~「コンクリートから人」という概念の幻想~
三位一体改革が行われ、平成16年度から18年度にかけて総額約4.7兆円の補助金改革が実現した。そのうち、三位一体改革の所得税から個人住民税への税源移譲に結び付補助金改革額は3.1兆円、交付金化されたものが0.8兆円、スリム化により廃止されたものが1兆円という内訳であった。
その結果、三位一体改革前の補助金水準、例えば平成11年度の地方向け補助金等の合計額が19.6兆円であったものが三位一体改革直後の18年度には18.7兆円と減少している。
補助金改革の額に比べ、その後の地方向け補助金の額がそのままの額の減少に結びついていないのは、社会保障関係の補助金が増加しているためである。平成11年度の補助金と平成18年度の補助金を分野別に比較すると、文教・科学振興が3.4兆円→2.0兆円、公共事業関係が6.0兆円→4.2兆円と大幅に減少しているのに対して、社会保障関係は9.0兆円が11.7兆円に逆に増えている。政権交代前の平成21年度では、公共事業関係は更に減少し3.8兆円となっているのに対し、社会保障関係は12.9兆円に増えている。
これが新政権が編成した平成22年度予算では、地方向け補助金総額は21.0兆円、社会保障関係補助金は14.8兆円に激増、公共事業関係補助金は3.1兆円に激減している。今や、地方向け補助金の7割以上が社会保障関係補助金である。地方向け補助金の太宗が社会保障関係といっても過言ではなくなっている。三位一体改革という制度改革を経てもなお社会保障関係の補助金は増え続けている。その背景には少子高齢化の進展という我が国の人口構造の変化という抗し難い現実がある。
同様のことは国の予算全体で見ても言える。平成22年度予算は過去最大規模の92.3兆円。社会保障関係費が最大の歳出項目で27.3兆円と予算全体の約3割を占める。この他に削減不可能な国債費は20.6兆円と予算の22%強、地方の一般財源である地方交付税等は17.5兆円で予算の約19%。この3つの項目で予算の7割以上を占める。公共事業関係費は5.8兆円、6%強、文教・科学振興費は5.6兆円、6%強、防衛関係費は4.5兆円、5%強を占めるに過ぎない。
「コンクリートから人」へと言っても、現実の予算を見れば、少なくともマクロ的には「コンクリート」は極限近くまで削減され、社会保障関係費と国債費でがんじがらめになっている日本の財政の現状が浮かび上がってくる。「社会保障財源を出すために予算を見直す」というのは実際のところは論理矛盾になっているのである。
さて、そのような中で、参議院選挙をにらんだマニフェスト作成の作業が急ピッチである。この際、国全体の経済成長を保つ成長戦略をしっかりと構築するとともに、人口減少社会の国と地方の財政と予算に関し、客観的事実を国民の前に提示し、受益と負担の関係をしっかりと見直さなければならない。当面の選挙民の歓心を買うためだけのマニフェストに堕してはならない。
神奈川大学法学部教授(自治行政学科) 務台俊介
コメント
全くそのとおりですね。
すでにコンクリートも人もない。
現場でも、一昔前と比べると恐ろしく裁量できる予算が減っています。
「無駄の削減」などという発想は時代錯誤で
現実的にはすでに「何を諦めるの?」というステージだと思います。
企業であれば「上位2割の項目で全体の8割を占める」と言う経験則はいやと言うほど目にします。
よって、まずこの大きなものから手をつける、と言うのが鉄則なのですが、今回の事業仕分けなどを見ていると、重箱のすみのような項目を多大な経費をかけて、それも実効が上がっていないと言うのが実情ですね。まずご指摘のように、何が大物なのか明らかにするところから始めるべきです。であれば
皆納得もするでしょう。「ない袖は振れない」と言う現実をね。
日本の医療保険制度が他の先進国と比べて随分いい加減に設計されているのは今更説明するまでもないと思います。
かつての(今もか?)利益誘導型政治と、圧力団体としての医師会、十分なチェック機能のない社会がそれを許してきたのでしょう。
コスト効率の悪い現行の医療体制は今後の高齢化社会には全く対応できないでしょうし(医師の主張する適切な医療のためにはどれだけの金額をつぎ込めというのか)、現在ですら医師・製薬企業への高コストは、他の医療者や介護職員を低賃金に追い込み、制度破綻寸前に陥らせています。
漢方薬の保険はずしの議論で反感を買ったからといって、諸外国が当然のように行なっている医療費の適正化をいつまでも回避するわけにはいかないのでしょう。