貸金業法の「総量規制」で悪徳弁護士は2度もうける - 池田信夫

池田 信夫

消費者金融大手の3月期決算によれば、図のように貸出残高は貸金業法の改正前に比べて20%以上減り、6月から始まる総量規制(借入総額を年収の1/3以下に制限する)によって貸出は半減し、10兆円を割るという予想もあります(日経新聞)。総量規制の対象になるのは債務者の半数にのぼるとみられ、大混乱が予想されます。

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さらに「過払い金訴訟」による払い戻しは、昨年も大手4社の合計で3700億円にのぼり、中小の消費者金融は廃業が相次いでいます。盛岡市の元貸金業者が「行政当局は灰色金利の受け取りを容認していたにもかかわらず、06年の最高裁判決で支払いの任意性が否定されたあと、過去の金利に遡及して返還することを認めたのは違法だ」として国家賠償請求訴訟を起こしました。

実際には最高裁判決も無条件でグレーゾーン金利の返還を認めているわけではないのに、その後の過払い訴訟では合意の上で払った金利もすべて返還が求められ、クレサラ弁護士のいうように「借金が貯金に化ける」という、法治国家では考えられない事態が生じています。

日弁連の宇都宮健児会長は「弁護士が多すぎるからもうけ主義に走る」と主張していますが、これは問題のすり替えです。日本の弁護士は人口10万人あたり19人で、アメリカの365人はおろか、200人前後のEU諸国に比べても1割程度です。その少ない弁護士がこういう行動をとるのは、免許が悪徳弁護士の歯止めになっていないことを示しているのです。宇都宮氏も認めているように、過払い訴訟をあおっている弁護士の大部分は債務者を救済するためではなく、楽な金もうけとしてやっている。

これまで日本の司法行政では弁護士を特権化し、彼らの行動についての歯止めは弁護士会の身内の懲戒処分だけでした。しかし今回の事態でも明らかになったように、司法試験は弁護士の倫理をテストするわけではないので、法律を悪用する弁護士が出てくることは避けられない。今までのように異常に競争率の高い司法試験はやめ、資格試験にして「非弁活動」を大幅に認め、その代わり悪徳行為に対する罰則を強化する必要があります。

総量規制が始まると、年収の1/3以上借りている債務者は新規の借り入れができなくなり、今度は「債務整理」と称してクレサラ弁護士が2度もうけることになります。そして消費者金融業界は縮小し、闇金融が拡大し、マネーストックは減るでしょう。政府が「デフレ宣言」をして日銀に金融緩和を迫る一方で、このような実質的な金融引き締めを行なうのは支離滅裂な政策といわざるをえない。今からでも遅くないから、総量規制は延期すべきです。

コメント

  1. noutori より:

    サラ金をめぐる一連の規制の動きは法治国家とは思えない状況です。過去の契約まで法律施行後遡及して適用され「借金が貯金に化ける」のは異常としか思えません。また闇金も商売ですから儲からないと貸付をしないはずで、結局数割の「返さない確信犯」の付けを他の借入れ者が負担するという形で成立している商売です。闇金に走るのは貧困者が多いでしょうから国家の奇妙な法律で闇金という貧困ビジネスを奨励しているという構図だと思います。
     弁護士の数の規制には反対です。「士」をとれば一生の高額の所得が保証されるというのは業界の既得権益保護以外のなにものでもありません。弁護士の中で競争が起こり顧客に選別される。これぞ経済活動ではないでしょうか。肝心なのは弁護士の奇妙な商売を喚起するような制度をつくらないことだと思います

  2. kimukimui より:

    長いコメントになります。すみません。

    まず、宇都宮氏の発言は「ある意味」正しいと思います。私なりにきちんと補足すると、「(社会にとって必要のない)弁護士が多すぎるから(そういう社会から浮いた人たちが)もうけ主義に走る」です。要するに、社会の空気を読めない弁護士が激増しているわけです。そこが他国との違い。なぜ空気が読めないって?裁判実務の話が法科大学院教育の大半を占めるので、それ以外の方法で社会に貢献する術を知らない学生がほとんどなのです。

    密室の話し合いで大枠が決まった司法制度改革により合格者数は増えました。「弁護士を増やせば司法が国民に身近になる」なんてことを関係者はのんきに考えていたんです。が、今は大変な就職難とも言われています。当然です。社会から必要とされない=仕事がない、わけですから。必要のない人を増やせば人は余る。足し算ができればそれくらい予想できるだろと。

    根本的な問題は、法曹教育(法科大学院教育・司法試験・司法修習その他もろもろ)が社会の実体にほとんど適合していないということです。裁判実務を担当する弁護士の数は既に飽和状態にあるのに、裁判実務ばかり生徒に押し付けている(生徒側もありがたく受け取っている)のもその1つです。こういう状況で合格数だけ増やしても、問題となっている悪徳弁護士以下の弁護士を量産するだけです。これでは競争とかいうレベルの問題では無くなります。

    私は前々から、日本の司法制度の将来についてはもっとオープンに議論してほしいと思っていますし、小さい声ながらそう言い続けています。どういう法律家が社会にとって必要なのか。皆さんの知恵と感覚を拝借したいところです。

    そして、過払い問題については、磯崎氏のおっしゃるような「一粒で二度おいしい」事態にならないことを心から祈っています。

  3. nao より:

    日本の弁護士数を諸外国と比較するのであれば、諸外国では弁護士と扱われる司法書士等隣接士業種の数まで含めて比較しないと正確ではないでしょう。

    また、弁護士をさらに増員させて、日本をアメリカのような訴訟社会にするのが良いのかは多いに疑問です。「和」を大事にする日本文化がさらに廃れていくことが危惧されます。また、訴訟多発によって経済活動をさらに阻害することになるでしょう。

    司法試験を資格試験にして「非弁活動」を大幅に認めてしまえば、罰則行為を強化したとしても、よりトラブルが増えるでしょう。
    一部の弁護士の金儲けが目立つようになった原因は、広告規制の緩和、報酬の自由化、独占業務の緩和(司法書士に簡裁代理権を付与)、法曹養成システムの改悪、弁護士数の増大がやはり背景となっていると思います。

    次に「合意の上で払った金利もすべて返還が求められ、(中略)法治国家では考えられない事態が生じています。」という点ですが、利息制限法という法律があり、貸金業者の貸出金利がこの法律に違反していたからこそ返還が認められたのであり、法治国家であるからこその結果です。

    池田先生は、最低賃金法違反や労働基準法違反の雇用契約も、合意があれば有効であり、労働者は法律に則って異議を唱えることは許されないとお考えなのでしょうか。

  4. kimukimui より:

    naoさん

    >弁護士をさらに増員させて、日本をアメリカのような訴訟社会にする

    ご存知だと思いますが、弁護士がみな訴訟弁護士というわけではありません。ただし、日本に必要以上に訴訟「専門」弁護士が多いのも事実です。

    >「和」を大事にする日本文化

    聖徳太子の17条憲法を読めば理解いただけると思いますが、「和」とは本来「議論を尽くした上で一定の結論に達する」ことです。したがって、主張したいことがあれば主張するのが「和」です。単純に以心伝心に身を任せることは「和」とは似て非なる行為です。

    >法曹養成システムの改悪

    単純な改悪にはなっていないと思います。むしろ、旧司法試験制度では余り生まれてこなかったような渉外問題に強い弁護士の卵が少なからず出てきています。

    >利息制限法という法律があり、貸金業者の貸出金利がこの法律に違反していたからこそ返還が認められた

    池田先生もご指摘のように、無条件での返還が認められたわけではありません。なのに、一部の弁護士は無条件返還を要求しているのです。「当事者の合意は尊重する」というのが「法」の基本です。その法に反した行為を行うことが法治国家では考えられない、それが池田先生のおっしゃることだと思います。

    >最低賃金法違反や労働基準法違反の雇用契約も、合意があれば有効であり

    先生の文章は、私法上の契約の効力を無効にするような強行法規違反の合意までも有効にする趣旨ではないと思います。先生の文章をもう一度きちんと読んでください。

    ちなみに、naoさんはどうすれば今の弁護士業界の惨状を変えられるとお考えでしょうか。

  5. nao より:

    kimukimuiさん

    コメントありがとうございます。

     弁護士業界全体の惨状という認識はしておりません。過払い金について問題のある弁護士がいるという認識をしております。東京など大都市の弁護士、司法書士が大々的なCM等で地方において勧誘を行い、そのような弁護士、司法書士が、お金になる過払金の部分だけを受任し、しかも、高い報酬をとり、過払金が発生しない他の負債については手をつけないということが問題であると認識しております。結局、依頼者とろくに打合せもせずに債務者の経済的な更生につながる仕事をしていないことが問題だという認識です。
     これは、広告の規制、債務者の経済的更生に資するような仕事を行うための規制、報酬上限を規制することによって解決すると思います。
     なお、利息制限法では、超過金利はそもそも無効であると規定されております。従って、同法違反の金利貸し出しは、もともと合意があっても本来的には無効なわけです。
     しかし、同法は、罰則規定がないため、金融業者はこの法律を無視し、刑事処罰がある出資法上限金利ぎりぎりで貸し出しをしておりました。さらに、貸金業者のロビー活動によって貸金業法43条が作られたことにより、法律が錯綜し問題を複雑化させました。そして、クレサラ地獄や商工ローン問題等の社会問題にもつながりました。
     法曹養成システムについては、法科大学院における高い授業料負担及び今年秋に予定されている司法修習生の給費制廃止により、お金持ちしか法曹になれなくなるシステム、また、弁護士になっても、法科大学院の奨学金の返済等に負われ、より金儲け主義に走らせやすいシステムは問題があると考えております。なお、専門分野の弁護士の養成、育成については、日弁連で研修を行い、認証するというシステムをつくればよいのではないかと思います。