現政権の“目玉”政策は、将来的には「悪夢のシナリオ」なのかも!  ―前田拓生

前田 拓生

今週号の週間SPA!(4/6発売、4/13号)に「悪夢のシナリオ」という特集が載りました。この中の一つに私のシナリオ(「富裕層が海外に逃亡し、低所得者だらけの国になる!?」-シナリオ(7))も載っているのですが、ここに書いた「所得税関係」だけでなく、現政権では不安になるような政策を次々に打ち出してきています。口当たりは良いのですが、結局、国民に負担をかけるような政策が多いので心配です。


■「子ども手当」の逆進性

何だかんだと話題になった「子ども手当」でしたが、結局、ほんの少し修正があっただけで基本的には政府案通り可決成立しました。そもそも私は「子ども手当には反対」ということでアゴラにも数回投降しましたが、そのような声は完全に打ち消され、所得制限もないまま、今年は半額とはいえ「現金」で配ることになりました。

この「子ども手当」、条件さえ合致すれば一律に配られることから、所得分配の公平性があり、また、金額が一定なので“率”に換算すれば低所得者層に有利と考えられています。

ところが・・・

この「条件に合致した定額の給付」というのは、市場メカニズムを考慮すれば「逆進性」があり、低所得者層に対しては、むしろ、不利に働く可能性があります。

理由としては以下の通りです。

子ども手当というくらいですから、その給付を受けることのできる世帯は「子供を育てている世帯」に限られます。このような「特定層」においては、それ特有の消費行動が存在するはずです。例えば、「教育に関する財」などに対する支出が、他の世帯に比べて高くなることが考えられます。ところが「教育に関する財」といっても「一般家庭」の場合には「学習塾の授業料」などになるでしょうが、「所得の高い層」の場合には「家庭教師」などになることが想定されます。ここで「教育に関する財」はこのような「子育て世帯」にとっては「必需品」に近い存在なので、所得が低ければ低いほど、需要の価格弾力性が小さい(価格が多少高くても需要量はあまり変わらない)と予想できます。

このような想定の下で、子ども手当が支給されると、それまで学習塾へ通わせていなかった世帯も通わせることが可能になるので、学習塾の総数(供給量)が一定とすれば、需要量が増加することによって市場メカニズムから「月謝」が高くなることが予想されます。そうすると、給付分がそのまま転嫁されることはなくても、一般家庭によっては給付の恩恵が低下することになります。

他方、家庭教師を雇うような家庭はそもそも一定以上の所得があるはずですから、子ども手当が支給されたか否かで、家庭教師の需要量が増減するようなものではないはずです(低価格を“売り”にしている業者等は別)。需要量が増加しないのであれば、子ども手当による影響という意味での価格上昇もないはずですから、家庭教師を雇うような高額所得の家庭の場合、子ども手当はそのまま所得増になると考えることができます。

以上は学習塾(一般の家庭層)と家庭教師(高額所得層)という例で説明しましたが、特定層のみに単に「一律の現金支給」を配るという政策の場合、多くが市場メカニズムを考慮すれば、同様の現象、つまり、逆進性がある政策になると考えることができます。

これは一般家庭における現在の“親世代”にとって「現金がもらえる」ということから「良い政策」と受け止められるのでしょうが、実際には、市場メカニズムが働き、低所得者層ほど当該政策の恩恵は少ない上に“子世代”に付けを回すだけの政策といえます。

したがって、一般家庭(数の上ではこの層がマジョリティです)の現時点の“親世代”の取り込みという意味で「選挙対策」にはなりますが、それ以上の「社会的な効果」は「ほとんどない」または「逆に悪影響がある」ということになります。

◆高速道路「無料化」と道路建設

「子ども手当」とともに注目度が高かった政策として「高速道路無料化」があります。ところが、何故か「高速道路料金の一律(普通車)2000円」という政策に変わってしまいました(かなりショボイ無料化実験はやるようで、その点をアゴラでお話ししたことがあります)。無料と2000円ではかなりの違いあるように感じるものの、当初から「政府財政に余裕のあるときにやれば良い」と思っていたので2000円でも有料にするのは「良いことだ」と感じていました。

ところが、浮いたお金で「道路建設」という話です。

政府がいうには「そもそも道路を造らないと言ったわけではなく、いったん中断した後、しっかりと再考し、造ると決断した」ということです。でも、「何故、造ると決断したのか」「造る部分と造らない部分はどういう基準なのか」など、かなり不透明感が残ります。

本当に「国民のため」なのでしょうか?
見方によっては特定の「誰かのため」の政策決断のようにも見えるのですが・・・

国民は「その造るに至った過程を説明してほしい」と思っているのです。どのようなプロセスで決定されているのかを知りたいのであり、「再考した」というような話ではないのです。それが今まで曖昧だったので、政治不信があり、政治とカネの問題が根強く存在すると国民は理解しています。その辺りを透明にしない限り、「誰がやっても政治は変わらない」と思うでしょうね。

また・・・

そもそも「無料化」についても「どのような効果を考えているのか」「混雑した場合にはどうか」などいろいろと検討すべきことがあるはずであり、当初の説明すらしっかりと聞いた覚えもありません。

2000円を徴収することで財源ができるのであれば、これだけ財政が悪化しているのですから「国債発行を減らす」という決断が筋ではないでしょうか。

◆ゆうちょ預入限度額2000万円と政府ファンド

このような中、「民主党が」ということではないのですが、ゆうちょ預入限度額2000万円への引き上げという話も現実味を帯びてきています。この話もアゴラで散々お話ししましたが、結局、「国債の受け皿機関」という意味では致し方ないと思うのです。

ところが、政府の“言い訳”がうまくないですよね。最も悪いのは「限度額引き上げで集まった資金により政府ファンドを」という話です。

そもそもゆうちょの貯金は銀行預金同様に「一覧払い」ですから、変動性のある商品への投資は慎重でなければなりません。にもかかわらず「政府ファンド」などという話をすること自体が「資金性を理解していない」といわれても仕方ないと思います。まぁ「簡保部分だけ」なら、そういう考えも「あり」かもしれませんが、それでも「資金運用」というのは一朝一夕にできるものではありませんし、況してやゆうちょ関係の巨額資金を運用するとなれば、その適任者はそれほど多くいるはずもありません。

ただ百歩譲って「政府ファンドとは政府機関等への貸出」であり、その貸付金は「政府が保証するものばかり」ということであった場合、それなら「損失」という意味では気を使う必要はありませんが、これって「財政投融資そのもの」であり、昔に戻しただけと言う話です。このような財政投融資は、政府という極めて非効率な分野に貸し付けるわけですから、国民生活の向上には“全く”役立たないことになります。

■アカウンタビリティーを高めた政策運営を!

以上のように、今の政権の“目玉”といわれる政策を、少し違った視点で見るだけでも「問題だらけ」であることがわかります。問題ばかりなのに、何の説明もないまま、何となく数の論理だけで実行されているとしか思えません。

子ども手当は「子育て世帯の」、高速道路2000円で道路を建設するのは「当該地域の支援者の」、ゆうちょで財政投融資は「公的な利権による利害関係者の」、それぞれの選挙票を狙っているようにしか、一般の有権者にはみえないのですけれど・・・

もう少しアカウンタビリティーを高めた政策運営をしてほしいものだとつくづく思います。

コメント

  1. nnnhhhkkk より:

    >「富裕層が海外に逃亡し、低所得者だらけの国になる!?」

    先週の日経ビジネスには相続税の最高税率を民主党は上げる気らしいことが書いてありました。
    特集が相続税だったので所得税に関しては不明なのですが、いずれにしても金持ち軽視の考え方です。
    現在日本の相続税は世界一の最高税率を誇ります。
    しかも非上場企業には現金で相続税を支払えと無茶苦茶なことを税務署は言ってきます。
    そして相続税のせいで廃業せざるを得ない会社が年間7万社もあるそうです。
    このままでは金持ちはシンガポールに逃げてしまいます。
    そうなると租税条約によって金持ちは日本で所得があっても20%の税金で済んでしまいます。
    もちろんシンガポールに相続税はありません。
    最高税率を上げても長い目で見たら税収は減ってしまいます。
    そして国内に残ったのは貧乏人だけの後進国にまでなるでしょう。
    フォーブスの富裕層ランキングに日本に住む日本人が1人もいなくなるかもしれません。
    逆にそこまで行かないと、嫉妬深い層が多い日本では有権者も目を覚まさないかもしれません。
    前田さんの悪夢のシナリオはこのまま推移すると当たりそうです。

  2. 前田拓生 より:

    nnnhhhkkkさん、コメントありがとうございます。

    >前田さんの悪夢のシナリオはこのまま推移すると当たりそうです

    微妙な気持ちですね(汗)

    このような予想は「当たらない」に越したことがありませんが、民主党政権が後3年半続くとなると、非常に厳しい状態が待っているように感じます。

  3. disequilibrium より:

    貧乏人が貧乏なままでいた方が、サービスの価格も上がらず、貧乏でない人にとっては得であるというのは1つの真実だと思います。

  4. a_inoue より:

    「子育て手当」じゃありません。
    「子ども手当」です。民主党のWebにもそう書いてあります。
    些細なことのようですが、言葉を正しく使わない文章は、説得力に欠けます。

  5. qoonnie より:

    タイトルが現政権の目玉政策とありますが、
    まず設定自体に無理があると思います。
    現在の民主党(小沢党)には政策なるものを期待すること自体間違いです。
    今の大臣(中には酷いのもいますが)、副大臣、政務次官は一生懸命やっていると思います。事業仕分けに携わるメンバーもしかり(私は事業仕分け自体全く評価しませんが)。
    結構頑張っている人も大勢いるのは事実ですが、所詮自民党憎しで選挙に勝つことしか考えていない小沢一郎の独裁政権です。亀井さんの小泉憎しのビジョンなき郵政の時計の巻き戻しと一緒ですね。
    本人(小沢一郎)はあと何年政治家をやるつもりなのか分かりませんが、政策には今や無関心。ただ自分が政治家である限りは今のポジションは失いたくないと、頭の中はこれだけでしょう。
    民主党の政策を真面目に論じるのは意味ないです。

  6. いつも拝見させていただいております。

    一番初めの子供手当ての逆進性に関して言えば、実際そのようなことが起きるか?といわれれば、そんなことは起きないだろうな~と言う気はいささかします。現在供給側がかなり過剰感がある業界ですから、多少需要が増えてもあまり価格には反映されないかと。それよりも将来の不安にかられて「貯蓄」に回り、経済効果はかなり限定的になる気がします。

    それ以外の二つのお話は、仰るとおりです。道路建設予算で言えば、少なくとも国庫に返納して、社会保障にまわすなり、国債発行を減らすべきですね。名古屋では第2環状線が建設されることになりましたが、愛知県の小選挙区で民主党がすべて勝利したのも関係があるのかもしれません。

    郵貯で言えば、民営化前の公社化のときも財投に回さない為だったと記憶していますが、今の流れは数十年前に戻ろうとしているように見えます。

    せっかく政権交代してしがらみの無い形で政策が決まるかと思いきや、これでは・・・正直がっかりです。

  7. 前田拓生 より:

    a_inoueさん、ありがとうございました。

    「子育て手当」→「子ども手当」に修正させていただきました。今後ともよろしくお願いいたします。

    マイネル所長さん、いつもありがとうございます。

    まぁ、学習塾は若干過剰気味であることはそうかもしれませんね。とすれば、本来は需給関係から「月謝が下がる」はずなのが、この手当によって「月謝が下がらない」という事態も想定できるので、それは消費者の機会損失と考えられ、結果的には恩恵が少なくなったことになりますね。

    子育て世帯としては、この学習塾以外にも修学旅行費などもそうですし、文具などもあります。

    ここでは「例示に」ではなく、政府が、政策を考える際には「複眼的に状況を把握して実施しないとダメですよ」という話をしたかっただけですので、その点、ご理解いただければ幸甚です。

  8. onyasu0222 より:

    民主党の最大の敵はマスコミです。世界に類をみない記者クラブを鳩山首相は標的にし、その仕返しが始まりました。

    こども手当ては児童手当の延長線上で、このような傾向になるとは考えられません。大部分の家庭では、子供保険・学資保険をかけていると思います。不十分なその資金に回るのが妥当な考え方ではないでしょうか?満額になった場合は考慮してませんが。富裕層や貧困層ではなく、中間層を押し上げる効果はそれなりにあると思います。

    高速道路建設にしても必要な道路は作る基準は、今までの不透明な会議から地方を含めた会議に代えられました。族議員の介入ができない仕組みを作っている最中だと考えられませんか?変なデータで道路を作ってきた仕組みを変更することをなぜ報道しないのでしょうか?小沢独裁と言ったほうが週刊誌も売れる、おもしろおかしく報道しているだけに過ぎません。

    小泉郵政民営化は本当に国民のための改革だったのでしょうか?100兆円の資金が減りましたが、それがどこに消えたのでしょう?りそなのインサイダー疑惑など、日本国のために行われた改革とは全く思えません。

    選挙目当てがなぜいけないのでしょうか?民主主義は多数を獲得したほうが権力を持つのです。

  9. マイネル所長 より:

    >onyasu0222さん

    横レス失礼します。

    マスコミが民主党たたきと仰られていましたが、いささか感情論のような気がします。マスコミが政権党の政策についてあれこれと言うのは、当たり前の話です。それに民主党はさまざまな政策について説明責任を果たしているとは言いがたい状況です。

    高速道路建設についても、暫定税率の維持に始まり、高速道路の無料化を反故にするような政策が出ています。(個人的には、もともと無理な政策だとは思っていますが。)また、道路建設について言えば、どうして必要なのか?科学的データを示しているわけではないかと。国費を投入する理由はどこなのでしょうか?

    私も小泉郵政改革には懐疑的でしたが、それにしても今の流れは、公社化以前に戻るかのような流れです。このような問題が、連立パートナーの国民新党の一存に近い形で決まるのは同でしょうか?

    選挙目当ての話は論外です。国民をなめているとしかいえません。

  10. onyasu0222 より:

    マイネル所長さんへ

    決して感情論ではございませんよ。なぜみんなの党がもてはやされているかを考えてください。お得意の世論誘導でしかありません。

    選挙というものがわかっていないようですね。残念です。