最良の入門書 - ビンモア『ゲーム理論』

2010年05月16日 10:24

★★★★☆(評者)池田信夫

ゲーム理論 (〈1冊でわかる〉シリーズ)ゲーム理論 (〈1冊でわかる〉シリーズ)
著者:ケン・ビンモア
販売元:岩波書店
発売日:2010-03-27
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著者はゲーム理論の第一人者であり、イギリス政府が2000年に行なった周波数オークションの設計者である。当時はITバブルのピークだったため、落札額は350億ドルにものぼり、ニューズウィーク誌は「無慈悲な経済学者が通信産業を破壊した」と著者を批判した。しかしその後の追跡調査によれば、通信産業は破壊されず、新規参入が実現して競争が促進された。このような誤解は、オークションの目的を「政府が金をもうけるため」と考えることから生じる。

本書の第7章で説明されているように、オークションはメカニズム・デザインの一種である。多くの企業が電波をほしがっているとき、誰がそれをもっとも有効に利用するかを、書類審査(美人投票)で知ることはできない。政府は企業について不完全な情報しかもっていないので、すべての企業が「当社がいちばん有効に電波を使う」と申告するだろう。このような情報の非対称性があるとき、彼らに正直に申告させるにはどうすればいいだろうか?

その一つの方法は、彼らが電波の価値をいくらと評価しているかを申告させ、その評価額の大きい順に合格者を決めることだが、口先だけだと業者は無限に大きい評価額を出すだろう。嘘をつかせないためには、彼らにその評価額で電波を買う義務を負わせればよい。そうすると本当に見積もっている価値以上の額を提示すると損をするし、それ以下の額を出すと落札できないかもしれない。したがって自分の評価額を正直に申告することが正しい行動になる。このように本当のことをいわせるメカニズムがオークションなのである。

本書は理論については数式を省いて紹介しているだけなので、教科書としては使えない。しかし哲学や心理学などの幅広い知識にもとづく著者のゲーム理論についての解説は、エッセーとして専門家にも楽しめる。邦訳で230ページ程度の小冊子にゲーム理論の基礎から最先端の話題まで網羅されており、私の知るかぎり最良の入門書である。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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