。
とはいえ・・・
国債買入機関ができたから「景気刺激のためにもっと財政支出を」などと言っていては意味がありません。これはもっとも最悪なシナリオです(だから、1月には「限度額引上げは問題」としてアゴラに投稿しました)。
つまり、Xデーまでの「時間的に余裕を作る」ということで「ゆうちょ預入限度額2000万円」にするのは、ある意味「致し方ない」というだけであり、限度額引き上げを行うのであれば、財政規律について本気で議論をすべきです。
まぁ、ここで問題になるのは「民業圧迫」でしょうね。民間銀行、特に信金、農協などの地域金融機関の預金はおそらくかなりの流出を覚悟しないといけないでしょう。預金というのは非常に低い金利で調達できるので、銀行経営という意味では、非常に厳しいことになります。
けれども・・・
今、銀行等の運用のかなりの部分が「国債」ですから、その受け皿機関がないまま、国債を発行し続けることでXデーになった場合、大変なことになるのは銀行等ですから、「民業圧迫」になったとしても、ここは受けざるを得ないように思います。民間の場合、国債が危ないとなれば、いち早く売り逃げるに決まっているわけで、それを政府や中央銀行が止めに入ることは難しいのですから・・・
ところが「国債買入機関」というのは、当然、単にゆうちょをナローバンク化するだけの話ですから、ゆうちょの業務として「良いか?」となれば、疑問もありますし、これだけでは「何の解決にもなっていない」といえます。
しかし、ここまで積み上がってしまった政府債務残高については「もう待ったなし」ですから、「ゆうちょの預入限度額2000万円へ引き上げ」をすることで「財政規律についての議論をする“時間を作る”」ということを前提にすると「正しいやり方である」と考えることは可能です。
■1月分との結論の相違について
1月分は「国債の受け皿機関」としてゆうちょをナローバンク化するだけであり、さらに「財政支出を拡大する」のであれば「大きな問題である」という主張でした。
これは現在も変わりません。
けれども、現政権は財政規律に無頓着すぎる点が多く、このままではXデーも近いと思われます。なので「ゆうちょの預入限度額を引き上げる」ということで市場に対して「財政規律を考える時間」を作り、その時間を利用して、実際に増税議論等をするのであれば「正しいやり方である」と考えたわけです。
実際には「国債の受け皿機関」ができれば、閣僚たちには「財政拡大を行う」というインセンティブが生まれる可能性があり、もし、「国債の受け皿機関」を作ることで、さらに財政拡大をするのであれば、それは非常に問題ですから、これは「良くない」ということになります(つまり、この場合には1月と同じ結論になります)。
コメント
二点ほど疑問があります。
まずゆうちょ銀行もかんぽ生命もペイオフなどの仕組みは他の金融機関と変わらないということです。
例えば預金で言えば、ペイオフは金融機関ごとに同じ預金保険機構で1千万円までしか保護されません。(公社以前の預け入れを除く。)
ゆうちょ銀行も一つの金融機関ですから、国民が合理的に行動すれば、信金や銀行に分散させるでしょうね。
むしろ保険機構の異なる農協や漁協にも分散させた方がより安全かもしればい。
もう一点「民間の場合、国債が危ないとなれば、いち早く売り逃げる」は、民間とは銀行の事を指すなら、そうならないことが磯崎さんの投稿で指摘されております。
アゴラって他の投稿者の意見は読まないのかな?
コメントありがとうございます。
>ゆうちょ銀行も一つの金融機関ですから、国民が合理的に行動すれば、信金や銀行に分散させるでしょうね。
おっしゃる通り、そのように考えるならそうなるでしょう。
しかし、株主が政府だけの状態である“ゆうちょ”に対して、果たして、そのように考える方が多いのでしょうかね。。。
まぁ、一般的に言えば「ゆうちょの方が安全」と思うのではないですか。でなければ、全銀協や農協の方が、TVであのように批判する必要もないでしょう。民間銀行等は「限度額」がないのですから・・・。
なお、アゴラの執筆者は各自それぞれの考えを述べておりますので、他の執筆者とのすり合わせなどあり得ません。
郵貯は8割を国債で運用してます。こんな馬鹿でも出来るような仕事をする金融機関が必要でしょうか?殆どを国債で運用するのであれば、預金者が直接もっと国債を買えるよう、6ヶ月、1年もの等、短期の個人向け国債を出せばよい。今も個人向け国債はあるが、利回りが低すぎて売れていない。郵貯を潰せば、余計な経費を省けるから、利回りも今より有利に出来るはずだ。価格が値下がりしても、個人購入者の自己責任でペイオフも関係なくなる。
hogeihantaiさん、コメントありがとうございます。
おっしゃることはわかるのですが、直接金融ルートと間接金融ルートの違いがあるので「国債の種類を増やせばよい」という話ではありません。
ゆうちょにしても、銀行にしても、貯金または預金からの引き落としなどができますし、「いつ必要になるかはわからない」という資金の場合には、どうしても期限が決まっている直接金融商品では対応できないことも多いのです。
また、そもそも私のこのコラムの内容は「ゆうちょが大切」という主張でもありませんし、ペイオフ云々を言っているわけでもありません(結果的に話はしていますが)。
要は「早く財政規律について議論をすべき」という話をするために、限度額引き上げの話をテーマにしただけです。
グル-プ内の消費税をゼロにすることに何の意味があるのでしょう?一般消費者が郵貯銀行と取引する際の手数料に消費税をかけないとか、郵貯銀行が消費者から預かった消費税の納税を免除するというのであれば、これは大きな問題です。消費税を負担するのは一般消費者であり、事業者ではありません。事業者は単に預かったものを国に納めているだけで、もし、グル-プ内で消費税をゼロにすれば、もらわなかった会社は国に納める消費税がそれだけ少なくなり、消費税を払わなかった会社は国に納める消費税がそれだけ増えるだけで、関係する会社に何等の収益も生じない。むしろ経理が煩雑になるだけです。亀井大臣はなぜこんなばかげたことを言うのでしょう。菅大臣もまた、なぜこんなことにまともに付き合うのでしょうか。マスコミも同じレベルで報道する。皆もう一度、消費税の制度をおさらいする必要があるのではないですか。
hogeihantaiさんの仰るように、郵貯の収益は国債の利払い費から出ているわけですから、これは国が出してるわけですよね。
それは、郵貯の利益の分だけ国債発行額が上積みされているだけで、つまり税金で過疎地の郵便局という公共事業をやっているだけですよね。
これを増やそうというのはとんでもない話で、亀井静香は狂っているとしかいいようがない。日本が財政破綻する前に、少しでも地方にお金を回しておこうという魂胆でしょうか。
ただ、間接金融といえば、民間銀行も含まれるわけで、土建屋に限らず、金融界も財政破綻の共犯的なものがあって、ものを言いにくい面があるのではないかと思います。
25年前までは、今みたいに何かと税金がかかる仕組みじゃなかったわけですし。
亀井大臣さんが、郵貯の民営化に反対した理由は、この法案を出しているところからも分かります。郵貯を政府の安定的な国債の受け皿として有効活用をし、財政破綻を来たす前に、景気を何とかしたいと言う考えですよね。亀井大臣さんが描いている景気回復策の青写真通りに行くかどうなのか?民主党の議員さんの中には、亀井大臣さんのように日本経済再生と財政再建の両方の道筋を建てれる人が、多分いないのではないですか?とすれば、亀井大臣さんに頼らざるを得ないでしょう。自民党さんは、このごたごたをしっかりと見極めて、財政再建と経済立て直しの政策を打ち出せることができれば、参院選では勝てるでしょうがね、、、。
「早く財政規律について議論をすべき」と言うのは、賛成です。
naru1988さん、コメントありがとうございます。
>民主党の議員さんの中には、亀井大臣さんのように日本経済再生と財政再建の両方の道筋を建てれる人が、多分いないのではないですか?とすれば、亀井大臣さんに頼らざるを得ないでしょう。
ゆうちょでは「財政再建」は図れず、単に「時間稼ぎ」にすぎないと思われます。
また、亀井さんの考えているのは、私のコラムの「悪いシナリオ」だと思いますから、亀井さんが「日本経済再生と財政再建の両方の道筋を建てれる人」とは全く思っておりません。
現状、ゆうちょ限度枠引き上げは既定路線でしょうから、「致し方ない」とはいえ、そこでXデーが先延ばしできるなら、その時間を利用して、別途、「財政再建」について議論しべきだと考えております。
民間銀行にも、郵貯銀行の保証枠と同程度の保証を政府がする、つまり、政府保証は名目は郵貯銀行、実質は民間銀行と、政府保証を二本立てにすればいいと思います。
中小の信金や信組は銀行の保証枠拡大に反対だという。理由は、大手銀行の拡大枠に預入金を持っていかれてしまうからだと。民間格差で地銀、信金等は恩恵に預かれないと。
ただ、これは、拡大枠の預入金に関して、郵貯銀行にはないプレミアを中小の民間金融機関に保証すれば問題はない。要するに、ゆうちょの拡大枠に応じて郵貯の預金を増やす人には、枠内の金額は保証するが、政府の資金の運用で生まれた剰余金の還元を中小の民間金融機関の拡大枠利用者には、一定の条件や範囲内でする旨、約束する。そのような国の資金運用で日本政府が実績を上げれば、ゆうちょ銀行の保証枠の評価は高まるし、中小の民間金融機関の利用者もプレミア付きで恩恵を受けることになります。
結局、日本政府の、国債頼みや従来の財投でもない、地域に根差した質の高い公共政策、あるいは世界的な地球環境対策としての官の弊害のない新しい官民一体の投資政策を実行する運営能力にすべては懸かって来ます。その運用能力で得られる付加価値的な剰余金の存在こそ、郵貯の保証枠拡大の根拠、民間金融機関への預入金の増大に繋がるからです。
官民の差異を生かして、いい意味で金融機関の競合ができれば、政官民、一体となった政策協力も可能になるように思います。そして、そのような状況を実現するためにも、政府主導の新しい公共投資や官民一体の投資計画等の構築が急がれると思います。
gyhdb049さん、コメントありがとうございます。
ただ、本コラムはペイオフを云々しているわけでもありませんし、銀行等の経営努力については、別途、いろいろと議論をすべき点も多いですから、ここではお話しできません。
とはいえ、現状のゆうちょは「貸出」は行っていない主体ですから、そこに資金が集まる仕組みは、どのようなやり方にしても非効率です。したがって、「国債の受け皿機関」以外に使用するのは意味がない、または、逆に経済的に問題と考えた方がよいと思います。
にもかかわらず、2000万円への引き上げが「致し方ない」と考えているのは、財政規律の問題で、すでにXデーが近いからです。
つまり、この件と銀行経営の問題を同じ土俵で議論をしても意味はないと思いますし、話が複雑になるだけで、答えは出てこないと思います。